皇国前史概略

 かつてこの惑星には一つの大陸だけがあった。


 大地は草木だけが住まう理想郷だった。


 争いがなく、それ故に進歩も進化もない。


 停滞した世界にやがて転機が訪れた。


 星々の海から飛来せし巨大隕石「エブアンゲーリオ」である。


 衝突時の衝撃は甚大で、全域に地殻津波が押し寄せ、すべてが炎の下に消えた。


 陸も海もなくなり、ただ煮え滾る溶岩だけが世界のすべてとなった。


 やがて地表は冷えていき、再び陸地と海が作られていった。


 かつての一つの大陸は巨大隕石によって砕かれ、ただ隕石だけが残った。


 これを「始原の大陸」と名づけた。


 始原の大陸を中心に五つの大陸が現れた。


 いずれも外海に面する側が飛び散った形になっているのは落下時の衝撃によるものだとされている。


 各地で様々な命が生まれては淘汰されていく。


 生き残った種はそれでも手を取り合うことなく、相争う。


 第三の大陸オクシデリアは神々と魔の戦場と化し、そのさなかに人が生まれた。


 か弱く何の力をも持たぬ人ではあるが、神々をも凌駕する力を持つものが現れた。


 それが「惑星の記憶を持つもの」、もしくは「星に愛されし児ステラモール」と呼ばれるものだ。


 その力は神を砕き、魔を滅し、ついには人がオクシデリアの主となった。


 神魔を退けたとしても、今度は人の間で相争い始めた。


 ステラモールはその現状を憂い、身を隠し、ついには世に出なくなる。


 人の世はますます混迷を深めたが、「半神」の種族タルタロス人が圧倒的な力をもって、大陸を統一した。


 タルタロス人が作りし国家は「ザイザフーン帝国」という。


 圧倒的少数が圧倒的多数に圧政を敷くこと、約千年。


 その間、オクシデリアは消極的な平和の裡にあった。


 しかし、苛政に耐えかねた民衆が暴動を起こし、反乱の炎が各地で燃え上がった。


 タルタロス人による統治が衰えていた。彼らは千年もの長い間、緩やかに衰退していったのだ。


 反乱を指揮するもののなかにラウルという青年がいた。


 彼らは反対勢力を糾合し、帝都に迫るや、最後の皇帝「傲兀ごうとつ帝」ルスラン・エクシオウルを一騎打ちで討ち取った。


 反乱の主導者ラウルこそ、後のサンタ・エストレア皇国の初代皇帝「暁鐘ぎょうしょう皇」ラウル一世である。

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