第9話
「リードペンチ」
「はい。」
「M3のプラスドライバー」
「はい。」
ギアの交換がてらギアボックスの部品を全交換しようと思う。
「グリス、開封済み」
「はい。」
思っていたよりも状態が悪い。
こんな状態でやっていたのか…
僕のメンテナンス不足だ。次は万全の状態で行く。
「藍上、0点って、ロボコンの世界ではあり得ることなのか?」
「……その年のルールによるね。年によってはスタートエリアにロボットを置くだけで5点くれるってルールの時もある。」
「なるほどね。」
序盤でも話したが、ロボコンのルールは毎年変わる。
アイテム、得点配分、コート、スタート、障害物…
何もかもが毎年変わるのだ。
その度にルールに適したロボットを作っていかなければならない。
「それがロボコンの嫌なところであり、好きなところでもあるんだよ。1歩進んで10歩下がるような世界でも、僕はこのロボコンの世界が大好きだ。…金属ピンセット」
「いいね、そういうの。はい。」
午後の競技では確実に点を獲る。
「修理完了。ちょっと動かしてみてくれ。」
「はい。アームハンド、閉。」
今度はがっちりホールドしてくれる。
「さあ、行こうか、全国を獲りに。」
現在時刻13:10 P.M.
「いいな?午後はぶっ壊すつもりで点を取りに行くんだ。」
昼ご飯を食べ、いざ会場へ向かう。
午後の競技の順番は点数が低かった順でやっていく。
同じ点数が並んだ時、基本的にそのロボットが持っていたアイテムの数で順番が決められる。
それでも数が決まらなかった場合、機体の重さで決められてしまう。
機体の重さで決められてしまうと、僕たちに勝ち目はない。
今の僕たちでは圧倒的な点数差を他チームにつけなければならない。
「競技開始。」
まずは先ほどと同じようにアイテムの目の前へ。
「もうちょい自動ロボット側に寄せて…ストップ、リフトちょい下降、ストップ。掴んで。」
順調
棒の前までメガホンを持ってきた。
「一度降ろして態勢を直そうか。ゆっくりリフト下降。」
「完了。」
「一度メガホンを放して少し下の方を掴もう。」
「ホールド。」
「よし、それじゃあ、棒に少し近付いて、ゆっくりね。……ストップ。」
これまでで最高の状態かもしれない。
「リフト最高まで上昇。」
モータが動き、歯付きプーリでアームが上昇していく。
「上昇完了。」
「了解、ほんのチョットだけ車体前進…」
「こんなもん?」
「まだ…マダマダマダマダ…ストップ!!」
凄い、ぴったりだ。
「リフト下降」
ゆっくりとメガホンに棒が入っていく。
「ストップ、メガホンアーム開放!」
アイテム、メガホンの1本目設置完了、20点追加。
これだけでもう午前競技の最高得点に到達。
まだ時間に余裕があるな。
「よし、もう1本いこう。」
「了解。」
「よし、機体右旋回。ストップ、前進、ストップ、機体左旋回、ストップ、前進、ストップ…」
スムーズにロボットが動く。
小田中君は今、ゾーンに入っている。
「アーム、開。ゆっくり前進、ストップ、メガホンホールド、確認よし、リフト少々上昇、OK、アイテムの棒まで段差に気を付けて戻ってくれ。」
「了解。」
もしかしてこれ、全国に手が届くんじゃ…
そうしている間に自動ロボットが10点獲得。
現在合計30点。
今大会最高記録を更新。
「ストップ、態勢修正、OK、ホールド。」
「ホールド完了。」
「確認。リフト上昇………OK、ちょっと右旋回、行き過ぎ、左旋回…OK完璧、リフト下降。」
頼む、行ってくれ。
メガホンの位置が安全圏へ。
「ストップ、メガホン開放。」
20点追加。合計50点。
全国出場ほぼ確定。
しかしまだ安心はできない。
「どうする藍上?」
「時間の許す限り、点を獲り続ける。メガホンもう1本!!」
「了解!」
「右旋回、ストップ…」
3本目のメガホン、ホールド完了。
棒の前までメガホンを持ってくることに成功。
「態勢修正。」
僕はその指示を出した直後に問題に気が付いた。
リフトが、メガホンアーム用ではなく、ボールアーム用になっていたことを…
小田中君はあのバグを知らない。
「小田中君!リフトの切り替えが!!」
それを言った頃にはもう遅かった。
彼はボールアームのリフトを下げ始めた瞬間に、リフトが間違っていることに気付き…
ボールアームのリフトを下げ続けながら切り替えボタンを押してしまった。
ロボコン、それはスポーツの視点からロボットで人々を楽しませる競技。
競技時間5分に詰められるドラマは必ずしも理想通りのストーリーを描いてくれるとは限らない。
指示を出し、彼が気付き、慌てて操作を間違えるまで約零コンマ数秒が永遠のように感じられた…
しかし、残酷にもそのバグプログラムは実行される。
__バキバキバキバキ!!
これの止め方は機体に取り付けてある非常停止を押すほかないが、それをやってしまうと、得点がリセットになってしまう。
このバグはボールアームのリフトにのみ影響があるだけで、他の部位には全く影響がない。
「藍上、どうする!?」
きっと、このまま時間を待ったとしても、僕たちは県大会1位で突破し、全国に出場できるだろう。
でも、そんな戦い方を自分がやったとしたら、僕は僕を許せない。
「このバグは機体の動作には何の影響もない!小田中君、落ち着いて制御してくれ!!今持っているメガホンは、得点化する!!」
「り、了解!!」
「ゆっくり前進。ストップ、リフト上昇……」
焦りは、脳の認知機能をバグらせる。
ボタンの押し間違いを起こすには十分な理由だ。
機体は急旋回し、アイテムの棒が倒れる。
僕たちの敗北を煽るように、試合終了のタイマーは、大きく鳴った。
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