第8話

「き、緊張する…」


「大丈夫だ、ハイ深呼吸~。」


 ついにか…


「よし、伊達は自動ロボットの見直し、それ以外は実際のコートで試走といこう。」


 ここは下町したまち工業高校、毎年ロボコンの県大会となっている高校だ。


「よし、そこ!!リフト下降!!」


「リフト下降開始ッ!」


 うん、いい感じだ。


「だいたいこんなもんだろ。本番前に壊れても困るし、一旦控室に持っていくぞ。」


 控室ではロボットの修理、メンテナンス等の作業ができるようになっている。もちろん工具は持参だけど…


「メカナムホイールのネジは…OK全部ついてる。線も、大丈夫。」


「おーい、みんな話がある。」


 会場で先生同士の話が終わったらしい秋谷先生が招集をかける。


「競技は例年通り、午前1回、午後1回で計2回できる。午前は壊れたら困るから慎重にやってくれ。午後のはもう壊す勢いでやっちゃっていいぞ!バラバラになってもしがみつけ。いいな?」


「「「「はい!!」」」」


「それじゃあ、藍上部長主導で戦略を立ててくれ。」


 それから僕は先生がいた位置に立つ。


「みんな、よく聞いてくれ。」


 ボールはピンポン玉とゴルフボール、テニスボールの3種類、点数は種類に関係なく1個10点だ。


 それに比べてメガホンは1つ、棒に挿すごとに20点。5つのメガホンを1本の棒に挿すということで、この棒を倒さないように慎重に制御する必要がある。


「ちなみに、バドのシャトルは飛ばせないけど、飛ばしたら1つ40点で合計120点だ。」


「飛ばせないけどな…」


「まあ、まずはメガホンから動かすって感じにしよう。」


 その時、下町工業の先生が声を出した。


「競技順の抽選やるから代表者は集まってくださーい。」


「お、じゃあ、言ってくら。」


「あいよー」


「1番だけは引くなよ?」


「最後もダメだからな?」


 面倒くさいやつらめ…


「では、まずはチーム名と機体名を1人ずつ訊いていこうか。じゃあ、このチームから。えぇっと…“めたぁあんつ”?」


「あ、えぇっと、METALANTで“メタラント”って読みます。」


「ほう、それで、機体名は…“ライテイ”?」


「それ、雷帝で“イカヅチノミカド”ですね~…」


「イカヅチノミカド!?すごい呼び方するね…」


「そうですか?」


 1分後…


「それじゃあ、この6枚のカードの中から1枚選んで引くんだ。そのカードの数字が君たちの競技順だからね。じゃあ、1番の人から名乗り出て。」


 ………。


「1番、僕です…」


 ごめんみんな、1引いちゃった…




「はぁ…全く…」


「はい、すんません。」


「まあいいよ、むしろ2回目は十分調整してから挑める。」




「競技時間は5分、リスタートする際はロボットとアイテムをもとの位置に戻してからしてください。操縦者は操縦者エリアから出ることができません。また、補助者も基本的に補助者エリアから出ることはできません。いいですね?それでは、競技開始。」


 競技開始のホイッスルが鳴らされる。


 大きなスポーツ用タイマーの数字も減り始める。


 響くモーター音、同時に咆哮するメカナムホイール。


 実は操縦者から今のロボットの状態を細かく見ることはほぼできない。だから戦略担当の僕が補助者として指示を出していく。


「その調子だ!小田中君!!」


「分かった!!この位置はどう?」


「あとモウ…チョッッッットだけ僕の方に寄せて………OK、メガホン掴もうか。」


__パキン…!


 会場に響く何かが割れる音…


 同時にメガホンを掴むアームはプラーンと脱力する。


 おそらくギアが割れたのだろう。


 メガホンを掴むアームは他のアームとは違い、DCモータというモータを使っている。


 普通、アームにはサーボモータという角度制御ができるモータを使用する。


 しかし、今回は小型化をしなければならなかったため、小型の強力なギアボックスを使用し、動かしていた。


 しかし、小型のギアボックスには安全装置が無い。


 したがって、ギアが通常より割れやすくなっているのだ。


__カチッ…カチッ…カチッ…


 いくらモータを回しても、割れたギアが空回りする音が響くだけ。


 直前までは完璧な動作をしていたロボットが、唐突に壊れることなんて、ロボコンではしょっちゅうある話…


「小田中君!!作戦変更だ!!ボールを取りに行け!!テニスボールだ!!」


 時間的に厳しいな…


 でも、一矢報いる。


 報いてやる!!


 今回は自動ロボットが調子が悪くて動いていないから自動ロボットの点数は期待できない。


「もう少し機体を前に、OK、アーム伸ばして。」


 サーボモータが回り、ラック機構でアームが伸びる。


「ストップ、後方リフト下降」


「下降開始。」


__ビーーーーー…


 ボールを取ろうとしたその刹那、無慈悲にもタイマーが鳴る。


 結果は0点。


「小田中君、よく頑張った!大丈夫、これは2回の合計点じゃなくて、2回やっていいほうの点数を反映するってルールだから、2回目で頑張れば大丈夫だよ!!」


「あぁ、そうだね…!」


 僕たちはロボットを控室に持って行った。

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