四十一話 戦争に向けて
蒼佑らが温泉に入り、メリーナとグリエラが話し合っている今、紅美を含めた男性陣は話をしていた。
「随分と蒼佑と仲良くなったね」
「まぁね」
蒼佑と紅美の距離感を見た幸多が彼女に言った。召喚されたその日の険悪な仲や後に彼女が見せた蒼佑に対する膨れ上がった敵意を知っていたため、この変化に幸多は嬉しく感じていたものの困惑もあった。
「しばらくは二人で行動してたから、誰だって自然と距離は縮まると思うけどね。それに、蒼佑は優しいし頼りになるし」
「……そっか」
彼を考えながらそう語る紅美の表情はとても明るくスッキリとしていた。
その様子はまるで大切な人のことを語るそれであった。
「そりゃあ夢愛も好きになるよね。なんかもう、自分がホントに見る目無かったんだなぁって思い知ったよ」
そう自嘲気味に語る紅美は眉尻を下げていたものの口角は上がっており、決して落ち込んでいる訳では無いことが見て取れた。
「そういやコウタはよぉ、もしソウスケと帝国が争うことになったらどっちに付くつもりだ?」
そんな話をしている時に、ロックはそう幸多に問いかける。
当然ロックらも幸多らも帝国が蒼佑に行った話は知っているのでその状況は容易に想像できた。
「俺は、やっぱり蒼佑のそばにいたいです。アイツは大事な友達ですから」
「ってことは、帝国と戦うってか?」
幸多の答えにロックがそう問いかけると彼は答えずに顔を伏せる。
彼にとっては帝国にも育ててもらった恩というものがある。加えて五年前の皇帝の愚行を知らないというのもあって、完全には憎めずにいた。
とはいえ蒼佑の命を狙ったことは許せないことであり、幸多にとって彼は非常に大切だったからこそ、やはり許せなかった。
「俺は、戦います」
「……良い眼だ」
力強くそう言った幸多を見たバレットが、ポツリと呟く。ロックはニヤリと口角を上げていた。
口には出ていないものの、それは紅美も同じ気持ちであり、彼女も蒼佑に対しては友人としての感情を抱いていた。
それに過去に行ったことへの罪悪感や命を助けられた感謝の念など、様々な情もある。
命の危機に瀕死ことで考え方が大きく変わった結果であり、それはチュリカの計画通りであった。
「もちろんそうならないことが一番だが、もしそうなればこの間みたいな激しい戦いになる。その覚悟はしておけよ」
「当然です」
バレットの言葉に幸多は力強く言い切る。自分の友人を害するというのなら許さないという明確な意思が彼からはしっかりと感じられた。
そんなこんなで休憩が終わり、蒼佑をリーダーにした皆が一度フラシア王国の領土内でかなり東寄りに位置する街、そこで野営の為の食糧や医療道具を買い込み、また武器等の手入れや予備などを揃えて魔族の領土へと向かった。
ここからはまた数日ほどの移動になる。
その中でこれからの戦いに覚悟を決める蒼佑やロックたちだが、幸多たち向こう側のメンバーはどちらかというと緊張の方が強かった。
先日に行われた魔族四天王が二人で率いた軍との戦いを踏まえ、それより更に苛烈な戦いになることは明白であり不安になるのも当然であった。
戦いが始まるのは、まだ少し先である。
そして、魔族領の中でも魔王がいるとある部屋。今 彼女は一人でそこにいた。
魔王ソフディス……それが彼女の名であった。
従来ならば前回の戦争から百年程度は開けるものであるが、彼女はそうでなくすぐにでも戦争をすることに決めた。
ソフディスは元々魔王の立場は性格上合わないと感じており、その理由は彼女が戦争によって命失われることに深い悲しみを感じているからである。
しかし人間たちとの戦争は古来から続くものであり、それには初代魔王の掲げた理由が存在し、それは彼女も共感することがあったために、自らの
また彼女はあくまで成長途中であり、まだ戦いにも未熟であることから勇者に敗北し殺されることを心の底で願っている。
ちなみにの話であるが、現段階のソフディスの実力は先代魔王を既に凌駕しており、彼女は先祖返りと呼ばれるほど歴代魔王の中でも初代の力を色濃く受け継いでいると称されていた。
またその影響を受けた魔族達も強力であり、特に今代の四天王はやはり先代よりも強かった。
それはグラット達の兄が言った通りであった。
ソフディスは、今回の戦争で負けることも勝つことも、その結果は世界の意思であると受け入れているため人間への同盟は考えていない。
もしあるとすれば自分が死んだ後ということである。
彼女の内にある先代魔王の血がそれを許さないのだ。
「……もう、来るのかな?勇者がこっちに来てる気がする」
自室の窓に手を当てながら遠くを眺めた彼女がポツリと呟く。
勇者の放つ気配に遠くからでも薄らと感じ取っていた。それはその血にある直感が多分に含まれているのではあるが。
「あーあ、せめて旦那さんとか欲しかったなぁ……なんて、まだ死ぬわけじゃないか」
ソフディスは魔王だが、それ以前に一人の女の子である。純粋な年齢でいえば三十年以上は生きているが、魔族の感覚になぞらえてしまえば人間でいう十代後半に差し掛かったあたり、つまり蒼佑らとほぼ同じくらいだ。
恋だってしてみたいという年頃である。
「もしかしたら勇者とそんな関係になったりして……ってそりゃないかー」
誰に聞かせるでもなく、彼女はそう独り言を続けていた。それだけみれば微笑ましいかもしれないが、その本質は彼女の立場からくる孤独さを紛らわす為のものだと考えれば切ない話であるとも言える。
まだ、
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