四十二話 魔王との対峙

 魔族領に侵入した蒼佑たちは、さっそく魔族からの熱烈な歓迎を受けていた。

 とはいえ襲い来るのは一兵卒で、彼らではその足を止めることは叶わない。


 着々と魔王の居城を目指しながらそちらに近づくが、とはいえ未だ領内に入ったばかり。

 実際に魔王城に到着するのは翌日か翌々日といったところだ。


 しかしさすがに目撃者の全てを始末するなどという芸当はあまりにキツく、恐らく魔王にも蒼佑らの侵入が知られることは時間の問題だろう。

 そうなれば魔族四天王が出張ることは間違いなく、戦いは苛烈を極めるはずだと皆がそう確信していた。



 しかしその予想は裏切られ、そんなこともなく魔王城を目前としてしまった。

 なにか作為めいたものを感じるが、蒼佑らに引き返すという選択肢はなかった。

 その先を強く見据え、力強い足取りで進む。


 目立たない場所に馬車を隠し、彼らは城に入ろうとした、しかしそれは防がれることになる。


 ここでは蒼佑の魔族感知もあまり機能せず、気付けるのは極めて近くなってからのことだった。


「また貴様らか!」


「ほう?こやつらがお前たちに煮え湯を飲ませたというのか」


 城の前、その場所に立っていたのは帝国に進軍をしていた四天王二人、そして彼らと同格と思われる魔族。加えて更に強い圧を持った魔族が二人、後ろに控えていた。

 控えていたと言うより、待ち構えていたという方が適切かもしれないが。


「まさか、幹部総出ってわけか?」


「クハハ、お前たちを待っていたからな。出迎える準備は整っているのだよ!」


 彼らから感じられる魔力から実力と立場を察したロックの言葉に四天王と目される魔族が笑う。その顔には余裕が宿っていた。


 そして、蒼佑が後ろにいる一人の少女を見た時、まるで恐怖を感じたような表情になり冷や汗が止まらなかった。

 そして、彼が口を開く。


「まさか……まっ魔王……か?」


「……ふふ」


 蒼佑の問いかけに魔王は笑顔で返す。その姿だけみれば可愛らしいが、彼から感じられる圧がより恐怖を植え付けた。


 絶対的なその圧に皆が一様に汗をかく。

 しかし蒼佑らは引く気はなかった。かつての魔王以上のプレッシャーだが、それでも戦いを辞める訳にはいかなかった。


「……け」


 魔王がそう言って指を鳴らすと、五人の魔族達が一斉に蒼佑たちに向かう。



 傍観を決め込んでいる魔王だが、それは他の魔族があまりに強すぎたことにある。

 魔力と武力ともに極めて強い四天王だけでもかなり手こずるが、彼らよりもさらに強い魔族の存在があまりに厄介だった。


 蒼佑と幸多が彼と戦い、その他のメンバーで魔族四人を相手していた。

 勇者二人を相手にしているというのに苦戦する様子を見せない彼は相当に強いことは見ての通り。


 そして八人を相手にしながら充分に戦えている四人も先代の四天王とは比べ物にならなかった。

 バレットの力強い防御で気を引き、ロックやメリーナとグリエラが隙をついて攻撃、それをアシュリーと夢愛が援護する。

 サラと紅美が支援魔法で能力の底上げを行っているが、それでも戦力は拮抗していた。

 このままではジリ貧であったが、なんとか蒼佑らが相手の魔族に致命傷を負わせたところで戦いは優勢になる。

 たとえどれだけ強くとも、勇者の魔力を受け続ければ魔族というのは動きが鈍る。それは彼も同じであった。


 その魔族にトドメを刺そうとしたところで魔王の横槍が入り、彼女はそれを回避した二人に向けてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「勇者二人……それでも所詮はその程度か、つまらん」


 そう言った彼女から放たれた圧は、そこにいる全員……魔族さえも萎縮させた。

 どうやら蒼佑でさえも彼女のお眼鏡にはかなわなかったらしい。


「やはり下の者たちは連れてこなくて正解だったな。お前たちの相手などこの私……ソフディスだけで充分だ」


 それはまさに、勝利の宣言であった。


 彼女が空に向けて手を上げると、バチバチとその手から音が聞こえてくる。

 まるで何かが一瞬光るような、触れれば危険なようなソレは青白かった。


「人がなぜ雷を魔法として使えないか知っているか?」


 唐突に出た彼女の言葉。実際 雷魔法というのは使える人間がいない。イメージはできるが、それでも使える人間がいないのだ。

 魔族でも歴代魔王でも三人しか使えなかったほどに 大きな魔力や素質 が必要なのもそうだが、人間の場合また別の理由も存在していた。


「人間の筋肉は雷と性質の近い反応で動いているそうだ。体の動きを司る脳から神経を伝わって筋肉に命令を出す……そこにもし強烈な雷が入ればどうなると思う?」


「……まさか! 」


 蒼佑たちは向こう側で学んだことがあるが、人間の神経はほんのわずかな電気のようなものによって筋肉を動かしている。

 もし人間が雷魔法を使えば、その雷が筋肉に伝わる信号を邪魔してしまう。つまり相性が悪いのだ。

 人間の身体に存在する水分のせいで、自身が放つ魔法は手先から必ず伝わってきてしまうのだ。


「さぁ、雷の阻害いりょくを受けるがいい!」


 彼女の手から放たれた雷が辺りに広がり、皆の足元を駆け巡った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る