三十七話 あっけない最期
例の魔族が街に現れ、蒼佑と応酬を繰り広げる。
大袈裟に剣を振り、魔族が拳でそれ受け、その反動で跳躍した蒼佑はその反対に降りまた剣を振り魔族はそれを肘で受ける。
縦に横にまた袈裟に斬りかかるがその全てを
しかしそれは魔族も同じで、その手を拳にしたまま攻撃できる隙を窺っていた。
彼がその手を貫手にしないのは、蒼佑の攻撃できる手を損傷する危険性があると判断したためだ。拳の方が力が入り損傷を受けづらい。
互いにこの戦いを終わらせるための一撃を、いつ与えられるかとその時を虎視眈々と狙いながら激しいやりとりを繰り広げていた。
凄まじい圧と衝撃波が辺りを震わせ続け、互いの足元の地面がビキビキとひび割れ小さなクレーターがいくつもできていた。
そして、魔族の方は蒼佑の持つ勇者特有の魔力によって脱力感を感じている。その肩には苦痛に近い倦怠感がのしかかり思うように体に力が入らないようだ。
「ックソ!なぜこんな……」
魔族はギリギリと歯を食いしばりながら自身の体に起きている異変に苛立っていた。
次第に動きは鈍っていき、最終的には蒼佑に追いつけないほどに早くなり遂に致命的な一撃を食らった。
「あっ……ぐっ……」
すると、紅美の様子がおかしくなる。それは眷属化の影響であった。
おそらけ魔族の命が脅かされているからだろう、彼を助けようとする体を彼女はなんとか止めようとしていた。
あの時の繰り返しにならないように。
「ふふっ、もし俺をこれ以上傷付ければあの女が俺のものになってしまうな?」
それに気付いた魔族がニヤリと口角を上げて勝ち誇ったように言った。
蒼佑はそれを暗い瞳で見つめている。
「ソウスケ!」
遠くから聞こえてきた声に、蒼佑も魔族も驚きそちらを向く。その声の主はロックで、四人ともこちらに急いで向かってきていた。
実は依頼の最中に嫌な予感がしたバレットがすぐに引き返そうと言って、二人もそれに頷いてこちらに来たのだ。
バレットは伊達に一人森の中で孤児となってはいない。
「クレミのことは私たちに任せて、ソウスケはヤツを!」
「分かった!」
蒼佑の心配を払拭するようにサラが言って、彼もそれに力強く頷いた。
鋭い眼差しが魔族を貫く。
「ぬぅっクソ!」
望みの綱を失ったことで全力になった魔族が蒼佑に攻撃を仕掛けるが、今の彼はとても冴え渡っていた。
剣に纏った魔力、それが光り輝き魔族の身体を縦に一閃。
周囲の者たちが
迷いや心残りモヤが晴れた人間は、その時でこそ真価を発揮するということを結果で表した蒼佑であった。
蒼佑の一閃は確実に魔族の身体を両断し、その勢いは止まることなく地面に大きな傷跡を残したらしい。
当然魔族は亡骸すら残ることはなく、まるで初めからいなかったかのように、周りに与えた影響に対してあまりにも呆気ない最期であった。
「紅美!」
事を終えた蒼佑はすぐに紅美の元へ向むかった。
彼女は意識を失っており、深い眠りについていたようであった。
「ソウスケがすぐに決着を付けてくれて助かった。もし長引けばクレミもどうなるか分からなかったからな」
ホッとしながらそう言ったのはバレット。
当然であるが、いくら眷属化して強くなったとはいえ紅美相手に四人では遅れなどとらない。
むしろ危険だったのは紅美の方と言えるだろうことは、蒼佑も理解していた。
「そうか……ありがとな、みんな」
「おう!」
「どういたしましてだな!」
「ふふっ、えぇ」
「力になれたのなら、嬉しいです!」
これで一安心だと、そう思った蒼佑のお礼に四人とも嬉しそうに頷いたのだった。
それから数日後、蒼佑らはすぐにでも紅美を幸多たちのパーティに戻そと思い街を出立した。
ちなみに魔族を倒したことでその功績が評価され、蒼佑のランクはマスターのAランクであった。
ちなみにそれは皆が不服としていたが、蒼佑のランクについてのソレは魔族の実力が分からなかったからということらしい。
それを見ていた皆が何も言わなければ、下手すれば一切の功績が認められなかった可能性もあった。
もしユニオンの職員が魔族の強さを知っていれば話は別だが、彼の強さを知っていたのは蒼佑らだけである。
ロックらが蒼佑とは仲間であることも周知されており、彼らの証言は仲間びいきであるとされてしまいこの結果だ。
ちなみに四人だけでなく吹っ飛ばされた冒険者たちも戦いを見ていたそうで、彼らも同じく証言したそうでブチきれていたそうだが、それでもにべもなかったらしい。
蒼佑はランクについてはあまり気にしていないようだ。
「ねぇ蒼佑」
「どうした紅美」
「……ありがと」
今は紅美が御者をしており、その隣に蒼佑が座っている。
彼女は蒼佑に魔族を倒してくれた礼を言って、それを受けた彼は少しだけ逡巡し、 ふっと笑ったのだった。
彼と紅美は、少しだけ仲良くなったのだ。
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