三十八話 魔族の軍

 一週間ほど馬車を走らせた蒼佑そうすけたちは、最後に幸多こうたたちがいたとされる街へ向かった。

 彼らの活動圏内というのもおかしいが、それでも未だに幸多らは勇者パーティとしての経験値を積んでいるエリアだ。

 そのため、その辺に入れば彼らと会えるだろうと踏んだ蒼佑らであったが、果たして思った通りであった。


「久しぶりだね、蒼佑」


「おう、夢愛ゆめもアシュリーも久しぶり」


 暫く会えなかったことで懐かしむ二人。蒼佑も後ろの二人にそう笑いかける。


「ああぁぁソウスケ成分んん……!」


「ひっ久しぶり!」


 久しぶりに彼に会えたことでアシュリーは錯乱し思い切り彼を抱きしめ、夢愛も同じく飛びついた。どうやら二人はもっとしっかりアピールすることにしたようだ。


真木まきさんも、久しぶり」


「えぇ、久しぶり」


 紅美とも顔合わせをした幸多だが、二人の間にはどこか気まずい空気が流れていた。

 そして彼女は、急に頭を下げる。


「迷惑をかけて、ごめんなさい!」


「えっ?えっと……」


「紅美ちゃん……」


「へぇ……?」


 そんな紅美の謝罪に困惑した三人だが、それでもソレをすぐに受け入れた。

 そして彼女は話した、ここに来るまでの心境の変化を。


 そして紅美が向こうで行った、蒼佑に対する仕打ちを。

 少しずつ歩み寄っている今だからこそ、自分の後悔を話して許してもらうことをしなければ本当の意味で仲間にはなれないと思ったからだ。


 当然、幸多も夢愛もソレに怒りを露わにしていた。蒼佑はなんとも言えない表情であったが。

 しかし三人ともが、紅美の態度を見てこれ以上責めることは良くないと感じた。

 ことの是非を決めるのはのちとして、それでも一度飲み込むことにしたのだ。


「戦いが終わったら一度しっかり話し合おうか」


「えぇ」


「……でも、何話すんだ?」


「えっと……」


 事については後にしようと話した幸多であったが、蒼佑はどうしようかと首を貸しげて珍妙な空気になった。

 それでも、良くない誤解は解かれたのだと今はひと息つくことにした。


 しかし、ここであまり良くない話が出てきた。

 この街の門をくぐったところでメリーナが情報収集のために単独行動をしていたのだが、その彼女が血相を変えて皆のところにやってきた。



" 魔族が大軍を成してイルギシュ帝国の領内に侵入し攻撃を始めた。帝国騎士団が対応に向かったものの抵抗むなしく為す術もなく全滅、恐らく幹部級が複数存在するものと思われる "


 メリーナからそれを聞いた蒼佑たちはすぐに対応しようと、そちらに向かうことにした。




「ふんっ、他愛もないな」


「ソフディス様もなぜ、こんな国を?これだけ弱いならば捨ておけばいいものを」


 自分らの率いる軍に帝国騎士団が向かってきたことでらそれを返り討ちにしたことでボヤくこの二人は魔族四天王の呼ばれものである。


「なにか理由があるのだろう?あやつも死んだということらしいし、心置き無く戦えるというものだ」


「それもそうだな、さっさと終わらせたいものだ」


 今回の目的は帝国の街をいくつか滅ぼすことだ、数千という数を形成したこの軍であればそれもそこまでかたいことでもない。

 既にひとつの街を滅ぼし、もう一つの街に向かおうとしていた。


「……ふむ、これは……」


「……強いな」


 彼らは突如感じた気配に関心を示した。その気配から感じられる魔力から、相手が相当の手練であることは明白であった。

 その気配はじきに近付き、すぐそこまで来たところで彼らは気付いた。

 ソレが勇者のものであったこと、しかも二つである事に。


 二人は軍を率いるために先頭に位置しており、前から向かってくる気配の正体はすぐに目の当たりにすることができた。


「ふむ、お前たちが……」


 そこに現れた十人の冒険者たちに、魔族は目を細めた。そして一番前に並んだ二人が、勇者であるとすぐに分かった。


 両者共にじっと睨み合い、ビリビリとした空気が辺りに満ちる。それは凄まじい圧であり、並の冒険者たちであれば萎縮し動けなくなってしまうほど。

 しかし幸多は勇者であるからこそだが、夢愛や紅美でさえも積み上げられた経験が彼女らを強くさせ、今ここで対峙していられる。それは成長であった。


 魔族は今、これから起こる激しい戦いにようやく退屈がしのげると思いニヤリと口角を上げた。

 もう一人の魔族は困ったような顔をしているが、纏う雰囲気は強者を待ち焦がれた者のソレである。

 

 蒼佑らは相手の数がかなり多いことに過去を思い出していた。多数を相手取る時のノウハウを持ち合わせている彼らは、未だその経験のない幸多らにもある程度伝えていた。

 だからこそ、これがはじめての実践の機会だ。


 ビリビリとした空気が次第に強くなり、それが最高潮に達したとき……


 どちらともなく、戦いは始まった。

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