十四話 襲撃を受けた勇者

 蒼佑らがアシュリーの元へ向かっている今、一方で幸多らはアシュリーのいる建物に辿り着いた。

 それは小さな何でも屋のような場所モノで、その町での困り事をユニオンよりも安く、且つ早く解決してくれるという店。


 ユニオンは依頼者と冒険者らの仲介をするという性質上、どうしても早さに欠けてしまう。

 それにユニオンを運営するためには金も必要であり、それを徴収するのが報酬に含まれる中間マージン。正確には報酬の中にユニオンの取り分というのが存在しているのだ。その分依頼者は報酬を少し多めに出さなければ、依頼を受けて貰えないこともある。

 その分確実に依頼を達成出来る人間に仕事を任せられるため、ユニオンはその市場を独占している。


 しかしアシュリーの店ではその マージンが発生しないためより安く、そして受けた本人であるアシュリーが依頼をこなすため他の人に斡旋等をする必要がなくその手間もない。

 またアシュリーの腕っ節ならば大概の害獣や魔物は討伐出来、ちょっとした依頼なども出来るため一人の割にできることは幅広い。

 そのためこの町ではかなり重要な存在となっている。



 そんなアシュリーの店にやってきた幸多らはその中に入ってそこにいた彼女に声をかける。


「あの…あなたが前の勇者パーティの、アシュリーさんですか?」


「えぇ、そうだけど?」


 嫌という程に聞かれた内容に彼女は苛立ちを隠さずに聞き返した。

 だったら何だという態度を全面に押し出している。


「俺は今回召喚された勇者の、和泉 幸多です。あなたの協力が欲しくて来ました」


 幸多は敢えてストレートに伝えた。

 ここで下手にアレコレ言ったところで無駄だと判断したため。それは真っ直ぐなお願いだった。


「へぇ?女の子三人侍らせて随分贅沢なものね、そんなチャラいヤツに何ができるのかしら?」


「アシュリー殿、勇者殿に対してその物言いは…」


「うるさい」


 勇者と聞いたアシュリーはかつて傍にいた想い人を幸多に重ねるが、その思い出とそこにいる彼とのブレに苛立ちそう言った。

 そんなアシュリーに対し、グリエラがそれを窘めるが、しかしアシュリーは聞く耳を持たない。


「アンタがどれだけの強さを持ってるかアタシは知らない。まずはその強さを見せる事ね」


「分かりました」


 アシュリーの言葉に頷く幸多であるが、彼は彼女を見て内心気が気でなかった。


(こんなに可愛い人だなんて……ダメだ!俺は、勇者として…)


 そう、アシュリーに一目惚れしてしまったのだ。

 ツインテールにしたサラサラのブロンドの髪、クリクリとしたほんの少し赤みがかった黒い瞳。

 小柄でありながら堂々とした佇まい、そしてはっきりと感じる存在感に惹かれていたのだ。

 恋に揺れる心に翻弄されてしまった彼はなんとしてでも彼女に認められようと決意した。

 その本意は彼女の傍にいることだが、本人にはその自覚がないようだ。恋などした事のない彼には彼女への気持ちを持て余している。


 彼らはこの町で一泊し、翌日またアシュリーを説得するつもりだ。というよりどうやって幸多の力を見せるのかという事もあった。

 しかし翌日、中級魔族の率いる部隊が現れそちらの対応をしなければならなくなった。どうやらヤツらがここに来たのは、勇者がこの町にいるためであり、アシュリー共々始末してやろうという魂胆らしい。


 前に幸多らが倒した、オルスという町に現れた魔族は下級でありその中でもかなり弱い個体であったが、今回の個体は上級に迫る実力を持った個体である。

 それが三体……到底軽くあしらえるものではなく、ソレから感じられるプレッシャーに幸多らだけでなくアシュリーでさえ固唾を飲んだ。


 彼女もせめて蒼佑達前のパーティがいればもっと余裕もあったろうが、ないものを願っても仕方ないと気を引き締めた。


「とりあえずそこの勇者!それと…そこのアンタ、アンタら二人は気を引いて!」


 アシュリーはすぐに幸多とグリエラを指さして指示を出した。

 続いて夢愛と紅美に別のに指示を出す。


「アンタらのポジは?」


「わ、私は攻撃魔法が使えます! 」


「アタシは支援なら」


 夢愛と紅美はそう答え、それに合わせた指示をアシュリーが出す。

 二人はその指示を聞き、拙いながらも動く。


(くっ、指示は聞いてくれるけど遅い!アタシ一人じゃ…)


 アシュリーは元より幸多とグリエラに期待などしておらず、加えてさきほどの二人の動きを見て焦りを感じた。


 幸多とグリエラは魔族を相手しているがどうにも押されており、もう一体の魔族をアシュリーが相手することになる。

 魔物たちは夢愛と紅美に任せているが…かなり不安である。


「クハハッ!前の勇者の仲間と聞いた、少し強いだけの人間がどれだけ戦えるのか見せてくれ!」


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