十三話 友好的な魔族

 大海原へと繋がる巨大な港町、ここはフラシア王国の港町ペストル。

 ここでは旅人向けの中型の旅船だけでなく、沢山の物資を抱えた商人たちの為に馬車も載せられる大型の船がある。

 加えて魔法による推進力もあるのでとても速く進む、その速さたるや魔法がなければ一週間はかかる距離を三日で終わらせられるほど。

 魔力による推進力はそれだけ安定性とスピードを両立した速度を淀みなく出すことが出来るのである。


 蒼佑らは手続きを済ませすぐに乗船した。

 船の上、つまり海の上という逃げ道のない場所ではあるが、これといって大きなトラブルなく進むことが出来た。……つまりどういうことかというと。


「やっぱり船の上の方が安全だったな」


「そうだな」


 無事にオラトリアの大地をふみしめることができた蒼佑の感想にロックがそう言った。

 呆気ない程に無事に終わった航海だが、実際こんなものである。

 海上は陸地と違ってそうそう襲撃などという憂き目には遭わないのが実情だ。

 それこそあるとするならば座礁のようなヒューマンエラー、そして高波や悪天候になる。それでさえ滅多に起きない。波や天気だって事前に調べておけば大抵の悪天候は避けられる。

 なので拍子抜けなほど楽な船旅となった一行である


 これからは港町を抜け、フラシア王国と同じほどの大きさがある大陸を横断することになる。

 目指すはアシュリーの元だ。


 だがいくら馬車とはいえそこそこの距離を移動する、ここからは一週間以上の旅となる。

 あちらの大陸と違うのは、オラトリアの大陸は肥沃な大地なだけありその影響で強力な魔物も存在している。

 険しい道中になることは想像に難くなく、一同は気を引き締めるのであった。



 港町を発ち二日後、蒼佑はとある気配を感じ取った。……魔族の気配だ。

 彼が歴代勇者の中でも最強とされる所以はここにある。ある程度の距離に存在する魔族を察知できる力。

 視認できなくとも方角が分かるため魔族殲滅に多大な戦果を出していた。


 彼だけが持つ、特異な力である。


「あぁ、あれだな」


 木陰に姿を隠した蒼佑が先頭に、小型の魔族たちが築く集落を見つけた。……ゴブリンだ。

 魔族の中でも体は小さく力は弱い方だが魔法を使う個体がいれば油断はできない。

 下級とはいえ魔族は魔族、知能は高いので面倒な相手でもある。ちなみにオルスにて襲撃してきた魔族の大半もゴブリンであった


「大きめの集落ですね、メイジタイプは十体ほどですか……」


 ヤツらを見たサラがそう言った。

 メイジタイプは十体 というのは、つまりあのゴブリンの群れの中でそれだけいる ということだ。他にも雑魚がたくさんいる。

 ゴブリンの集落であればどこでも大体それくらいだ。平均的と言えるだろう。

 ただ、街道からそこまで離れていない場所に集落がありさらにゴブリンの発見報告が無いことを考えると、もしかしたら敵対してこないタイプの可能性がある。

 それを踏まえて、蒼佑は接触を試みた。

 武器をしまってヤツらの前に出るが、思いの外温和な雰囲気であることが分かった。


 少し警戒するような視線は向けられるものの、たった一人の人間に対し攻撃をしてこないことを見るにかなり平和的なタイプなのだろう。


「オマエ、ナニシニキタ」


 一体のゴブリンが蒼佑にそう言った。

 そりゃ自分らのエリアに見知らぬ人が現れればそうなるだろう。彼の言い分はもっともだ。


「いやすまない、少し道に迷ってね。すぐいなくなるから気にしないで」


「……ソウカ?」


 道に迷ったという言葉に反応したのか、ゴブリンが心配そうにそう尋ねた。

 蒼佑の考えは確信に至り、ゴブリンらに笑顔で手を振って立ち去ると彼らも元気に手を振り返した。


「大丈夫だ、かなり友好的な性格だったから襲われることもないだろ」


「それなら良かった」


 魔族にも沢山の性格を持った者がいる。

 中には今のゴブリンのように争いを好まないものもおり、反対に好戦的な種もある。それこそ千差万別なのだ、打倒魔王を掲げて旅をしていた蒼佑達であるからこそ知っていることである。


 安心した蒼佑らは目的地に向かうために進み始めた。

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