九話 フラシア王都へ

 魔族の襲撃を退けることに成功し、勇者である幸多達は領主に呼ばれたらしく、領主の館へと向かっていった。


 蒼佑達はロックが倒した魔物達の素材が、量も質もあったことで多額の金を手に入れることが出来た。

 それを使って日にちにして約七日分の野営物資を買い揃え、そのままフラシア王都へと出発した。


「すまないな、俺の都合でそのまま出てきちまって」


「何言ってんだ、ソウスケはあいつらと会いたく無かったんだろ?」


「そうですよ、気にする事はありません。事情は伺っていますし、私たちにとっては慣れたものではありませんか」


 本当はオルスで一晩明かしてから出るつもりであったが、幸多達がいた為あまり町にいたくなかった蒼佑の気持ちを優先し、ロックとサラは出発を提案した。


「ありがとな、間にいくつか町がある筈だから、もし良ければそこで都度ゆっくり休もう、しっかりと体を休める時間も必要だしな」


「そうですね、それでしたら今日の夜にでもお互い隅々まで確認しましょうか?」


 そう言いながら蒼佑の腕にサラが絡みつき、誘惑するように甘く囁いた。


「いや…まだ一日目だろ、戦いがあった訳でもないし…」


「では戦いがあればいいんですね?それなら明日でもいいんですね?」


「うぇ?ぉ…おぉ…まぁいいんでねぇの?」


 サラの圧に気圧されてしまい、ついつい肯定してしまったが、意外と満更でもない蒼佑を見てサラはニコニコ顔である。

 ちなみにロックは後ろで腹を抱え笑いを堪えている。


「あの時はずっとアシュリーに独占されてましたからね、今度は私の番です」


 どうやらアシュリーがいたので近寄れなかったそうな。

 確かに彼女は蒼佑が11歳という若さだった事もありずっと隣にいて、宿でも必ず同じ部屋、寝る時も抱き合って寝ていたし体を洗う時も一緒だった。


 しかし今はそれがないので、サラはその役を嬉しそうにやろうとしていた。


(落ち着かない日々になりそうだ…)


 しかし蒼佑も年頃の男性、綺麗な女性に抱き着かれて嫌なはずもなく、嬉しながらも恥ずかしい日々が続いていった。



 一方その頃幸多達は、魔族との戦いで大きな戦果を挙げた二人の冒険者について調べていたが、町から出てしまっていることに落胆したのは言うまでもない。

 行き先も知らない為、諦めてそのままオストリアに向けて出発したらしい。



 そんな事も露知らず、蒼佑達は果たして王都に到着した。

 バレットは小さい頃世話になった孤児院にいるはずなので、そこに向かうことにした。


「失礼します、こちらにバレットはいませんか?」


「えぇっと…失礼ですが、どちら様でしょうか?」


 孤児院に務めているであろう女性にバレットの事を尋ねたが、怪訝そうに誰何されてしまい、正体を未だ明かしたくない蒼佑はどう答えようかと困ってしまった。


「申し訳ありません、彼はバレットの友人なのです、バレットに会わせて頂けませんか

 …?」


「えっえっ!?えと…もしかし、もしかしてサラ様ですか!?」


 女性はサラを見て安心したようで「サラ様がそう仰るのでしたら是非!」とすぐに教えてくれた。


 と言ってもいつでもいる訳では無いが、定期的に訪れるらしく今日がその日らしい。

 しばらく子供達と遊んでいると、懐かしい声が聞こえてきた。


「おらー!クソガキども元気にしてっかー!」


 口は悪いが子供達に会うことを楽しみにしているような声、バレットがやってきた。

 蒼佑を見るなり怪訝な顔をした。


「んん?誰だあんた、コイツらが懐いてるってことは悪ぃ奴じゃねぇだろうが」


「さぁ、誰だろうな?」


「あぁ?あんたが俺に会いに来たってヤツじゃねぇのかよ?」


「あぁ、その通りだよ」


「んー?んーんー?なんか見覚えあんだよなぁオメェ」


 バレットは蒼佑をジッと見ながら唸っている。


「いやいや、いつまでかかってんだよバレット」


「あ?ロック?ってかサラまでなんでここに…」


「いい加減気付いたらどうですか?」


 部屋の奥から二人の様子を見ていた別の二人が、見るに見かねて声を掛けたがバレットはあの少しの所で思い出せないようだ。


「俺だよバレット、戻ってきたんだ」


 蒼佑のその一言でバレットは遂に思い出したようだ。


「…う、嘘だろ…ソウスケかよ…」


「やっと思い出した?」


 ここからは昔のメンバーとの話ということで、流石に子供達と別の部屋に移動し、今までの経緯いきさつとこれからの話をした。


「じゃあここで王様と話をした後はオラトリアに行くのか」


「そういうことだ、また長い事ここから離れることになるわけだし、バレットが嫌だと言うのなら着いてこなくても…」


「ッハ!ざけんな!お前らほっぽってのうのうとやってられるか、連れてけバカヤロー」


 豪快に笑いながらそう告げてるバレット。

 彼も蒼佑のことはとても心配しており、久しぶりに会えたことに大きな喜びを感じていたようだ。


 その日は一晩、バレットを交えて昔話に花を咲かせ、楽しい夜を過ごした。


 バレットを仲間に加えた後は、フラシア国王と謁見することになる。

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