八話 仲間を加えて
「お前もコイツを見れば分かる」
「はぁ…?見ればって……ッ!」
蒼佑を見たサラは絶句し、彼を見つめた。
なぜ彼がここにいるのかと驚き二の句を継げないでいた。
「あー…、サラ、久しぶりだな」
「…もしかして…ソウスケ…?」
頭に手を当てて目を逸らしそう言った蒼佑にサラは呟くように問いかけた。あの時の面影を残しつつ、大きくなった彼を見紛うはずもない。
しかし周りからは何が起こっているのかよく分からないままであった。
「なぁ、積もる話もあるだろうし、一旦個室に入って話さねぇか?
…あんまり他人に色々聞かれたくねぇだろ?」
蒼佑はあくまで自分の立場を隠している。
最初はロックもそのことを忘れ、エクストラランクだなんだと言ってしまったが、今になって気を遣ってるふうでそう告げた。
ビジランテユニオンには、第三者に聞かれてはならない話をする時に使われる個室が存在する。
サラと再会した蒼佑達はその部屋を使わせて貰うことにした。
蒼佑が勇者である事は秘密である為、外部にはただの関係者である事にしている。
「あぁ…ソウスケ、元気そうですね」
「まぁな、戻ってきちまったけど」
うっとりとした様子で蒼佑を見つめながらそう言ったサラに彼は照れたように返した。
「ふふ、そうですね。また会えて嬉しいですよ…」
五年前、魔王との戦いの末勝利した蒼佑はパーティメンバーに元の世界に帰ると告げてそのまま姿を消した。
一年間共に支えあってきたメンバーで、サラにとってまだ齢十二であった蒼佑はかわいい弟のような存在であり、頼れるリーダーでもあった。
サラは目を潤ませて蒼佑を抱きしめて頭を撫でた。蒼佑もサラの背中に腕を回す。
「ソウスケが無事に帰れているか、元気にしているかがずっと気掛かりでした…でも、こんなに大きくなってもう一度会えるなんて、本当に嬉しいですよ」
「サラ…ありがとう、あの後無事に帰ることが出来た。結局またここに呼ばれたけど皆に会えるならそれでも良かったと思える…
会えて嬉しいよ、サラ」
再会の挨拶もそこそこに今までの経緯とこれからの話をすることにした。
なぜ戻ってきたのか、そして何があったのかと。
「なんと…やはりあの皇帝は暗愚でしたか」
「まぁ俺もこっちにきた直後は記憶も曖昧だったし、気が動転してたからな。魔力を無意識に抑えてたからか俺じゃなくて友人の方が勇者ってことになっちまったよ」
思い出すようにそう言った蒼佑の表情には、少しだけ後悔が滲んでいた。
「でも、そいつだって素質はあるんだろ?」
「あぁ、それは間違いない。あの魔力は確かに勇者の物だ、かなり異質だった」
「魔法を使ったこともないのに魔力を持ってるっての…やっぱ勇者ってのは不思議なもんだ」
勇者とは常人と比べて魔力が膨大で、その質も独特だ。
魔力を体に取り込み、それらを魔法という現象へと変える。それを満足に行えるようになるまでの時間を大幅に短縮できるというだけでも極めて異質だが……何よりこちら側の世界の人間でない魔法すら存在しない世界の出身で、何故そんな存在が生まれるのか、勇者とは不気味なものだ。
「しかし…このままでは帝国と事を交える事になるかもしれないとなると気が重いな、あいつらともどうなるかわからん」
「ふむ…流石に帝国と魔王を相手にするとなると、些か戦力不足ですね」
帝国が変わらず蒼佑の命を狙っていると言うのなら間違いなく刃を交えることになる。
魔王の従える魔族たちの軍勢よりは遥かに弱いので勝つことは不可能では無い。
寧ろ相対的に楽な方ではあるが、あまり
「あといねぇのはバレットとアシュリーだ。バレットは確かフラシア王都だったよな?」
「えぇ、そしてアシュリーはオラトリアにいるはずですよ、こちらからだと王都とオラトリア、どちらも離れてます…どうしますか?ソウスケ」
ロックがサラに確認すると、彼女はそう言って蒼佑に判断を委ねた。
フラシア王国は前回蒼佑を召喚した国である為、国王と会って秘密裏に協力してもらうことも視野に入れている。
イルギシュ帝国に狙われている事を考えれば、力を貸してもらった方がその危険性はぐっと減る。
そうでなくとも、蒼佑は国王の事はそれなりに好いており、また会えるなら挨拶くらいはしておきたいと考えているため、バレットを仲間に入れるという目的と合わせて王都に向かうことにした。
「国王にも会いたいし、王都に向かいバレットと合流しよう」
フラシア王都に向かうために、まずはオルスの町でいくつかの依頼をこなし、路銀を稼いで物資や武器を揃える必要がある。
依頼を受けるために必要なユニオンカードを用意してもらった、ランクはベーシックのCからスタートする事になった。
本来はビギナーからであるが、元勇者パーティメンバーであるロックとサラの発言力は大きく、彼らの口利きによりこのランクとなった。
ちなみに二人ともエクストラランクである。
このランクにC、B、Aのようなものは存在しない。
ユニオンメイトとなり初めての依頼を何にしようかと決めているところ、何やら外が騒がしくなり、一人の冒険者が焦った様子で建物に入ってきた。
「ま、魔族だ!」
その一言で建物の中の空気は一瞬にしてピリつき、冒険者や探索者、果ては事務員までもが鋭い目つきとなり、魔族を倒そうと意気込んだ。
対する蒼佑達は冷静だ。
五年前に何百何千の魔族達と戦ってきただけあり、魔族程度では驚きもしない。
寧ろ魔王との戦争中であるにもかかわらず襲撃がないほうがおかしいのだ。
「魔族と魔物の数は?」
「あ、ロックさん!魔族は百はいるかと、魔物はその二倍か三倍ってとこですかね、ざっと見ただけなんであれですが」
「いや充分だ、それくらいなら俺とサラでどうにかなりそうだな」
「えぇ、ソウスケがでるまでもありません」
「え、ソウスケってまさか…」
「てめぇが考えてることとはちげぇと思っとけ」
「え?は、はい!」
あくまで蒼佑はただのソウスケであり、勇者ソウスケではないことは理解してもらわねばならない。
そのため余計な詮索をさせないためにロックは冒険者に圧を掛ける。
ユニオンを後にし、魔族が現れたという場所へ、そこで見たのは数百の敵と戦っている幸多達の姿。
「あいつら、もうここまで来たのか…」
刺客から隠れ、また処理しながらここまできた蒼佑らと違い馬車を使って堂々と街道を進んできた彼らの進みは速かった。
町の城壁の上からなので戦いの様子がよく見える。
囲まれた状況でありながら幸多達は襲いかかってくる敵を倒していた。
グリエラは珍しい魔法剣士タイプだが、やはり勇者である幸多の方がパワーは上である。しかし騎士団長としての経験がこの戦いに大いに活きていた。
夢愛は魔法を用いたオフェンス、紅美はサポーターをそれぞれ担当している。
「なんだあいつら、あの状況で割と戦えてんじゃねぇか」
「あぁ、そりゃそうだろうな、勇者パーティなんだから」
感心した様子のロックに向けた蒼佑のセリフにサラが驚きの声を上げ、蒼佑を見た。
「え?ではまさか彼らがイルギシュ帝国の召喚した…」
「そうだ、あの男が勇者だ」
「ふぅん、いいセンスしてんじゃん、意外とひと月ありゃ戦えるようになんのかもな」
素人でありながら敵をばったばったと切り倒していく幸多を見てロックが感心していた。
「そうだな、嬉しい誤算だ」
「ですが、あまり優勢とは言えませんね。ソウスケはここで待っていて下さい、私とロックで協力してきます」
そう告げたサラとロックは城壁から飛び降り、渦中へと飛び込んでいった。
戦えているとはいえ、殆ど素人同然の人間が急拵えといっても過言でないパーティが孤立していれば、全滅は時間の問題である。
ましてや今倒しているのは魔族ではなく魔物、つまるところ獣の魔族版である。つまり知性が低い為、動きは直情的で予測しやすい相手である。
そこに魔族が加われば苦戦は必至。加えてかなり弱い部類とはいえ数も多い。
しかしかつて魔王との戦争で力を貸さなかった帝国が召喚した勇者と共に戦いたくないと思うものも多数おり、それによって幸多らに任せ切りになってしまっていた。
そこにロックとサラが協力したことで状況は一変、魔族達も彼らに恐れたのか一気に襲いかかろうとする。かなり小型であり、それはゴブリンと呼ばれている魔族である。
「遅せぇよ」
身の丈程もあろうかというほどの大剣の一振りで軽く十は吹き飛んだ。
サラの強化魔法に、ロック自身の強化魔法、そして素のパワーによって繰り出される一振は、それだけで必殺技ともいえる。
魔族も魔物も等しく剣の錆となり、瞬く間に敵の数は減っていく。
しかし多数の敵はロックに向かっているものの、それでもいくつかは幸多達のパーティに向かっており、幸多とグリシラもその波に飲まれかけつつも、なんとか保っているが、いくつかの敵は夢愛達へと向かっていった。
しかしロックとサラの様子を見て戦おうと他の冒険者達も加勢し、気付けば魔族はボスとその取り巻き二人まで減っていった。
「クソ!このままでは私まで殺されてしまうではないか!お前たち、ここは任せる!」
取り巻いを置いて逃げようと、飛翔魔法を使い飛び立つ魔族、しかしそれを逃がすほど蒼佑の仲間たちは間抜けではない。
「逃げられるわけねぇだろバーカ」
飛翔した魔族をロックが跳躍しその眼前へと飛び出る。
豪快に振り上げた大剣が縦に一閃…。
魔族は血飛沫をあげ地上に落下していった。
取り巻きの魔族達も幸多達によって倒されており、これによって無事にオルスは守られたことになる。
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