十話 国王との謁見

 勇者召喚とは大量の魔力を消費してどこか遠い場所から人を無理やり連れ出す事であるが、こと勇者召喚に於ける【人】とはこちらで戦える才能を持った者であり、即ち魔法を使える者である。

 そしてその魔法の才覚はこちらからしても一線を画すほどで、それこそ無双できるほど。


 確率は低いが、成功すれば異常なほどの魔法の才覚を持ち、単純な戦闘に置いてもある程度の才覚がある人間のみを絞って召喚する仕組みとなっているが、それを知る人間はぼはおらずそれを知る文献なども見つかっていない為、知る人が増えることはあまりないだろう。


 そんな召喚を五年前に行ったフラシア国王に、正式ではなく水面下であるが蒼佑は謁見することにした。

 幸い彼を知る者のほとんどは上の立場の者であり、できるだけ人に知られることなく謁見する事ができた。

 ちなみにロックは席を外している。


「久しぶりですね、エクロマさん」


「ああ、久しいな、ソウスケ殿」


 フラシア国の王、エクロマ・フラシア・ジュリアスとの謁見である。

 本来謁見を行う時は、王国の威厳を示すために荘厳な装飾や意匠で施された謁見の間にて行うのだが、今回蒼佑たちのソレは謁見の間ではなく、城にある機密保持の為の応接間だ。

 謁見の間が他国へのアピールに重点を置いているのであれば、こちらの応接間は盗聴や襲撃などといった悪意ある第三者の干渉を防ぐ事に重点を置いている。

 なので部屋の前には王国の精鋭騎士達が見張りをしている。

 尤も、今回来ているのは蒼佑たち元勇者パーティであるので、守っている筈の騎士たちの方が守られることになりかねないが…それでも彼らはそれが役目である為、仕方ないことである。


 この部屋は約4m四方の部屋であり、中心に三人掛のソファが向かい合わせになっており、その間には長テーブルが置いてある。

 蒼佑が中央でその右にサラ、左にバレットが座っており、蒼佑の真向かいにエクロマが座っている。


 彼は蒼佑が魔王討伐を成し遂げた後そのまま元の場所に帰っていたことに複雑な気持ちを抱いていた。

 蒼佑が元いた場所へ戻ることが出来たが、自分の都合で子供を振り回し、過酷な戦いへと向かわせてしまったことの謝罪と、魔王討伐を果たしてくれたことへの感謝を伝えていなかった為である。

 そして今度はまたこちらに呼ばれてしまった事もその気持ちに拍車を掛けていた。


「再会したことを喜ぶべきか、それとも残念に思うべきか、複雑な気持ちではあるがまた会えたことを嬉しく思う。そして今更ではあるが、前回の魔王討伐は本当にありがとう。そして、振り回してしまってすまなかった」


 国王として、そして一人の人間として、蒼佑に頭を下げる。

 その姿は一国の王としてあるべきかは疑問だが、それでも彼にとって果たすべき義理があったことは確かであり、それを果たす機会が与えられたことは僥倖であった。


「出来ることを精一杯したまでですよ。とは言え大変な思いはしましたから、その言葉を受け取ります、頭上げてください」


 蒼佑は国王に対する言葉ではなく、あくまでエクロマという、一人の人間に対して言葉を掛ける。

 素直に言葉を受け取らなければ話が進まないことは予想が付いているので、失礼を承知で言葉を受け取った。

 そもそも、蒼佑にとってエクロマは気の良いおじさんという感覚があり、そこまで恐縮するような間柄でもない。

 エクロマは頭を上げ、そのまま話を続けた。


「しかし、また勇者召喚が行われたというのか、一体どの国なのだ?」


「イルギシュ帝国ですよ、あの時何もしなかったゴードン皇帝の決定みたいですね」


 エクロマは顔を顰め、浅く溜息を吐いた。

 五年前の戦争で禄に手を貸そうとせず、挙句の果てに蒼佑の戦いを妨害してきた愚者が、今更勇者召喚を行ってまでその戦争を終結させようとするのかと、不愉快な気持ちになった。


 そもそもゴードンの 目的は、戦争を通じて消耗品や食料、医療品などの売買を帝国お抱えの商人に行わせ、それによって儲かった金を帝国のものとし、更に戦争を激化させることで更に商人達を儲けさせようというものだった。

 勿論今回の戦争も激しいものになれば同じように儲けられるだろう、解決する意味も見当たらない。


 蒼佑は今までの経緯を話し、それを聞いていたエクロマは更にイルギシュ皇帝に対して義憤を募らせる。

 勇者召喚によって巻き込まれた、戦うための才覚が如何ほどかも分からない人間を、最低限の修練だけで外へ放り出すという無策、挙句下らない外聞のために、戦おうとしない人間を始末しようとするなどの短絡的な判断に軽蔑した。


「王ともあろうものがその様な愚か者とは、イルギシュも落ち目かもしれんな」


「まぁ流石にここまでは追手も来ないとは思いますが…」


「なに、もし奴らが手出ししてこようものなら外交問題にすればいい、できることはやろう」


 一方的に重荷にを背負わせた罪滅ぼしとはいかないだろうが、それでも国として力を振るえばある程度の問題は解決できるだろうという思惑がエクロマにはある。実際のところ蒼佑は個人でしかなく、戦闘ならいざ知らず国関係のいざこざは門外漢である。

 蒼佑にとってその申し出は渡りに船だった。


「ありがとうございます。流石に国相手は面倒ですから、力を貸して頂けると助かりますよ」


「うむ、それであれば蒼佑殿に付けたい者がおってな、良かったら連れて行ってやってくれんか?」


「えぇ、構いませんよ。しかし急ですね?」


「蒼佑殿には少なくとも我が国が味方に付いている事を分かるようにしておかねばと思ってな。国相手の問題があればその者が対処してくれよう。国王権限で無理を言ってでも付けさせる」


 今の勇者には帝国の近衛騎士団長が付いていると聞いて、そうであればこちらもそれなりのポストにいる騎士を付けたいエクロマは思っている。

 自分の国の騎士にも勇者と共に戦ったという実績を持たせたいのだ。


 かくして、蒼佑は秘密裏に国王からの協力を成功した。

 次はオストリアへ向かいアシュリーとの再会だ。

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