4. 肉を食べる




――― ほら、これ、人魚の肉。


――― は?




 先輩とのあいだの壁が取っ払われたって思ったのは、やっぱり勘違いだったのか。

 そんなこっちの思いをよそに、先輩は箱をひらいて、中の肉をならべてゆく。


 ああ、アレだ。

 高いすき焼きの肉とか、あんな木の箱に入れてたの、一回だけ見たことがある。


 そんな風に思ってはみたものの。

 またも強引に口にふくまされた肉は、牛肉じゃなくて、豚肉でもなく。

 鶏肉とはもちろん違うが。

 魚の一種かなにかの肉と言われれば、その可能性もある気もしてくる。

 そんな謎めいた代物で。




――― これが今日の目的だったの。


――― ここで、君と、人魚の肉をたべること。




 そんな意味のわからん言葉が耳に入っても、はんぶん納得していたような気がしてた。




――― もちろん君も知ってるよね。人魚の肉を食べたモノは、不老不死になるんだよ。


――― ずっと、ずっと生き続ける。きっと、この海で。




 そんな話でしたっけ。

 そうつっこもうと思ったおれに、西日で逆光になった顔が、それでもたしかに笑いかけてた。




――― 約束しよっか。


――― 何百年かたったときに、またこの海で会ってくれるよね。






 約束は、果たされなかった。

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