3. 菜を焼く




 今ではすこしではあるけど、自分を許せるようになってきた。

 無神経だったのは確かだが、きっと心配だったんだ。あの時のおれも。


 六月おわりに部活に出てきた先輩は、どことなく、それでも確かに、生気をごっそり減らしてたんだ。


 新入生をすこし強引に、熱心に勧誘して歴史部へ引き入れてきたあの時は、ふわりとした髪、白い肌が、童話の絵本にでてくるナニカのように思えた先輩が。

 ひさびさに会った時には、髪のふわりとした感じも、肌にやどっていたものも薄れて。


 ぞくっとした。


 本当に幽霊に、いや、べつの童話の絵本でみた、海にしずんでゆく人物かなにかみたいに思えたんだ。




 とにかく、あの夏の夕方に。

 赤い西日と、コンロの熱気をあびてはしゃぐ先輩の肌は赤くほてって、髪は汗と光を吸って。

 焦げくさくて炭くさいキャベツとかタマネギかじりながら、いつのまにか二人けっこう盛り上がってて。

 先輩とのあいだに感じていた壁が、どこかへ溶けて消えちまったような気さえして。


 そんなとき、先輩はそばに置いていたバッグを開けて、保冷剤にうずまっていた白い木の箱をとりだした。

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