第4話 荷が重い

 それこそ高良が顔を拭いたタオルなど、洗濯せずに売ったなら、小遣い稼ぎになるだろう。需要は充分あるはずだ。


 母屋の裏口の引き戸ががらがら開けられる音がする。そして閉まる音がする。

 高良は離れに着替えに戻ったようだった。

  

 桜木高良は京子と同じ、都内有数の進学校に通う十六歳。

 身長はそれほど高くないけれど、頭が小さく、手足が長く、九頭身に近いスタイルだ。

 フィンランド人の母親と、日本人の父親のハーフであるため、茶髪というより金髪に近い明るめの髪に、白い肌。眉は弓なり。くっきりとした二重目蓋の双眸で、瞳の色は薄灰色。


 完璧に整いすぎていて、神秘に近い印象を他人に与える容貌だ。

 特に、採光次第で薄灰色の瞳の色が、ガラスのようにも、獣のようにも見えるのだ。


 洗面所の棚から新しいタオルを取り出して、濡れた口元を拭きながら、鏡に映る自分をあたらめて凝視する。

 自分だって小顔だし、目も大きい。天然のゆるふわ癖の長い髪。どちらかといえば痩せ型だ。可愛いと言われることもあるけれど。

 男子からも「付き合って」とか、言われることもあるけれど。ただそれだけの、どこにでもいる女子高生。


 四六時中、高良の視線にさらされること。

 側にい続けなければいけないことは、京子にとって荷が重い。


 起動している洗濯機の蓋を開け、今使ったタオルを放り込む。

 洗濯機の水槽が渦を巻く音。母親が掃除機をかける轟音を耳にしながら、二階の自分の部屋に京子は戻った。

 カーディガンから制服のジャケットに着替えると、等身大の鏡の前で青いリボンを首元で蝶々結びに結んで仕上げる。


 リュックを背負い、階段を下りてキッチンに来てみると、ダイニングテーブルに置かれた自分の弁当箱と、もうひとつ、いつもはふたつ並べてあるはずの、高良の分がないことに気がついた。

 嫌な予感しかしない。

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