帰り道は遠回り

@ponkotsutaro

帰り道は遠回り

「なんとこんかいのさんすうのテストでは

 –––ちゃんだけが100てんをとったんですよ!」


「すごー」

「おー」

「まじ?」

パチパチパチパチ

パチパチパチパチ


他愛もない褒め言葉が教室中から聞こえ、拍手の歓声が教室を包み込む。

私は満面の笑みで笑った。私は嬉しかった、拍手が鳴り響いている、その瞬間だけは私は世界を奪ったような気持ちで溢れていた。


パチパチパチパチ

パチパチパチ……

パチパチ……

パチ…



トゥントゥルトゥトゥトゥ

トゥントゥルトゥトゥトゥ


携帯から鳴り響くアラームを私は止める。


「んんぁぁー……………あと……もう…ちょっと」


起き上がろうとする私の脳に抵抗する体。


「んんんんんんぁぁぁぁぁぁぁぁ………起きるか…………………あれは夢か」


半分目を閉じながらも

いつものように顔を洗い、歯磨きをし、朝食を食べ、身支度を済ませ、ドアを開け、


「行ってきまーーーす」


いつもの道、いつもの景色、いつもの格好、ただただ学校に向かう。

いつものように学校に着き、いつもの教室に向かい、いつもの廊下を渡る。


「おはよーーー!」


珍しい。普段は自分より遅いはるかが教室から出てきて挨拶をしてきた。


「おはよ、はるか」


教室に入る。


「あ、おはよー」

「おっはーーー」

「あ、おはよーみき、もみじー」


私が一番遅いとは意外だ。

私が徐々に近づくなり、もみじが満面の笑みで喋る


「ねぇねぇ聞いた??今日の部活さぁ、部長が体育館の割り当てをなんか勘違いしたみたいでなくなったよ!!」


「はーーまじ?最高じゃん!!!!!」


脊髄反射の如くガッツポーズをとってしまう私。


「二人ともテンション高すぎだって」


「いやいやだってさぁ、だってさぁ、まじで冬休みとか2週間しかなかったくせに10日ぐらい練習させられてまじでダルかったし、学校始まったかと思えば毎日毎日部活で2週間経ったんだよ???私に休みをよこせよ。」


早口で喋るテンションの高いもみじ


「まじそれなーーー、当たり前のようにあざが出来るし、ガチで嬉しいわ。」


満面の笑みを浮かべている私ともみじとは違って、愛想笑いのような顔でみきが話す。


「まぁそれでも楽しいけどね」


「お前まじ頭おかしいって」


間髪入れずにもみじが突っ込む。


「今日まじで、家帰ったら爆速で寝て15時間ぐらい寝る。本気で寝る!」


もみじからは喜びの感情しか感じ取ることができない。


キーーンコーンカーンコーン


予冷が鳴り、私たちは席に着く。


あーーそういえば私が今日の朝見た夢ってなんだっけ、

なんか小学生の頃の話だった気がする。あれーなんだっけな、

…………まぁいっか


今日も学校が始まる……………


「それでは気をつけて、さようならーー」

「さようならー」

「ぁいならー」


ホームルームが終わり、もみじがニコニコしながらこちらに近づく。


「本当に寝たいから帰る!!!!また明日!!!」

「またねーー」


早歩きで教室を出ていくもみじ。

みきがもみじを見つめながら話しかけてくる。


「というかもみじ本当に寝る気満々だね」

「マジやばいよねー」

「私今日勉強したいから先帰るね!」


そそくさと教室を出ていくみき。


「真面目かよ、、、」


いつもは部活の人たちと帰ってるから一人で帰るのは久しぶりだ。


いつものように教室を出て、廊下を渡る。

廊下には生徒たちの有象無象の声が響きわたっている。

ただただ私は一直線に繰り返し、足を進める。

正門から西に向かい家への最短距離を進んでいく。


家まで折り返し地点というところ。

私は横断歩道で赤信号を待っている。


あ…………そういえば、今朝の夢ってあれか。

小2の時に100点とって褒められた時のことだ。

懐かしいな。


赤信号が青色に変わる。

横断歩道を渡り、北と西に道が別れる。

機械が如く動く足が一瞬だけ止まる。



………………………………寄り道してみるか………



西の方に足を動かす。

なんとなく少し先の公園に寄ってみたくなった。

歩いて3分もせずに公園に着く。


錆びついたブランコ、足跡が残っている砂場、滑り台が二つついている大きい木製の遊具、木は古びているが、滑り台だけが綺麗な青色で不自然と浮いている、跳ねるパンダや豚の遊具。


雲が太陽を覆い、子供達は帰り、公園には寂しい雰囲気が漂っている。


この公園でよく遊んでいたのは何年前だろう…

小中共に正反対の方向だったから久しぶりだ

小学1年生の1年前で、私が今16だから…15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、6歳か。

10年前も前に遊んでいたのか。懐かしいな。


ブランコに座ってみる。

地面を蹴って徐々に勢いをつけていく。

成長しないブランコとは対照的に成長した私の体の足が地面とぶつかりそうになり、自分の成長を感じる。ちょっと嬉しい。


キシキシ

キシキシ


ブランコが揺れるたびにきしむ音が聞こえる。


キシキシ

キシ…


……………なんか虚しいな

…帰るか


元来た道を戻ろうとすると不意に公園の自販機が目に入る。

自販機自体は昔からあったけど、私が知っていた自販機と見た目が変わっていたので中身が気になり、近づいていく。


まぁ意外と変わってないのか?

というか、コーラしか買った記憶ないから他の飲み物は覚えてないや。


…………10年前の自販機はもっと大きく見えたな……そうか……成長したのか

成長したって自覚しにくいね。

昔見ていた景色と今の景色を比較しないと成長が感じられない。


なんか自販機の飲み物って特別な味がしたんだよね。

お金なんて持ってないから買えなかったし、お金をがあったとしても大きく背伸びしなければコーラが買えなかったから達成感があったんだよね。

でもまぁただなんとなく、特別感を感じられた。


……………まぁ今はいつでも買えるからなぁ。


私が普段見ているのは自販機なんかじゃなくて飲み物でしかない。


楽しかった思い出に浸るでもなく、過去を思い出すでもなく、

過去と現在を比較して形容し難い感情が心を支配する。


「楽しかったなぁ」


感じた言葉をつぶやいてみる。

過去と比較して出てくる最初の言葉である。


もう少しだけブランコで遊びたくなってしまった。

ブランコに腰をかけ、地面との近さに改めて驚きながら足を伸ばす。


私の高校生活は順風満帆のはずだ。高校は特別偏差値が高いというわけではないけど、近所では頭がいいという扱いを受けている私立の学校だし、私自身も学校ではそこそこ頭が良いと自負している。部活も充実している。おはようを返してくれる友達もいる。なのに私は今、胸を張って幸せを叫ぶことができない。過去の幸せに対して虚しさすら感じてしまう。


私はこんな高校生活を夢見ていたのだろうか、毎日のように部活に時間を費やして家に帰って寝る。 今日みたいに部活がない日が来たら宝くじが当たったかのように舞い上がる。別に部活は嫌いじゃない……………好きかって聞かれると戸惑うけど…


中学生の時に高校に入って、テストで学年1位を取ってみんなに褒められる妄想や部活で全国に行く妄想、カッコいい彼氏と放課後デートをする妄想を何回も繰り返した。別に本当に心の底からの願望じゃなくて、小さい淡い期待だった。期待が裏切られても何も感じないほどに微細だった。


私はそんな高校生活を過ごしかったのではないだろうか。私はもっと何かすごいことをして誰かに私という存在を認めてほしかったんだろう。すごい高望みだけど、別に誰だってそう思うよね。


そういえば今朝見た夢って……

小学生の時はみんなに褒められるだけで世界を奪った気がしていた。でも今はどうだろうか褒められても謙遜し、昔のように心の底から喜ぶことは無くなった。

昔はなんでもできる気がして自信に満ち溢れていた。今の私にそんな自信は微塵も残っていない。幸せになりたいという些細な思いすらも傲慢に感じてしまう。成長を感じることができるのは体だけだった。


………私は妥協を繰り返して生きているのか。勉強で一位を取れなくても、自分の才能の限界だと考えて努力することを放棄するし、部活が自分の思うようにいかなかくても、カッコいい彼氏がいなくてもこんなものかと考えて停滞した毎日を過ごす。


こんなことを考えたのは久しぶりな気がする。毎日部活で忙しかったからか。

…………いや………私は現実から逃げたかっただけなのかもしれない。

暇な時に考え事をするのとは逆に、忙しい時は考え事を忘れさせてくれる。

本当はこんな毎日じゃ納得できないと心の底では感じていただろうけど、私はそんな現実と相対するほどの度胸なんてなかった。だから目の前に部活に時間を費やした。

心の中にできた空白を多忙で誤魔化していただけだった。


なんか色々嫌になってきた気がする。部活も自分も。

こんなこと考えても私はきっと明日部活に行くだろうし、大してなんも行動しない。

でもちょっと気持ちは晴れたような、晴れてないようなそんな感じもする。

……帰るか。


ブランコから降りる。

太陽が傾き、さっきまで雲の上に隠れていた太陽が現れる。

暖色の光が公園を包み込み、なんとなく寂しかった公園も温かくなった。


公園から出る。右足、左足、右足、左足と一歩一歩に重みを感じながら足を動かす。

歩くのがいつもより少し遅い。

機械のように歩いていた道も一歩一歩噛み締めながら歩いていく。

公園に入った時とは見える景色が変わった気がする。


「部活はいつでも辞められるか」


家に着く。

10分以上もかかる道のりが今日は3分ぐらいしかかかっていない気分だ。

想像以上に考えていたのか。

玄関を開けて、自分の部屋がある2階に上がる。

自分の部屋に入ってベッドに座る。

勉強机を3分ほど見つめ、机に向かい、ノートを開き、教科書を開く。


「あんたー帰ってきたの?帰ってきたならただいまぐらい言いなさいよ!」


リビングからお母さんの声が聞こえる。


「ごめーん、ただいまー」


「おかえりー、真実(まみ)」





































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