第140話 末吉末吉 赤と青
オレとディゼットが赤いイルクに潰されかけたそのとき、青いイルクが赤いのをブッ飛ばした。
ピクトがデ・グナからブン捕った青いのを操っていたんだ。
しかもよく見ると、青いヤツの形、ずいぶんと変わっているぞ。
それと、面倒なことにピクトがまたテンション爆アゲしている。うるさいんだよなあ。
アプリなのにテンションあがるとか、訳がわからないヤツだ。
わざわざ青いイルクの腕をセルヲルへ向けて、外へ音声を出していた。
『老いぼれよッ! イルクを使うのが、どういうことか教えてやろう!』
おいおいおい。意味なく敵を
セルヲルには、オレが
言うやいなや、青いヤツは大きく手を振り、勢いよく腕の先を赤いロボへぶつけた。
ガゴンッって、聞いたこともない大きな音が鳴る。
音に
ピクトの動かす青いロボの拳は、止められていた。
拳を受けた赤いヤツの手には、火花と炎が散る。
拳に押されて、赤いのが後ろに下がる。
そのたびに、足元の地面は堀り返され、金属の塊を打ちつけた轟音が林間に響く。
足元のセルヲルまで、押されたようにのけ反って叫んでいる。
「なんという出力かッ!」
50メートルほども押されて、やっと青いイルクの打撃を止めた赤いヤツの腕の先が、とつぜんグルンと縦に回転した。
うわ、手がハサミに変わった。スゲー。
「おおい、赤いヤツの腕が変形したぞッ。あのロボって変形のギミックがあるのかよ!」
ギギギッ────
押し合う2体のロボのうちの、赤いヤツが青いヤツの腕をハサミで挟んだのだ。
「ちぎれ、真紅のイルクよッ!」
セルヲルの声を合図に赤いハサミは青いイルクの腕を
その峰からは、猛烈な勢いで火花が噴き出した。
腕の裂け目から9メートル下の地上へ、火の粉がザンザンと降りそそぐ。
「おいピクト。だいじょうぶなのか? 青いヤツの腕は、切られそうなのか?」
『ハハハ、そんな寝言には、答えられませんね』
それって、どんな意味の返答だよ? ピクト。
〝余裕〟って表現なのか?
オレの困惑をよそに、金属を
すると、青いイルクの腕からは、別の色の火花が散りだした。
ピンチっぽいのだが、ピクトは〝危機に見えるですか?〟とか返していて、気に留めてもいないらしい。
黒煙と騒音のなか、セルヲルの声が響く。
これは、声を伝える魔術か?
『真紅は強大な腕力と切断の武装を持つイルクだ。前腕の
セルヲルの言葉とともに、赤い鋏が青い腕を押し切ろうとする。
青い腕からは、水蒸気が大量に吹き上がった。
「あ、壊されたんじゃないか? これ」
オレの心配に対してピクトは含み笑いを返すだけだ。
イルクでの戦闘を楽しんでいて、なによりだよ。
青い腕が上下に揺れ動くたびに、金属が
大口をあけてセルヲルが叫んだ。
『そのまま、ねじ切れぃッ』
言葉を合図に青いイルクの前腕が、上腕からガクリと垂れ下がった。
「おいおいピクト、こっちのイルクは腕を切られたぞ! どうするんだ?」
弱気のオレに、セルヲルの大声が届く。
『おお! よくやったぞッ真紅!』
セルヲルの
ん? なんかスローモーションみたいにゆっくり落ちているな?
渦巻く水蒸気をまとい、切られた端から白煙を吹き出す。
そして、ゴウゴウと
ピクトが、グフグフと笑う。
『主、ちゃんと見ていてくださいですよ。切られたではなくて、青いヤツは自ら腕を飛ばしたのですよ』
青い腕は、赤いイルクに挟まれたまま飛び出した。
大きく弧を描いて、
鋏が食いこんだ青い前腕は、盛大に
下から
赤い機体は、
「ぐぅ」
セルヲルが悲鳴をあげる。
赤いイルクが地面に引きずり倒されたのと同時に、セルヲルも地面に倒れた。
イルクは転ぶだけで
倒れた赤いイルクの下じきになり、足元にいたゾンビが何体も潰された。
惨事の様子が視界に入ると、潰された死体の内臓が散乱しているであろう辺りには、モザイクがかけられている。
〝
アピュロン星人の
『ハイハイ注目ッ。群青のイルクの腕が、戻りますよ』
転倒した勢いで、飛行している前腕から赤いヤツのハサミが外れたんだな。
自由になった青い腕は、表面のいろいろな場所から煙を噴き出して空中を蛇行する。
『合体です! ヒャッホイッ!』
飛んだ腕は、ガキンンッと大きな金属の打突音をたてて元の右腕に接合した。
青いイルクは、再び戻った腕を高々とあげる。
「スゴいな! 青いイルクの腕の仕組みには驚くよなッ」
『しくみ? 手を飛ばす仕組み? 良いでしょう! 回収した機械があまりにポンコツすぎてみすぼらしかったから、諸性能を上げたんですよ。そのついでです。ロボらしい武装を追加したですッ』
「ストアのなかで変えたのは、イルクの外見だけじゃないのか?」
『ええ。メンテナンス・ユニットは元々、製作用のユニットですから。本来の機能でチョチョイとカスタマイズしたですね』
カスタマイズ。ロボらしい武装の追加。
ああ、だからか。デ・グナとの戦いのあと、作業中とか表示していたのは、そういうわけか。
しかし、自己判断で作業を進めるのか、このアプリ。
悪い意味で、ヤバくないか? AIの反乱じゃないのかよ。
『群青のイルク、なぜ追撃しないッ!
声がデカい。セルヲルは、まだ元気だな。
赤いイルクの後ろで片手を抱えながらも、立っている。
操るヤツと同じように、赤いイルクも立ち上がっていた。
赤い機体に
バリバリと雷光が煙の柱を
煙と火花を噴く赤い機体は、ゆっくりと足を前に出す。
敵のイルクは、かなりダメージを受けているようだけど、まだ動けるらしい。
肩を突き出して姿勢を下げた。うわッアイツ、
『真紅の体当たりを、受けてみよッ』
ええ? やだよ。まだやるのか。
セルヲルは格闘競技でもやっているつもりか?
ピクトは避けずに、赤いイルクの体当たりを正面から受けとめた。
ええ? なんでよ、ピクト。避けれるだろ。
爆発みたいに膨れあがる大きな音の圧が、オレを押す。振動で身体が揺れる。
デカい機体どうしがぶっかったんだ。スゴい風が巻き起こったんだな。
デカい音はストアしてるはずなのに、チクショウッ、耳が殴られたのかってくらいに痛いぞ。
『ストアした後、次のストアをするまでの
開き直んな。少しは主の身を案じろって。
あー耳痛い。
「ん、待てよ。あれはなんの光だ? 赤いヤツの身体が明滅しているぞ? うわ、もう赤いの、あれ、壊れているんじゃないのか?」
『ま、そうですね』
赤い機体の肩口から、火花がザンザン降っている。火花はイルクの血みたいなものかな。
近くで金属製の巨人がぶつかり合うとか、正気の
しかし巨大な金属の塊に追突されても、青いイルクの機体の表面には、まったく傷がついてない。
それに対してぶつかった側の赤いヤツは、人間になぞらえると肩から胸の部分全体が大きく変形していた。
所々の表面が割れて、ガタガタと振動している。完全に壊れているよな。
いくつもの
『動けッ、動かぬかぁ!』
セルヲルからの指令のままに、足を踏みだした赤いイルクを包む白い湯気。
その水蒸気の
次に足が踏みだされたときには、胸の部品が
動いているのがふしぎなくらいな破損だ。
「まさか身体が砕けたのか、ありえないッ。イルクの機体が壊れるとは」
セルヲルは赤いイルクが壊れている現状が受け入れられないらしい。
イルクとは、よほど頑丈だと信じられていた機械のようだ。
受けた命令どおりに進むこともままならず、青のイルクの方へ倒れてくる。
寄りかかる赤い機体に押されても、揺らがずに豪然と立つ青いイルク。
おもむろに上がった青い右手は、振動する赤い胸部に
「なんとなッ!」
音にならない圧力が体を
チクショウ! またストアとストアの
なんとかしてくれないか。ピクト!
『ムリ』
ムリて。
青いヤツに貫かれた胸の開口部から
赤いイルクは仰向けに倒れ、もうそれから動かなかった。
ピクトの操る青いイルクの強さが圧倒的すぎて、申し訳ない気さえする。
「ピクト、赤いロボを操っていたセルヲルって爺さんが倒れているけど、だいじょうぶなのか?」
『この世界のイルクの操作方法が、精神を機体に繋げて操るってやり方なので、イルクが受けたダメージのうちの一部は操っていたヤツも受けるです。でも倒れたセルヲル・ファシクは、まだかろうじて死んではいないですよ』
* 〝群青・改〟の画像(線画)は、
以下に掲示。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます