第125話 登洞圭三 イルクベルクバルク
ラシナ氏族との戦いを止めて、戦場からズラかることにした。
このままパトロアの軍に従っていたら、登洞会が全滅しそうだったんでな。
仕事より命のほうが大事。さっさと退場させてもらうぜ。
ついては金輪目団を抜けると団長に話をつけにいったら、なぜだかオレが金輪目団を
言いたいことはいろいろあるが、いまはゴチャゴチャ言っている場合じゃねぇんで、そのまま引き受けた。
とにかくラシナの砦のあたりから大急ぎで離れなきゃならねえ。
「アニキ、どうだった?」
「登洞会だけじゃねえ。金輪目団は全員で、この場からズラかるぞ。このままシシートに向かう。話が合えば、そのまま雇われる」
「お? 戦争中に雇い元を替えるのも、ありなのか?」
「そこは、うまくやるのさ。なあ?」
クーボを見ながら言う。
遠まわしに
他に手がなくてな。頼むぜ。
「あと、オレが金輪目の新しい団長になった」
「は? なんだよ、それ?」
「知らねえよ。双子の爺さん団長に頼まれたんだ。しかたねえだろ。ケツに火がついてるんだ。いまは、悩む時間も惜しい。とりあえず引き受けて、やることやるしかねぇ」
「しかし金輪目の団員は、まだ200人くらい砦の中に残ってんだぜ。いまからオレらに追いつけるか? 団員をぜんぶ逃すのは
わかっちゃいるがな。どうにかやるしかねえんだ。
急いでクーボとともに、迂回してシシートへ通じる
「ラシナの追撃がないのなら、通れます。これでいけるっすね。シシートの方向は、いま手薄ですから」
「オレらが近づいたら、シシートはどう出るかね」
「さあ、どうっすかね? 自分も先方へ話をつけるくらいならできますけど、万事うまくいくとまでは、言い切れないっすねぇ」
とぼけていやがるな。オレの調べた情報から
金輪目団を雇い入れるくらいまでは、やってくれるだろう。
ただなあ、そうだよな。
行った先でどうなるかなんて、やってみるまでわからねえか。
「みんな、いまからオレの言うことをよく聞いて動け。オレとタケは、砦の塀際に残る。花地本とクーボは森を抜ける道案内をやれ。ビスキンが兵隊を指揮しろ」
この場の全員が
まだ士気は高い。これならだいじょうぶかもな。
「行くぞッ!」
ズズン、ズズンと揺れが続く。
「地震か? お? あたりが暗くなった」
健人の向いた先の赤い空を太い雷光が横切る。
うねる煙のなかに大きな影が浮かんでいた。それは巨大な人の形だ。
ビスキンが立ち止まり、小さく呻く。
「まさか、小さな砦を攻めるのに、そこまでやるのかよ。パトロアは」
傭兵たちのあげる驚きと恐れの声を、突風と地鳴りが
風の吹いた方へ目を向ければ、デカいロボットみたいなのが、ラシナの砦へ向かって近づいている。
鳥の大群も、こっちに逃げてきた。
辺りの傭兵が同じ名前を口にする。
────イルクベルクバルク
意味がわからない言葉だ。
森のあちこちで重なる鳥たちの鳴き声の合い間に届いた、クーボのつぶやきが耳に残った。
「イル……なんだそれ?」
「大昔からこの地にいる巨人っすよ。魔術で動くらしいんす。灰色かあ、ありゃ〝鈍色(にびいろ)のイルク〟と呼ばれているヤツっすね」
めずらしくクーボがマジメな顔してやがる。オレら、そうとう危機なのかもな。
「あのデカいのは、魔術も剣も受けつけないんす。とんでもないのが出てきましたね」
「やっぱ、あれはそうそう見られる
「ええ、魔術を作ったと言われる先史文明の遺産ですからね。ピンズノテーテドートの5つの偉業に数えられる
「へぇ、伝説の中の巨人かよ。ごたいそうな
オレに正体がバレてからのクーボは、ドンドンこの世界の情報を教えてくれるようになったな。助かるぜ。
「ピンズノテーテドート? いまのパトロアの王様も、そんな名前だよな?」
「ええ、七代目っすね。伝説の初代魔術王から後のパトロアの王様は、
「クーボは、ほんとうに物知りだな。ただのスパイとは思えねえ」
どうした、クーボ? イヤそうな顔でコッチ見るなよ。これでも
「そんな話、してる場合じゃねえっす! 早く逃げないと、みんなやられるっすッ」
たしかにな。
あのロボット、14メートルを越える体高のせいで遅く見えるが、視界の地図には時速63キロと表示されている。デカいと進むのも早いのな。
近づくにつれて、あの巨人の形がはっきりしてきた。
頭部を
逆三角形の身体をパイプが覆っていて、肩の上にはそれぞれ縦長の輪があるな。
あと手には、大きな爪だ。
イルクが歩むごとに肩から伸びる輪のなかを雷光が縦横に横切っている。
光が輪に満ちるとともにそこから、淡く光る無数の球が立て続けに飛び出した。
大量に放たれたサッカーボール大の光る球は、なにかに触れると消える。
だが、消えるその瞬間に衝撃波を出して触れたモノを
「見えない爆弾かよ」
『マップには映ってますッ大きく避けてください』
通信してきたのは、花地本か。いいタイミングだぜ。
「花地本、おまえの指図で周りの団員に、きっちりアレを避けさせろよ」
『わかりましたッ』
むやみに放たれる衝撃波は、敵も味方もまとめて
見当もつかない方向からの風に身体を圧されて、さっきからずっと耳が痛い。
目に見えない衝撃波に触れた兵士は、次々に声もなく転がり、倒れていく。
「人は潰れても、背にした砦の岩が砕けてねえところを見ると、あのロボットは人を対象にした攻撃をするようにあつらえてあるらしいなッ」
金属の巨人が歩むにつれ、脚にぶつかったいくつもの木々が倒れて大きな音が響く。
巨人は注意を向けることもなく、ただ機械的に進んでいた。
『あのイルクは攻撃する人間の方に顔をむけてない。見ていないのかも』
「ああ。アレの頭に目があるとしたらそうだな。衝撃波を出す見えない爆弾は、狙いをつけず自動的に進む先へバラ
『つまりアレは、敵味方の見さかいなく人間を殺す機械ってことですか……』
しかし、どいつもこいつも無差別攻撃かよ。やってられねえ。
「遅れている金輪目のヤツら、急げッ」
砦を壊されている当のラシナは、バンバン拳銃を撃っている。
だが、ちっぽけな弾丸があのドデカい金属の塊に通用するハズもない。
灰色のイルクは、抵抗などないかのようになめらかに進む。進行に邪魔な石の壁をデカイ足でバリバリ
バカバカしいほどの暴力だ。見ていると、まるで死そのものが迫ってくるようにさえ思えてくる。
ダンダンと大火球の着弾音が断続的に響くと、ほうぼうで火の柱が立ちあがる。
轟音が響くたびに、敵と味方の区別もなく、
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