第33話 谷葉和豊 魔術師を助ける

 送られた異世界で、初日から暮らしに困りそうだとわかった。

 なのでコミュユニットで戦いとかで負けそうな集団を助けてボクの生活の面倒を見てもらう。というナイスアイディアが浮かんだんだ。


 計画はまんまと現実になった。

 目の前では、馬車が襲われている。



「よし、助けるには絶好のチャンスッ!」


 パトロア教団の信じている宗教を検索。

 こっちも同じ宗教だから助けるという理由でいこう。よし。


 うわ、弱ッ、考える間にも馬車の方は、全滅しそうじゃないか。すこしの間くらい持ちこたえていてくれよ。

 ともかく急がないとッ。


拡声かくせい


 魔術はツール・ユニットと違って範囲の指定ができないのが不便だな。

 原始人の技術だからしかたないけどさ。


 さて、と。

 話す内容はコミュニケーション・ユニットにまかせて、自動でスタートッ。


『────同じ神をほうずる同胞はらからとお見受けする。お助けしよう。わが名はピンズノテーテドート、放浪の魔術師である』


 後はカンタンだ。地面を割って敵を埋める。それだけ。ただの作業だ。

 さんざん攻撃しているのに、18メートルくらい下にいる敵は大騒ぎするだけで、空中のボクというかピンズノテーテドートへまったく反撃をしない。

 矢くらい射かけそうなものなのにな。

 もしかして、シシート側は空を飛ぶ者を迎え撃つすべがないのだろうか?


「散れ、バラバラに逃げろ! なんだッこいつはッ」

「ああ、浮いているのかッ。しかも飛んだままで、別の魔術を連続して発動させているッ!」

「あきらかに准第四階梯じゅんだいよんかいてい……いやあるいは正第四階梯術師せいだいよんかいてい……しかしそれは、ありえない」


 動揺した声が聞こえる。さぞ驚いているのだろう。


 魔術師はレベルで分けられている。どの国だって同じ基準だ。

 区分けは、使える魔術のレベルにしたがって決まる。


 そのレベルの魔術をひとつでも使えたら〝

 半分で〝じゅん〟全部使えたら〝せい〟だ。

 シシートの連中は、ボクを第四階梯の魔術師と判断しているようだ。


 ちなみにこの世界で第四階梯の魔術と思われているのは38個、でも実際は54個ある。


 ボクは全部の魔術が使えるのだから、レベルでいうと正しくは〝正第五階梯魔術師せいだいごかいていまじゅつし〟だ。

 ちなみに正第五階梯魔術師は俗に〝死者〟という意味の隠語でも使われている。

〝生きて達することのできない高み〟から転じたという。


 そんな魔術関連知識のレポートに目を通しながら15分間くらい魔術を使っていたら────シシートの騎馬隊はあらかた壊滅かいめつしていた。


「うわ。あたりがデコボコで黒焦げの地面になっている。雑に魔術を使っていたら死体も残らないとか、ピンズの魔術は威力がエグいな」


 射ちもらしの確認のためにマップを見ても、シシートに生存者はいない。

 けっきょくあいつらは、幻影げんえいのピンズノテーテドートに1発の魔術も矢も当てられずに全滅したのか。


 戦闘では、上空を移動して自由に攻撃できるということのアドバンテージはスゴく大きいようだ。

 それともシシートの魔術師のレベルが、やたらと低かったのだろうか。


 あれ。

幻影げんえいのピンズノテーテドート〟って、無意識で呼んだけど、厨二病ちゅうにびょうっぽいな。できるだけ使わないようにしなくては。


 さてと。パトロアにボクを売りこみにいこう。

 空中から、馬車にむかって声をかける。


『迫害者は去った。かたがた、ご安心めされよ』


 どれもこれも矢が刺さり火球に焼かれてほぼスクラップとなった馬車。

 その中から、ぞろぞろと出てくる人たちは、誰もが年配の男性だった。


「高齢者の集いなのか?」


 どの人の格好も生地の厚いガウンで、表面はよくわからない模様が刺繍ししゅうされている。

 なんというか。有田焼のコーヒーカップを壁に飾るタイプの喫茶店のカーテンっぽい柄だ。

 ボタニカルなデザインっていうのかな。たぶんこれがパトロアの富裕層の出で立ちか、または、流行りなのかも? 


 ああ、コミュユニットからレポートが着いた。

 なになに、これがパトロアの魔術師に定番の服装なのか? 

 じゃあ、この人たちはみんな魔術師なんだな。


 老人たちは、うちのピンズの手を握って感謝の言葉を口にしている。

 同じくらいの年格好のピンズに親しみを覚えたのだろう、古くからの友人のように友好的な感じだ。

 魔術師の見かけの姿を老人タイプにしておいて良かったよ。


「おおッなんという、厚い信仰心をお持ちのかただろう。同じ教えを信じる仲間を助けるために、たったひとりで異教徒の軍隊にたちむかうとはッ」

「魔術のワザが素晴らしい! 宙に飛びながら複数の術を操り、何百人といた異教徒を打ちたおされた。かなり高位の術者とお見受けする」


 どの人も、芝居がかった身ぶりだなあ。魔術師というのはデフォルトでこんな人たちなのかな。

 めんどうなやりとりが始まりそうだ。ここはもうAIに任せようかな。


 対応を任せたら、あとのボクはひまだ。

 虚像の後ろでぼんやり、お爺さんたちの集会を見ている。それにしても話が長いよな。退屈なのでコミュユニットにオリジナルのRPGを作成してもらって遊ぶ。


 そうなのだ。なんとコミュニケーション・ユニットはコンピューターゲームを作れるとわかったんだ。

 まったく最高の機能を持ったユニットだよ。選んで大正解だった。


 ゲームの合間に事態の進捗しんちょくを確認していると、ピンズへ小太りで茶髪の年寄りが話しかけていた。


「私は国立魔術学院の院長をしております、ボシュラム・マトランギッチと申します」

『これは────丁寧ていねいなご挨拶をいただき、恐縮いたしております。我はピンズノテーテドートと申す者でございます」


 おや? なんだろうな。

 立体映像がピンズノテーテドートと名のると、みんな少し固まるな。

 名前に違和感があるのか? もしや、ピンズノテーテドートって下品な隠語があるとか?


 気になって検索すると────

 え、ピンズノテーテドートという名前は、パトロアの有名なおとぎ話の主人公の名前なのか。

 なるほどね。それって、あからさまな偽名だと思うよな。


 だからみんな、ピンズの名前を聞いて一瞬とまっていたのか。マジか。恥ずい。

 コミュユニットのレポート、説明不足だぞ。もっとちゃんとしろ!

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