第30話 末吉末吉 ピクト
アピュロン星人と名のる誰かに、日本橋からキリバライキって場所まで転送された。
着いてすぐに
どうにか撃退したけど、疲れがピークを越えて倒れた。
ダメだ立てない。
目が回るってこんな感じなんだ?
頭がふらついて座っていた。
その体勢で、なかば寝ていると────
「助けて、スエヨシ!」
遠くで子どもの声が聞こえる。
目線を向けると────あの子どもは、コトワか。
誰かがパトロアに崩された岩の下じきになったとか言って────
おいおい、ボンヤリしている場合じゃないぞッ! 岩の下じきだって!
飛びおきてコトワへ駆けよる。
「さっき岩に挟まった人がいるのか。いま助けるぞッ」
急いで崩れた岩場に近づいたものの、岩を雑に撤去したら上の方からさらに土砂が崩れそうだ。
慎重に
アピュロン星人のシステムからの警告だな。
『このままストアすると埋没した人体を
「それは、よろしくないね」
助けに来たのに、殺してどうするんだ。
ストアすると、生き埋めの人は死ぬかもしれないけど、ゆっくり考えてもいられない。
ぼんやり立っている間も、ガレキの中に埋まっている人は命が危ういのだ。
こまったな。どうすればいい?
オレがストアを使って行う救助は、いわば勘に頼って埋まった人をパワーショベルで掘りかえす感じになるっぽい。
ダメだ。それじゃ、危なくて使えない。
でもこのままじゃ救助できないぞ。
まいったな、どうする? とにかく手だてを考えなきゃな。
そうだ……メンテナンス・ユニット。
アイツの機能の中に、なんか使えそうなのがあるんじゃないかな?
最初のスイッチのところを探していると────
以前は灰色だった四角が、いまは光っている?
なんだろう?
コントロール・アプリ?
コントロールっていうのが、細かい操作ができるって意味なら、使えるかもしれない。
とりあえずやってみよう。
コントロール・アプリを押す───と。
視界にピョコンと跳び出て来たのは、人の形のアイコンだ。
現実の視界に重なって、70センチくらいのキャラクターがいる。
まるで目の前に浮かんでいるみたいだ。
5頭身ぐらいのシルエットのカンタンな人型だけど。
こういうのに、見覚えがあるんだよな。
なんかの記号だったはず。なんだっけ? そうそう。ピクトグラム。あれだ。
いやデザインは、この際どうでもいいのか。
とにかくこれが、コントロール・アプリ、なんだよな?
でもこれを、どう扱えばいいんだよ。ぜんぜんわからないぞ。
迷っていると、アプリの人型のほうから話しかけてきた。
『用は、なにです?』
親しげな口調だな。これって会話で指示できるということか?
そうだとしたら、オレでも操作できるな。
「あ、うん。この辺りの土砂だけを撤去して欲しいんだ。中に埋まっている人たちを助けたくてさ」
『わかったです』
返事速ッ。
こいつにとって、そんなに簡単な作業なのか?
起動させて正解だったかもな。
「そうそう、オレは末吉。オマエの名前は? なんて言うんだ?」
『ないです。ただのコントロール・アプリなので。いま主がつけても良いですけど?』
「ああ。それじゃあ……ピクトグラムっぽいから、ピクトでいいか?」
自分につけられた名前を聞いて、大爆笑している。
なんだこいつ?
ピクトでいいのか?
この反応では、気に入ってくれたのかどうか、わからないな。
『その名前で、いいです』
ピクトが答えるとともに、あれ……シルエットが変わった。
頭がデカい。
全体の形状が……なんだこれ? 飴が玉の形の棒つきキャンディだ。
ん? 顔があるぞ。
クレヨンで描いたみたいな雑さだけど、エラーじゃないよな。
もはや全然ピクトグラムじゃない。でも、それっぽい名前をつけた後だし。このままで良いか。
『コントロール・アプリは起動された後に使用する者の接しやすい形状になるです』
そうなのか。呪われた人形っぽいけど。これは接しやすいのか?
『一見してそうは思えないとしても、深層心理ではそうなのです』
だとしたら、オレの深層心理ってイカレてないか?
いまさら構わないけどさ。
『土砂を取り除けという命令ですが、ピクトはより効率的な方法にしたいです。土砂の下から埋まった人だけを転送させるです』
へえ。そういうのアリなんだ。
「え? 土砂じゃなくて、見えていない人だけをストアに移せるってこと?」
『埋まっている人の位置は正確にわかるです。ピクトは、ストアのコントロールも微細にできるです』
「いいね。有能だな。それじゃあ、そのやり方でよろしく頼むよ」
被害者を掘り出す作業は、なんと一瞬で終わった。
並んで横たえた後はラシナの人たちに任せる。
幸いまだ生きている人たちは、それほど重傷じゃなさそうだ。
他に地面の下に埋まっている人の状態も表示に出ている。
だけど、ここから先の作業は気がふさぐな。
『生きているのはここまでで、あとの8人は生きてないです』
「わかった、ご遺体を土から出してやってくれ」
転送させた遺体を地面に並べた。
「埋まっていた人はこれで全部だ。確認してくれ」
周りのラシナ人が泣いている。涙は苦手だ。
こういうのはムリなんで、席を外した。とにかく歩く。
『末吉ぃー。こちら里右』
足を進めていると、里右からの通信だ。
話をする気分ではないけれど、情報交換は必要だ。
「末吉だ。そっちで、なにがあった?」
『実は私も現地の人をツール・ユニット使って助けたんだよね』
「そうか、里右もか」
アピュロン星人の貸してくれているツール・ユニットの能力は、とんでもなく強力だからな。
困っている人をみたら、とりあえず助けたくなるよな。
「あれでもさ。里右は、自分たちは助ける側じゃないとかオレに言ってたんじゃなかったか?」
異世界無双禁止とかヒーロー症候群とか、自分を大事にしないのはメンタルヘルス的な問題だと
『それはそれ。もう過ぎたことより、これからのことを話さないとね』
ああ、オレもそうだとは思うよ。里右の言っていることは間違ってはいない。いないけど、
オレは大人だから、追求はしないけどな。
「この世界は、危険だな。ツール・ユニットないと即死レベルで危険だよな」
『そうかも。アピュロン星人が、この現状を予測していたとは思い難いけど』
「なんで、めちゃくちゃ頭よくて先のことまで見通せそうだろ。あの星人は」
『頭はいいけど、アピュロン星人のあの文章の端々からは〝まさか知的生命体どうしが命を奪う争いをするわけがないし、困ったらたがいに助けあうはず〟と信じ切っている印象があったわ』
アピュロン星人は、仲間どうしで争わないのか。
いい環境にいる星人なのだろうな。
ここキリバライキ大陸で起きている争いなんて初めからアピュロン星人の頭の中には、なかったのかもしれない。
『末吉、なんか危険が多いから、早く合流して敵対勢力へ対応しようよ』
「だな、それがいいとオレも思う」
『お互いの一緒にいる現地の人は、外見の特徴から同じか、もしくはとても近い人種みたいだけど、末吉のいるグループはどんな印象の人たちなの?』
しばらく考えても、特徴がわからないな。
「そうだな……日本人じゃないのはわかるけど……どう言えば良いかな」
『え? 日本人じゃないって、それだけ? それはあたりまえにそうだよね。あと他には? エルフみたいな見た目じゃないかな?』
「エルフ? どこかで聞いたことあるけど。なんだったっけその単語?」
くわしく聞いたら、ファンタジーな物語にでてくる人種だという。知らない分野だ。
『周りの現地の人、みんな美男美女でしょ?』
「整っているとは、思う。ただ特徴はないよな。そうだな。特徴というと、ボタンのついてない服装とか、着ているモノが風変わりってことかな?」
オレは他人の外見はあまり記憶に残らないほうだ。特徴がないとほとんど覚えもしない。
『服装? なにその死んだ審美眼は。じゃあ、その人たち自分たちのことは、ラシナとか名のっている?』
「あ、そうだ。ラシナって自分たちのことを言っていた」
『やっぱり同じ種族じゃない! 先に聞けばよかった。末吉はほんとにノンビリしているよね。スローライフ人間か』
「なんだよスローライフ人間って」
里右とオレの混じっている集団は、同じ人種の集団だった。
ただし里右のところの人数はオレのところよりかなり多いようだ。
オレのいる方のラシナは広い範囲に散っている民族らしい。
ここまで細かく分散しているのは200年前からだそうだけど。
あと、服装とかテント式の住居とかのデザインも少し違うな。
居住地域もわりと離れているから、細かく分類したら民族としては別なのかもしれないな。
あと、オレの方にまたパトロアから魔術師の集団が来たことも伝えた。
「
『それは知らない。パトロアにそんな秘密戦隊がいたのね。怖いのね』
「魔術は、そうとう強力な武器だよな」
『ええ。この世界の砲弾とかミサイルの役割を果たしているみたいね。そういえば、魔術の仕組みがわかったんだよ』
そうなのか? あい変わらずスゴいな里右。調査能力が高い。調べるのめちゃくちゃ早くないか?
『魔術は、この世界の人が持っている器官が発生源なのね。異空間に飛び出していて肉眼では見えないの。だからそんなのついてない私たちには、魔術は使えないのよ』
そうか。オレたちには魔術が使えないのか。
でも、あんな物騒なものは使わないほうがいいよな。
* ディゼット、ピクトの画像(線画)
は、以下に掲示。
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