#42 決着がついた

 ゴールドとスーツマンは激戦を極めた。互いの動きに一切無駄がなかった。一撃一撃が相手の致命傷を与えたが二人は不死身みたいに戦いを続けた。

 互いの武器はナイフや銃だけだったが、全身が血塗れだった。

 二人はまるで鏡みたいに同じ行動をとっていた。

 ゴールドがナイフで腕を刺せば、スーツマンも同様に左腕に刺した。

 しかし、二人の体力は若干スーツマンの方が上回っていた。

 彼の鞭のようにしなる腕が彼の顎に直撃すると、ゴールドの口から血が溢れ出ていた。

 顎が外れたのか、何も言わずに呆然と立っていた。

 この隙を逃すまいとスーツマンはナイフでグサッと刺したが、その刺した瞬間にゴールドは発砲した。

 腹部を撃たれたスーツマンは目を大きく見開いて数歩下がったが、叫びもせずに落ち着いてドクドク溢れ出てくる傷口を塞いでいた。

 ゴールドは無理やり顎を直すと、「あっ、かっ、くっ……」と苦悶とした表情を浮かべるが不気味に笑っていた。

「はぁ、はぁ……らしくないな」

 スーツマンは呼吸を荒くして言った。

「お前が至近距離で発砲するなんてな……歳でも取ったか?」

「そっちの方こそ昔よりかなり落ちていないか? 一匹狼だった頃はこんなもんじゃなかったぞ。羊の牧場を見つけてから狩りの本能が鈍ってしまったんじゃないのか?」

 ゴールドが煽るように言うと、スーツマンは「お互い歳を取ったんだ。昔みたいにバリバリ動ける訳じゃない」言って口の中に溜まってきた血を吐いた。

「いや、俺は全然行けるぞ」

 すると、ゴールドは数回背伸びをしてファイティングポーズを取った。

 それに感覚されたスーツマンは「俺もだ」と傷口から手を離して構えた。

 両者、瀕死寸前だったが彼らの中にある闘争心が身体の機能を維持させていた。

 ほぼ同時に走って殴りかかった。

 先にあたったのはスーツマンだったが、ゴールドは動じずに顔面にクリーンヒットさせた。

 眼鏡が壊れるほど彼の顔はめり込み、数回ジャブで彼に攻撃しようとしたが空振りで終わってしまい、そのかまうつ伏せに倒れてしまった。

「悪いが先に地獄に行っててくれ。もしそこでうまいバーボンがあったら飲もうじゃないか」

 ゴールドはそう言って負傷した脚を引きずりながら先へと進んだ。


「アハハハハハ!!」

 メイの高らかに笑う声が廊下中に響き渡った。

 ラムは彼女の投げてくる手榴弾から逃げていた。

 背後から爆発音が聞こえて、たちまち脆い廊下に穴が空いた。

「ねぇ? どう? どんなきも……きゃぁっ!」

 しかし、メイは自分の足場も脆いことを考えていなかった。いや、建物全体が脆いことも。

 爆発の影響で廊下どころか天井にもヒビが入り、上から目線夥しい砂埃が振ってきた。

「ペッ、ぺっ……もう最悪……って、あれ?」

 メイが砂埃に構っている間、いつの間にか姿を消していた。

 彼女は狩人の表情に変えて構えていた。ふと甘い匂いが漂ってきた。

 メイの脳内細胞がたちまち喜びに代わり、ヨダレを垂らすほど渇望したが彼女煩悩を振り払って獲物を探した。

 は、探せば探すほど甘い匂いがあちこちから聞こえてきて、彼女の空腹を唸らせた。

「あはぁ……くっ、うぅ……」

 ヨダレを必死に隠して歩いていくと、匂いはボコボコに空いた穴の先から漂っていた。

「あぁ、ふぅ……仕方ない」

 メイは助走を付けてジャンプした。

「かかったわね」

 すると、天井から声が聞こえて来た。

 スローモーション並に時間が止まったかのように宙に浮かんだまま見上げると、少し高めの天井にあるシャンデリアにぶら下がっていたラムが銃を構えていた。

 銃弾はメイの肩と脚に命中し、彼女は着地しようとしたが、さらに続けて脚を被弾した事穴の中に入ってしまった。

「いやぁああああああ!!!」

 メイの断末魔が聞こえてきた。

 ラムはシャンデリアを左右に動かして、穴の空いていない方に向かってジャンプして着地した。

 メイが落ちた穴の方を見てみると、奈落の底だった。

「どっちにせよ、ご臨終ね」

 ラムはそう言って廊下を走っていった。


「お前、正気か?」

 悪魔の商人はシェイクの奇行に戸惑っていた。彼が抱きかかえているルーナ姫は今にも倒れそうなほどグッタリしていた。

「よりによってお姫様を殺すなんて……いtから傭兵は一般市民に手を出すようになった」

「今日からだ。悪いが、こいつは足手まといだ。どっちにせよ、流れ弾で死ぬ運命……死ぬんだったら楽に死なせた方がいいだろ」

「だからといって過激にやらなくても……もっとなんかあっただろ」

 シェイクの奇行に商人が呆れ返っていると、「じゃあ、供養してくれ」と言って振り返った。

 その瞬間、放たれた銃弾は彼の心臓に命中した。

「なっ……」

 商人は大きく見開いていた。その視線の先には片腕に滝のように流れているシェイクの腕と返り血を浴びているルーナ姫だった。

 彼女は舌を出して侮辱した。

「俺としたことが……騙され……」

 続けて眉間に一発あたった事で商人の身体は大きく仰け反り、地面に倒れていった。

「怖がらせて、すまないな」

 シェイクが姫に謝ると、彼女は「いえ。殺さないって信じてましたから」と笑みを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る