#43 傭兵達、帰還する
すると、外から騒がしい声が聞こえてきた。
「俺の後ろにいろ」
シェイクはルーナ姫に自分の背後に立たせると、銃をドアの方に向けた。
バンッと開き入ってきたのはバルサーマ兵士長率いる人間軍と傭兵達だった。
シェイクは安心した様子で銃を降ろした。
「お姫様! ルーナ姫がいたぞ!!」
バルサーマ兵士長が彼女の元へ駆け寄ると、ルーナ姫も身内の再会に嬉しいのか、彼の胸に飛び込んでいた。
「やったぞーーー!!」
「我々の勝利だーーー!!」
兵士や冒険者達は嬉しそうに武器を天に掲げた。その中には大きな魔王の首もあった。
ゴールド達は激戦を繰り広げていたにも関わらず、綺麗な身体をしていた。
それに不思議に思ったシェイクが聞いてみると、アーモンドは「魔法を使ったんだ」とシガー煙を吐いた。
「シェイクさん!」
すると、人混みを掻き分けるようにピューラがやってきた。
彼女は神々しい光を放っていた。
「お前か。それはどうしたんだ?」
「白魔術師が覚醒して聖魔術師になったんです。そのおかげで魔王を倒すことができました」
「あぁ、そうか。本当に変な世界だな」
「さぁ、早く傷を……」
ピューラがそう言って彼の片腕に手をあてると、あっという間に癒えてしまった。
「呪文みたいなのはいいのか?」
「えぇ、聖魔術師になると無詠唱でも魔法が発動できるんです」
「そうかい」
シェイクはこれ以上は突っ込まずに手を差し出した。
「ありがとう。お前らのおかげでターゲットを仕留めることができた」
彼はピューラだけでなく異世界側の人間達を含めて礼を言った。
彼女もそれを感じ取ったのか、「私達の方にこそ皆さんがいなかったら魔王を倒せませんでした」と傭兵達全員に礼を込めて握手した。
――よくぞ、魔王を討伐してくださいました
すると、天から清らかな声が聞こえてきた。これにピューラは「女神様!」と跪いた。
兵士長やお姫様達も恭しく膝をついた。
異世界側の人達は神への登場に礼儀を正したが、傭兵達だけが
神々しい光と共に現れたのは、まごう事なき女神だった。
白い空間で会った時よりも清楚に見えた。
「この世界に住む者達よ。この世界の外から来た者達よ。魔王を倒してくださりありがとうございました」
「よく言うよ。悪魔の商人の悪事の手助けをしたくせに」
ラムがせっかくの終わりの雰囲気をぶち壊しかねない発言をして場を凍らせたが、女神は聞こえなかった振りをした。
「えっと……では、この世界に住む者達には女神からの祝福を。そして、外から来た者達は元の世界に返っていただきます。あ、もしこの世界の移住を望むのでしたら……」
「いや、帰る」
「帰らせてもらう」
「早く帰ってシャワー浴びたい」
「俺の妻としこたま抱かねぇといけねぇんだ」
「バナナ喰いたい」
「葉巻の補充しないといけないな」
傭兵全員が帰還を希望したことに女神は目を丸くしていた。
「め、珍しいタイプですね。でも、まぁ、あなた達がこの世界に留まり続けると色々と崩壊が起きそうなので帰ってもらった方が懸命ですね」
女神はそう言うと、光の魔法陣を出した。
「そこに入ってくだされば、元の世界へ帰れます」
「ひゃっほーーー!! 待ってろよーー!!!」
プルーンは愛すべき妻の顔を浮かべながら飛び込んでいくと、一瞬で消えてしまった。
「おい、先走るな。全く」
アーモンドが呆れたように彼の後を追った。
「では、お先に失礼」
ゴールドもアーモンドに続いた。
「うほっ、うほほほっ!」
まだゴリラの気分が抜けていないトレインは四足歩行で中に入っていった。
「ねぇ、あなただけでも一緒に来てくれない? ねぇ、いいでしょ? 向こうの世界も悪くないわよ。ねぇ……」
ラムは猫耳のファニーがよっぽど気に入ったのか、無理やり連れて行こうとした。
彼女のほうは目を大きく開けて困惑していた。
「よせ、ラム。彼らにも生活があり家族がいるんだ。もし連れていったら悪魔の商人達とかわらないぞ」
シェイクがそう注意すると、ラムは「分かったわ。じゃあね。子猫ちゃん」とファニーの頭をポンポン叩いて光の中に入っていった。
彼も行こうとしたが、「おっと、忘れる所だった」と思い出した様子である所に向かった。
倒れた悪魔の商人を抱えたかと思うと光の中へ放り投げた。
「
シェイクはそう言って異世界人達の方を見た。
皆、少し寂しそうな顔をしていた。
「シェイクさん、ありがとうございました。あなた方のおかげで姫を救う事ができました。仲間達にもそうお伝えください」
バルサーマ兵士長が彼の手を握りながらそう言った。
「あぁ、伝えておく」
「シェイクさん」
すると、ピューラが彼の元へやってきた。
「どうした?」
「元の世界に帰られるんですよね」
「あぁ、そうだ。俺達が住む世界も魔物みたいなやつがゴロゴロいるんだ。俺達の仕事はそいつらを殺して世界を平和にすることなんだ」
「なるほど……あなた方も勇者なんですね」
「うん、まぁ、そんなとこか」
不意にピューラがシェイクの頬にキスをした。彼女はゆっくりと離れて彼を見た。
「向こうに行っても生き延びてください」
「心配するな。向こうでも白魔術師みたいな奴がたくさんいるから安心しろ」
シェイクは片手を振って両手を掲げて消えていった。
「さようなら、勇者達……」
ピューラの瞳から一筋の涙が流れた。
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