#38 最終決戦、始まる

「シェイクさん」

 今まさに歴史を揺るがす決戦が始まろうとしていた時、兵士長が彼を呼び寄せてきた。

「どうした?」

「あなたと仲間達は姫の捜索をしてください」

 突然の命令に「なぜだ? この怪物を倒してからじゃないのか」と魔王を指差して言った。

「いいえ、そしたら誰も姫を救出できなくなります」

 バルサーマ兵士長は揺るぎない瞳で言った。

 この瞳を見た瞬間、シェイクは兵士長の覚悟を読み取った。

 兵士長は自分の命を捧げる覚悟で魔王に戦いを挑むつもりなのだ。

「分かった。最後まで送り届けてやる」

 シェイクは兵士長の眼を見て頷くと、ゴールド達にも視線を送った。

 彼らもシェイクの伝達を読み取って、すぐさまジェスチャーで離脱を指示した。

「私が奴の気を逸らさせます。その間に抜けてください」

 兵士長は剣を魔王に向けた。

「総員、いよいよこれが最終決戦だ! これを乗り切った先には我が軍は伝説となり、一人一人の名が石碑に記され、未来永劫語り継がれることだろう! かかれーー!!!」

 兵士長の巧みな鼓舞に兵士や冒険者達は果敢に進んでいった。

「面白い! こんなに大勢の人間どもを相手にするのは初めてだ! せいぜい退屈しない程度に楽しませてくれよ!」

 魔王はそう言って禍々しい光を出した。

 それは兵士達の方へ飛んでいき、何人かが吹っ飛んだ。

 シェイクはすぐに人混みを掻き分けて、ゴールド達と合流すると、こっそり進んでいった。

 エントランスの近くにドアがあったので、傭兵達はそこへ入ってみた。

 そこは物置きみたいで、抜けられそうな所はなかった。

「戻るか?」

「いや、もしあの怪物に見つかったら兵士長の思いを踏みにじる事になる」

 シェイクは乱雑している木箱を使って、階段にした。

「何をしているんだ?」

「前に城に潜入した時に銃で乱射して、天井に穴を開けた事があるだろ」

「なるほど。それをまた同じ方法を利用すればいいのか」

「あぁ、そうだ。だが……残念な事に石だから貫通しないな」

 シェイクが軽く天井を叩くと、トレインが俺に任せろと筋肉を膨張させて急に縮こまった。

「ふんぬっ!!」

 そして、天井までやすやすと届いた。ぞれだけではなく、彼のスキンヘッドが石にあたり、それが瓦割りのごとく粉砕されていき、彼の姿が見えなくなってしまった。

「おい、トレイン。大丈夫か?」

 プルーンが心配そうに聞くと、トレインが通り抜けた穴から「やったぞ! 上の階にでられた!」と嬉しそうに叫んでいた。

 二階の安全が保障されたので、他の傭兵達を足場を作って登っていった。

 トレインが筋肉を膨張されてくれたおかげで、彼らの屈強な身体でもすんなりと通る事ができた。

「おい、気をつけろ。せーの!」

 トレインが彼らの手を借りつつ、一同は新たな部屋に辿り着いた。

 そこは本棚がたくさん並んでいた。天井にはシャンデリアみたいにロウソクがぶら下がっていた。

「ここはなんだ……書庫かな」

「あぁ、たぶんそうだろうな」

 ゴールドは近くにあった本を手に取りペラペラとめくった。

「おや こいつは驚いた。アイスランド語で書かれているぞ」

「なに?!」

 傭兵達が群がって、ゴールドを持っている本に眼を通した。

 皆、様々な場所での任務に対応できるようあらゆる語学を修得しているからか、スラスラと読む事ができた。

「残念だが、これはおとぎ話だな」

 ゴールドはガッカリした様子でホンヲ閉じた。

「いや、面白いSFだと思うぜ。けど、まぁ、てっきり歴史的大発見かなと思ったが……」

 プルーンも考古学者が唸るような文章が書かれている事に期待していたのか、大きく溜め息をついた。

「時間の無断だったな。いくぞ」

 アーモンドにそう言うと、ドアの方を指差した。

 一同は揃って出口へと向かおうとした瞬間、ドアがバンッと勢いよく開かれた。

 現れたのはラムだった。

「ラム!」

「お前、無事だったのか!」

 プルーンとトレインが駆け寄ろうとしたが、ラムの朱色に染まった瞳を見たアーモンドが「待て。様子が変だぞ」と制止した。

 ラムは懐から小型のナイフを取り出して斬りつけようとした。

「そんなのは!」

「分かってるぜ! うぉおおおおお!!!」

 が、トレインとプルーンは彼女の異変を見切ったらしく、サッとかわすと鳩尾みぞおちとうなじに一撃を食らわせた。

「あっ……ぐっ……」

 ラムの瞳が朱色から白に変わり、膝から崩れ落ちた。

「おっと、大丈夫かい」

 ゴールドがしっかりと彼女を受け止めると、手首に触れた。

「うん、大丈夫だ。死んでない」

 彼の報告に傭兵達は一安心した様子だった。

「仲間の救出は完了……後はお姫様と悪魔の商人のみ!」

 ラムを取り戻したことで、野郎達の士気はさらに上がった。

 ラムを書庫に置いていく訳にはいかないので、トレインが彼女をおんぶして、進むことにした。

 部屋を出ると、長い廊下が続いていた。

 しかし、その先で誰かが立っていた。

 ゴリラのラリラリゴだった。

 彼は片手にバナナを持ちながら傭兵達を見ていた。

「すまん。変わってくれ」

 トレインはプルーンにラムのおんぶを任せると、大胸筋だけを動かして、ラリラリゴと向かい合った。

「俺の幼少期で過ごしたジャングルの血が騒いでいる……彼をぶちのめせとっ!!」

「うほーーー!!!」

 トレインとラリラリゴは胸を叩いてドラミングすると、豪速で向かった。

 ぶつかり合うのかと思ったが、衝突する前に互いの拳があたった。

 その衝撃波は廊下の窓ガラスを割った。

「よし、今のうちに行こう」

 ゴールド達は彼がゴリラと交戦している隙を狙って廊下を進んでいった。

「待てっぶっ?!」

 ラリラリゴは追いかけようとしたが、トレインに背後から殴られてしまった。

「余所見すんじゃねぇよ」

 トレインが肉食獣みたいな目つきをするが、ラリラリゴもまた野生児の本能を解放させたかのようなオーラを放った。

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