#37 魔王軍の兵士と激突
「おらぁ!」
怪力自慢達が魔兵士の顔面をめり込ませていた。
戦況は人間側の方が有利だった。
回復を担う白魔術師達の手によって、彼らの傷は常に癒やされていた。
「諦めろ! 我々の勝ちだ!」
バルサーマ兵士長が自分達の勝利宣言をするが、ドラゴン兵士長は不気味に笑った。
「フハハハハ……馬鹿を言うな。まだ戦いは始まったばか……ふごっ?! ぬぐっ?!」
ドラゴン兵士長は見栄を張ろうとしたが、その途中で突然苦しみだした。
それは魔兵士も同様で、中には気絶している者も急に飛び上がってもがき出した。
「総員、離れろ!」
兵士長は瞬時に異変を感じ、すぐに兵士や冒険者達を召集させた。
白魔術師に頼んでバリアを張り、警戒態勢をとった。
その一方、苦しんでいた魔兵士達を装備している鎧がボコボコと音が出ていた。
まるでトンカチで叩いたかのような音色があちらこちらから響き渡ると、ある魔兵士の胴体を覆っていた鉄の鎧が吹っ飛んだ。
床に転がった鎧は金属なのに綺麗に避けていた。
鎧を脱いだ魔兵士の胴体は凄まじい筋肉が発達していた。
それは他の部位も同様で、最初は人間と変わらなかった四肢が大木くらいの太さになっていた。
他の魔兵士達もポップコーンが弾けるかのように自分の身体に纏っていた鎧を壊し、たくましすぎるほどの筋肉を露わにした。
ドラゴン兵士長にいたっては、人型というよりはドラゴンそのものになっていた。
「おいおい、なんだよ。あれは……」
プルーンが顔を青ざめていた。
「こりゃあ、えらいことになったぞ」
ゴールドが魔王軍の変貌ぶりに驚きを隠せなかった。
「恐らくあの劇薬を投与していたのだろう……厄介だな」
シェイクは舌打ちしながらナイフを構えた。
ようやく変身が完了したのか、巨大化した魔物達が列を揃えた。
地獄塔で魔物達と対峙した時並の迫力に、兵士達を含め狼狽していた。
「怯むな! 我々はあの地獄を乗り切ったではないかっ! もしここで挫けてしまったら、姫はどうなる?! もうすでに目的は目の前にあるのだぞ!」
兵士長が鼓舞してくれた事で、兵士や冒険者達の闘志に再び火がついた。
「うぉーーーー!!!」
「やるぞーーーー!!!」
彼らは剣などの武器を天に掲げ、戦う意志を見せた。
すると、ドラゴン兵士長がフンッと鼻で笑った。
「愚かな奴らだ。自分達が最強だと自惚れてやがる……よろしい、ならば我々が圧倒的な力を見せて、その余裕たっぷりな顔を恐怖で染まらせてやろう!!!」
ドラゴンは天井が揺れんばかりに咆哮した。
それに伴い、魔兵士達もゴリラみたいにドラミングしながら迫ってきた。
「かかれーーー!!!」
バルサーマ兵士長の号令に一斉に向かった。
シェイクが早くも両手にナイフを持って構えた。
大勢いる兵士や冒険者達の間を通り抜けて、巨大化した魔兵士に一目散に向かった。
かつてオークの豪腕な腕に飛び乗った時はそのまま歩いていたが、今度は切れ味の鋭さが増しているのか、彼が動く度に腕が大根みたいに切られてしまった。
「グォオオオオオ!!」
絶叫する魔兵士にシェイクは舌の先を刺した。
「あっ、べっ……」
魔兵士は取り外そうとしたが、その前にシェイクが地上に飛び降りた。
もちろんナイフの柄を持ったまま。
魔兵士の舌は限界まで伸びたが、彼の筋肉の重りによってブチッとちぎれてしまった。
断末魔をあげる暇もないまま魔兵士は絶命した。
すると、ドラゴンが彼を飲み込んだ。
「シェイク!」
トレインが一目散に駆け寄ろうとしたが、二体の魔兵士が立ちはだかった。
「ちくしょう……やるしかないか」
彼は筋肉に力を込めて身体を膨張させた。
「ふんぬはぁっ!!!」
トレインを纏っていた衣服がはだけ、魔兵士並の筋肉美が露わになった。
「お前、まさか我々と同じ薬ぶぼっ?!」
魔兵士がトレインの肉体に驚いたが、その間に彼は魔兵士の顔面まで近づいて頬を殴っていた。
その威力は隣に立っていた魔兵士に重なるように飛んでいき、サンドイッチになって倒れていった。
「ハッハッハ、やるじゃないか。俺も負けてられないな。ふんぬっ!!」
トレインの猛撃にアーモンドも感化されたのか、彼よりも早く筋肉を膨張させた。
そして、死体の魔兵士を片手で持ち上げてぶん投げた。
魔兵士の頭に命中し、フラフラになった所へ兵士達が畳み掛けた。
他にも魔法使いが遠距離魔法を使ったり、兵士やSランクの剣士達が足元を斬りつけた所へ、プルーンとゴールドで頭を集中的に発砲させて息の根を止めた。
「おのれ、よくもわたぶぎゃああああっz」
ドラゴン兵士長が炎を浴びせようとしたが、突如腹から大量に出血した。
巨大な血肉が飛び散って、現れたのはシェイクだった。
無言でナイフに付いた血肉を振り払うと、ドラゴンの頭部に向かった。
「はぁ……はぁ……くそ」
ドラゴン兵士長は息も絶え絶えといった様子で、今にも死にそうだった。
「楽にしてやる」
シェイクがナイフを振り上げると、兵士長は「馬鹿めっ! 私がやられても魔王様がっ」と最後まで言い終える事なく両断された。
シェイクが頬に付いた血を拭っていると、兵士長が魔兵士の全滅を報告した。
皆、大勝利を確信したのか、陽気だった。
「ほほう、我が部下もやられ、残るは私だけか……」
しかし、この声に一気に冷めていった。
魔王が大広間ではなくエントランスに姿を現したからだ。
圧倒的な存在感に兵士長や冒険者達が震えていた。
傭兵達は動じなかった。
魔王は彼らの反応に嬉しくなったのか、
「さぁっ! 殺戮の宴を始めよう!」と禍々しいオーラを纏っていた。
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