#36 魔王と悪魔との取り引き
魔王軍と人間軍との衝突が行われる数分前に遡る。
魔王城の中央に位置する大広間――そこには巨大な王座に腰を座り、肘掛けに頬杖をついている人型の魔物がいた。
魔王だ。
彼の眼は凶暴化した獣のごとくあらゆる侵入者を仕留めた血で染まった眼をしていた。
口はこめかみに届くといわんばかりに裂け、髪の毛は一切生えておらず、眉間に赤い宝石がはめ込まれていた。
首は丸太のように太く、胴体もまた壁と思うくらい広かった。
四肢も一つ一つが怪物と錯覚するほどで、両腕は獲物を待ち構える大蛇、両脚は威嚇する獅子を彷彿とさせた。
その殺気漂う異空間にルーナ姫はいた。
ルーナ姫は魔王の迫力に逃げ出そうとしたが、メイにしっかりと腕を掴まれていたため、隙を見て逃走できなかった。
メイは涼しい顔で魔王を見ていた。
彼女だけではなく、悪魔の商人や殺し屋達も物怖じしている様子はなかった。
彼らの態度を見たルーナ姫は恐怖で震えていた。
『助けて』と叫びたくても、自分の味方は誰一人いない現実に嘆き、絶望した。
「これが私の嫁か?」
魔王はルーナ姫を眺めた後、口から無数の牙をのぞかせた。
「そうだ。あと、お前ら魔物の戦闘力をパワーアップさせる魔法の薬を用意した」
悪魔の商人はそう言って、アタッシュケースを開けた。
中には小型の瓶がズラリと並んでいた。
「本当に効くのだろうな。もし嘘をついた……」
「だったら、一本試してみるか?」
悪魔の商人はケースの中から一本取り出して魔王に投げた。
魔王はパシッと受け取るが、手が大き過ぎるのか一口サイズにしか見えなかった。
「残念だが、私には必要ない」
魔王はそう言っておきながら自分の
すると、そこへ大扉を強引に開ける音がした。
皆、一斉にその方を見るとドラゴンの兵士長だった。
「魔王様! 大変です! 人間どもが二つの試練を超えました!」
「なんだと?!」
部下の報告に魔王は玉座から離れられずにはいられなかった。
「あの大量の魔物達を突破するなんて……いや、焦るな。抜けたとしても四人ぐらい……」
「いえ、三百人です」
「さ、さささんびゃくにん?! そんな馬鹿な……」
魔王は空いた口が塞がらなかった。
これに悪魔のからは高らかに笑った。
「おやおや、随分焦っているみたいですね……このままだと魔王城に攻め込まれるのも時間がないですよ」
「ぬぅぅぅぅ……」
魔王は悔しそうな顔をしていた。
自分が悪魔の手玉に取られるのが許さないのだろう。
しかし、事態は|逼迫(ひっぱく)していた。
新たな兵士が魔王の元へ駆け寄ってきたのだ。
「魔王様、大変です! 人間どもが奈落の橋を渡りそうです!」
「はぁ? あそこには無限のーに湧き出て来る腕があるだろう。そう簡単に切り抜け……」
「どうやら白魔術師達がバリアを張って、黒い腕をは時期返すどころか、消滅させて……」
「おのれ、人間ども……我が軍勢を絶やすく蹴散らせるなんて……良い気になるなよ!」
魔王は肘掛け椅子を蹴飛ばした後、兵士長の方を向いた。
「すぐに全兵士をエントランスに集めろ! 我が最強戦力を見せてやれ!」
「
兵士長は魔王に敬礼すると、歩化を連れて広間から出ていった。
「我々も手を貸しましょうか?」
悪魔の商人は少し口角を上げて聞いた。
「お前達の力を借りなくても問題ない! それに……これがある」
魔王はさっきしまった劇薬を取り出した。
それを見た悪魔の商人は笑みをこぼした。
「では、全部あなたの部下達に送っていきますね」
「……あぁ」
魔王は悪魔の力を借りるのが余程嫌なのか、曖昧な返事をして奥へと進んでいった。
一見何の変哲もない壁だが、魔王が手を触れた瞬間、正方形の形がくり抜かれて、入り口が現れた。
奥へと進むと、見渡す限りの金銀財宝がしまっていた。
「おぉ……これは凄いですね」
いつの間にか後をついてきた悪魔の商人が眼を怪しく輝かせていた。
魔王はそれには言及せずに「人間達からの奪い取ったものだ。とはいっても、我が国では鑑賞用に過ぎないがな」と金のネックレスを彼に差し出した。
悪魔の商人は恭しく受け取って、ジッと眺めた。
「こんな所で眠っているのはもったいない。これだけあれば、さぞご自身の国を発展させる事ができるのに」
「ふんっ、私は人間達の真似事は嫌いなんだ。私は今のままで充分だ……さて、例の魔法のポーションと引き換えに好きなだけやろう。ただし、もし何か問題が起きたらすぐに処刑するかたな。覚悟しろ」
魔王は悪魔の商人を睨みつけるが、彼は全く気にしていない様子で「えぇ、ご安心ください。私が扱う商品はきちんとした検査をくぐり抜けたものですので」と本当かどうかも分からない事を言って、金のネックレスに口づけした。
魔王は悪魔の商人と取り引きをすると、すぐさま兵士長達に送った。
当然謎のポーションが現れた事に困惑する彼らだったが、魔王の命令には逆らうことはできず、渋々使った。
すると、不思議な事にポーションが酒みたいに酔いや味がある事に気づいた兵士達は群がるように劇薬を飲んだ。
ある者はニ、三本。またある者はそれ以上飲んだ。
兵士長は最後まで渋っていたが、覚悟を決めて飲み干した。
ただすぐには効果は出ず、エナジードリンクみたいにギンギンになった状態で人間達と対峙した。
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