#35 奈落の橋……そして、魔王城へ

 負傷した兵士や冒険者達の治療を済ませた一同は最後の試練である奈落の橋へと向かった。

 女神の加護か、それとも白魔術師の活躍のおかげか、二つの試練をくぐり抜けてもなお、死者は出なかった。

 しかし、それで有頂天になるほど彼らは甘くなかった。

 二つもの激戦を乗り越えたからか、顔つきや纏うオーラが変わっていた。

 ギルド長が彼らを召集した時とは比べ物nならないほど勇ましくなっていた。

 あるDランクの男はたくましい筋肉と獣のような眼差しを向けながら周囲を警戒していた。

 姫とイチャイチャしたいと欲望だだ漏れだった冒険者も凛々しくなり、心境も性的な欲望から『姫の救出』という高尚こうしょうなものに変化していた。

 ソーユもEランクだった頃とは違い、歴戦の猛者みたいな顔になっていた。

 白魔術師のピューラは聖女のようなオーラを放ち、猫耳のファニーは毛並みが金色になっていた。

 傭兵達は変わらなかったが、王国軍は変貌を遂げていた。

 鎧の傷やへこみがそれを物語っていた。

 新米もベテラン並の顔つきになり、身体的変化も大きかった。

 中には筋肉がつき過ぎて上半身裸になっているものもいた。

 バルサーマ兵士長は彼らの中でも一番の変化を遂げていた。

 まず、髭がたくましくなった。

 常に魔物と最前線に立って対峙してきたからか、目つきが狩人みたいに眼光が鋭くなった。

 彼をまとうオーラも変わっていた。

 王国を出発した時は単なる軍の司令官だったが、今では伝説級の英雄みたいな神々しいオーラを出していた。

 こうして、冒険者全員がSランク以上の力を身に着け、兵士達は一人が百人分ぐらうの戦力を持つまでに至り、兵士長に至っては千人分ぐらいの覇気を出していた。

「こいつらの成長すげぇな……まさかこっそり劇薬を使ったんじゃぁ」

 プルーンは少し不安そうにゴールドに話しかけた。

 ゴールドは「いや」と首を振った。

「あいつらが瓶を取り出して飲んでいるのを見ていない。間違いなく己の実力であんな風になっているのだろう」

「マジかよ。そんなに成長するなら劇薬なんていらないんじゃん」

「あぁ、商売上がったりだろうな」

 プルーンとゴールドがそんな会話をしていると、魔王城が姿を現した。

 まるで子供が適当に積み上げたかのよう形もバラバラな石で積み上げたような外観をしていた。

 だが、人間達を寄せ付けまいという禍々しいオーラを放っていた。

 その魔王城と不毛の大地とを結ぶ橋がかかっていた。

 恐らく人より重量のある魔物が通るからか、木や縄で作られたものではなく、しっかり石で頑丈に作られていた。

「これだったら人数制限もかける事なく進めるな」

 トレインが頷くと、兵士長は「総員、警戒しながら進めっ!」と叫び、橋に向かった。

 一同はいつでも襲撃に対応できるように身構えながら進んでいった。

 傭兵達も銃やナイフを持って戦闘態勢に入っていた。

 すると、突然橋の外から巨大な黒い腕が現れた。

「ふんっ!」

 すると、兵士長が飛翔したかと思えば、腕は真っ二つに斬られてしまった。

 腕は灰となって消えてしまったが、兵士長とは反対側に何本もの腕が向かった。

 すると、白魔術師達が合わさってバリアを張った。

 黒い腕は光魔法に弱いのか、バリアにあたった瞬間、感電したかのように痺れて消えてしまった。

「進めーー!! 進めーーー!!!」

 兵士長は号令をかけながら黒い腕を斬り続けた。

 黒い腕の方もここまで押されたのは初めてだったのだろう、プライドを傷つけられた彼らは怒り狂い、何千本もの腕を出した。

 禍々しい空を覆い尽くすほど大きくなり、それが雨のように彼らに降り注いだ。

 すると、白魔術師達が光の球のようなものを出した。

 それは太陽が落ちてきたかと思うほど神々しい光を放ち、黒い雨の方に向かっていく。

 腕がその光に触れた瞬間、眩しい光の爆発が起きた。

 一同は目を覆って失明を避け、再び開くと黒い腕は無くなっていた。

 そして、出る気配がなかったので、黒い腕は消滅したと考えた兵士長達は安心して橋を渡った。

 傭兵達の活躍がないほど強くなった彼らに、シェイクは「有給休暇取ろうかな」と呟いた。


 橋を渡り終えた一同はトゲトゲした大扉の前に向かった。

 当然そこには何十メートルもある巨人が通せんぼしてきたが、兵士長が彼らの両脚を削ぎ落として、仕上げに兵士達が殺人アリのごとく群がって痛めつけた。

 ドアは大人数で開けた事で開く事に成功した。

 ゾロゾロと中に入っていくと、早速魔物達とご対面になった。

 しかし、今までの魔物とは違い、人間と同じく鎧を着ていた。

 剣や盾も装備されていた。

 その中に鶏のトサカみたいな兜を頭に付けた魔物がいた。

 推定三メートルぐらいのドラゴンで、二足歩行していた。

 すぐさま兵士長は陣営を組んだ。

 兵士が最前列に立ち、真ん中に傭兵と兵士長、後方に冒険者達が並んだ。

「ここまでよく来た。褒めてつかわそう」

 ドラゴン兵士長は軽く拍手した。

「だが、ここからは誰一人として通しはしない。我が魔王様に忠誠を誓った魔王軍の誇りにかけて」

「悪いが、我々もハーモネッタ王国軍、冒険者ギルドの名にかけて、ルーナ姫の救出を成し遂げなければならない……そこをどけ」

「断るっ!」

「ならば……強行突破するまで!」

 ドラゴン兵士長とバルサーマ兵士長は突撃の合図をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る