#34 地獄塔
「うぉおおおおおお!!! 勝ったぞーー!!!」
「俺達は乗り切ったんだ!」
死の谷の試練を乗り越えたと分かった瞬間、兵士や冒険者達は喜びの雄叫びを上げていた。
中には眼に涙を浮かべる者もいた。
しかし、兵士長や傭兵は気を一切抜けていなかった。
「お前らっ! まだ始まったばかりだろうがっ! 死を抜けたら地獄が待っているぞ! さらに上の魔物がやってくる! 各自、準備が整い次第出発するぞ!」
兵士長の喝に兵士達は再び顔を引き締まらせた。
キズの手当てなどをすませた後、一行は先へと進んだ。
谷に潜んでいた魔物は戦意喪失したのか、現れる気配がなかったので、難なく進む事ができた。
谷を抜け、不毛の道へと進むと、塔が姿を現した。
石の塔で、かなりの年月が立っているのか、苔に覆われていたりヒビが割れたりしていた。
普通に考えれば、その塔に魔物がいるなら入らずに迂回して進めばいいと考える。
しかし、まるで通せんぼするかのように同じ塔が何件もあったのだ。
確実に塔の中に入らざるを得ない状況を知った兵士長達は意を決して塔に近づいていった。
すると、人間の気配を察したのか、全ての塔の木の扉が開いた。
中からミノタウロスやアラクメネ、オーク、サイクロプスなど死の谷に潜んでいた魔物よりも体長が何倍も大きく力強そうなオーラを放った魔物達がゾロゾロと出てきた。
横並びで立っている姿はさながら巨大な城壁だった。
その迫力に兵士達の顔は青ざめていた。
しかし、兵士達は「くじけるな! 進めっ!! 姫を救出するんだ!!」と叫んだ。
これに再び闘心に火を付けた彼らは咆哮を上げながら正面衝突した。
上級の魔物達は体長が高い分、棍棒などの武器や打撃の攻撃範囲が大きかった。
サイクロプスが棍棒を振り上げて地面に叩きつけると、その衝撃で兵士や冒険者達は吹っ飛んでいった。
が、傭兵達は魔物の体をよじ登って、こめかみ部分に連撃して絶命させていた。
しかし、地獄塔と呼ばれるだけあって、一体が倒れたらまたもう一体出てきた。
「くそっ! あの塔に何体いやがるんだっ!」
Sランクの剣士がオークの首をはねながら言った。
「あの塔をぶっ壊さないといけないな……よし」
アーモンドが塔に向かって走っていった。
当然魔物は彼を捕まえようとするが、アーモンドの老年とは思えないほど機敏な動きで魔物の手からすり抜けると、塔の近くまで接近できた。
「ぬぉおおおおおおお!!!」
アーモンドは雄叫びを上げながら塔の石を一つ引っこ抜いた。
巨大な魔物が住んでいる塔だけあって、一個だけでもアーモンドの背丈以上はあった。
常人ならば数十人いないと持ち上がらないが、彼は両腕だけで支えていた。
「ふんぬっ!」
アーモンドは巨大な石レンガをサイクロプスの頭に向かって投げた。
何百キロ以上の石が頭部に直撃したが、さすがの魔物でもただではすまなかった。
一撃あたれば
「ふんっ! そいっ! はっ! そいっ!」
アーモンドはジェンガを抜くような感覚で魔物達を襲撃していった。
それを見たSランクの怪力自慢も負けじと別の塔に駆け寄った。
「ふぬぅうううう!!!」
血管が何個も浮き出て、白目をむきながら石を取り出した。
それをアーモンドほどではないが、両腕を震えながらアラクメネを叩き潰した。
「塔! 塔の石を引っこ抜けーー!!」
「塔を壊せ! 壊すんだ!」
大勢の兵士や冒険者達も見習って塔に向かった。
しかし、常人では巨石を引き抜くのは難しく束になっても1ミリも動かなかった。
すると、白魔術師が力を10倍ぐらいあげる魔法かけた。
そのおかげか、筋肉ムキムキになった彼らは一人だけで石のレンガを持ち上げる事ができた。
何人もの兵士や冒険者達のマッチョが増殖すれば必然的に投石の数も増えていった。
巨大魔物達もさすがに全ての石レンガを防ぎ切ることはできなかった。
直撃した魔物は近くにした魔物を押しつぶすように倒れていくか、塔にもたれかかった。
塔は頑丈な造りにしているが、何体も魔物に倒されてしまったらさすがに崩れていった。
兵士達は倒れた魔物を踏み台にして、石を投げ続けた。
巨大魔物達も負けじと反撃に出るが、人間達も必死に防衛しているため、なかなか戦況を覆させられなかった。
互いの爆発的な力が拮抗しあい、ついに傭兵達も投石に参加する事になった。
彼らも加われば百人力で、あっという間に魔物達の数を減らしていった。
死の谷にいた魔物達みたいに敵前逃亡はせずに、自分は魔王城の門番なりと思い込んでいるかのように勇ましく戦っていた。
しかし、その闘心も覚醒中の人間達の集合的パワーにかかれば押されてしまった。
一体、また一体と倒れていき……ついに最後の一体が倒れた。
戦闘前までは石の塔がズラリと並んでいたが、今は瓦礫の山脈が広がっていた。
皆、常人的な力を使いすぎて苦しそうな息遣いが聞こえたが、それよりもこの地獄塔を突破した事実に狂喜乱舞していた。
「うぉーーーーー!!!」
「やったぞーーー!!!」
今にもたれかかった宴が始まりそうだったが、まだ最終関門が残っているのと目的を達成していないので、気を取り直して進む事にした。
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