#32 妖精の里
傭兵、冒険者、兵士達は自然豊かな森の中へ転移した。
そこには大勢の妖精がいた。
皆、背中に鳥の翼を生やしていた。
「うわぁっ?!」
「に、にににん人間だーー!!」
「逃げろ! 攫われるぞーー!!」
「殺される! おもちゃにされる!」
妖精達は突然人間がやってきた事で、阿鼻叫喚の地獄を味わっているかのように悲鳴をあげて逃げ惑っていた。
「待てっ! 我々は別にお前達の住処を侵略しにきたのではない!!」
兵士長がそう叫んだが、初めて会った者にそう言われて、やすやすと信じるような妖精ではなかった。
「嘘つけ! 人間ども!」
妖精の一人が睨みつけた。
「そう言って、安心させておいて、油断した瞬間に俺達を攫ったりするんだろ?! それで、変な実験に付き合わさせたり、悪い連中に売り飛ばしたりするんだろ?!」
妖精は威嚇するかのように叫んだが、彼の小さな身体は震えていた。
「確かにあんなメルヘンなものがいたら、あくどい奴らは商売道具にしたくなるのもなくはないな」
プルーンが頭をかいて言った。
兵士長が叫んだ。
「そんな事はない! 連れ去ったりとかしないから……頼むから、我々と協力して一緒に魔王を倒そう!」
何故か兵士長は妖精たちを勧誘し始めた。
これにはトレインは「待てっ! なぜあの子達が俺達の戦いに参戦しないといけないんだ?」と聞いた。
「いや、人手は増えた方がいいと……」
「馬鹿野郎!」
兵士長が最後まで答える前にトレインが兵士長の顔を殴った。
これには兵士はもちろん傭兵や冒険者達も驚いていた。
「な、何をするんだ?!」
兵士長が目を丸くしてトレインに聞いた。
トレインは大きく溜め息をついた。
「お前なぁ……姫の事件と全く関係ない者を無理やり戦場に連れて来させるなんて……許される訳がないだろ!」
彼は顔を真っ赤にして、兵士長に掴みかかった。
「だ、だが彼らの……彼らの魔法があれば戦況が変わる……」
「俺達を……人間を信用していない妖精たちに協力していいのは兵力を補わせるためだけではなく、魔王城までの道のりを聞くことだろうがっ!」
トレインの気迫にさすがの兵士長も「わ、分かった。分かったからその手を離してくれ」と眼で訴えた。
トレインは妖精と兵士長達の顔を見た。
「そこまでにしろ。これ以上揉めても前には進まない。魔王は待ってくれないぞ」
シェイクにそう言われたトレインは「分かった」と静かに手を離した。
兵士長は少し咳をした後、ゆっくり立ち上がった。
そして、妖精達の方を向いた。
「怖がらせてすまなかった。ただ我々は魔王と王国の姫を救出するという大事な仕事があるんだ。
だから、戦いに参加しなくてもいい。魔王城までの道のりを教えてくれ」
兵士長が深々と頭を下げると、これに妖精達が集まってヒソヒソと会議をしていた。
「どうする?」
「うーん、信用できるかな?」
「分からないよ。もしかしたら一芝居しているかもしれないし」
「でも、魔王を倒すとか言っているけど」
「魔王か……僕らもあいつらには困っているんだ。いつも魔物がやってきて追いかけっこさせられたり……」
「倒してくれるなら力を貸してあげてもいいんじゃない?」
「うーん……そうだね。そうしよう」
妖精達はそう言って彼らの方を向いた。
「分かりました。魔王城の道のりだけお教え致しましょう」
「おぉっ、すまない! 恩にきるよ」
兵士長は妖精達の判断にとても嬉しそうだった。
「魔王城へ行くためには三つの試練を乗り越えないといけない」
妖精が数字の三をジェスチャーして言った。
「試練って……何をするんだ?」
プルーンが聞くと、妖精は「試練とはいっても誰かに『ここを通りたければ〇〇しろ!』とかじゃなくて、死人が出るくらい困難なスポットはあるんだ。それが三つもある」と答えた。
「一つは死の谷……ここは主に魔物の巣窟。一歩入れば人間の匂いを嗅ぎつけた有象無象の魔物達が襲撃する。こんなに大勢でも生き残れるのは僅か……かもしれない。
二つ目は地獄塔。上級の魔物達が住んでいる塔を通らなければ橋には通れない。Sランクでも切り抜けられるかどうか……。
ようやく抜け出して、魔王城が目の前。しかし、最後の試練が待っている。それが
「ゴチャゴチャうるせぇな」
すると、プルーンがいきなり割り込んできた。
これには周りの妖精や人達が静まり返った。
「そんな脅しをしたところで引き下がらねぇよ。突き進むだけだ。そうだろ?」
プルーンは仲間の方を見た。
「あぁ、そうだ」
「こんな所で道草くっている場合じゃねぇ」
「早くラムを救出しないと」
「悪魔の商人をぶっ潰してやる」
傭兵達は魔物や魔王よりもラムや悪魔の商人達の事で頭がいっぱいだった。
少しだけ彼らと空気感が違うからか、兵士長達が戸惑っていた。
「……まぁ、一つ頼む」
兵士長が咳払いすると、妖精は「では、ご案内します」と言ってフワフワと飛んでいった。
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