#31 姫救出作戦を開始する!!

 その結果、ギルドの前に大勢の冒険者達がつどった。

 階級は最低ランクのEから最高のSまで幅広く集まっていた。

「お姫様と結婚できるなんて最高じゃねぇか!」

 Cランクの男はあらぬ妄想をしているのか、舌なめずりしていた。

「巨万の富が手に入れば安定した暮らしが約束される……野宿なんかしなくていいんだ!」とDランク冒険者は歓喜の声をあげた。

 その他も各々欲望を抱きながらギルド長を待っていた。


 一方ギルド長を含めたギルドの職員達は大勢の冒険者達に困惑していた。

「どうしましょう……こんな大事になって」

「別にいいじゃなぇか。人数多いほうが成功する確率はあがるぞ」

 シェイクが腕を組みながら言った。

「しかし、まだ実力不足のやつもいる」

「そういう奴は補助とか雑魚な魔物でも倒させればいい。とにかく今は強大な敵に立ち向かうには大でも小でも数が欲しいんだ」

 ゴールドが熱を込めてギルド長を説得させると、ギルド長は「分かった。君達の熱意に負けたよ」と言って外に出た。


 大勢の冒険者達の後方には、国王も同席していた。

 もちろん兵士達が護衛にあっていた。

 そこへギルド長が姿を現した。ドアの隙間からシェイク達が様子を見ていた。

 ギルド長の出現に騒ぎ出す冒険者達。

「静かに!」

 国王がそう叫ぶと、彼らは王がいる事に戸惑いつつ素直に黙っていた。

 ギルド長は咳払いしてから話し出した。

「皆、国王の愛すべき娘であるルーナ姫が攫われたのはもうすでに知っていると思う。これからその救出に向かう。ただ向かう場所は恐ろしき魔物が住む巣窟――魔物を束ねている魔王もいる。

 本来であればSとAランク冒険者クラスが行く場所だが、もしBランク以下でも行きたいという者がいるなら残ってくれ」

 ギルド長はそう言って一旦口を閉じた。

 誰一人動かなかった。

 集団的な心理が働いているのかもしれないが、何よりもその欲望――巨万の富や幸せを手に入れるかもしれないというチャンスを逃したくない思っているのだろう。

 国王派冒険者達の決意に胸を打たれていた。

「おぉ、勇ましき者達よ。こんなにも参戦してくれる者がいて、私は嬉しいぞ。さぁ、我が娘の身体に汚らわしき魔族の血が流れる前に我が国の……いや、人間の底力を見せてあげようではないか!」

 国王の言葉に冒険者だけでなく兵士達も雄叫びを上げていた。

 国王の言葉を受けてギルド長が声を出した。

「では、これより転移魔法で魔王城から一番近い所にある妖精の里で転移しようと思う。そのまま待て!」

 ギルド長の命令に冒険者達はざわついていた。

「妖精の里だと?」

 アーモンドが驚きの声をあげた。

「コナン・ドイルも大喜びだな」

 プルーンが冗談交じりに言っていると、ギルドの職員が冒険者達がいる所に向かうように指示してきた。

 彼らは素直に従って冒険者達の輪の中に入っていった。

 冒険者達は彼らの異様な姿とそれをまとうオーラにおののいていた。

 その中に「シェイクさん!」と見知った様子で近づく者がいた。

 白魔術師のピューラだった。

「お前……無事に帰れたか」

 シェイクは知り合いと再会出来て少し安堵したような顔をした。

 ピューラに続き、猫耳のファニー、黒髪童顔男のソーユもやってきた。

「お前ら……」

「あの……ラムさんは?」

 猫耳のファニーが彼女の姿がいない事に瞬時に気づいていた。

 シェイクは彼らにラムがいない理由を話すと、ファニーは「なんてことだ……悪魔の商人許さない!」と猫の尻尾を斜め上に立てた。

 ソーユは「あぁ、だってこんなに美味しい依頼……引き受けないわけないじゃないか!と回りくどい言い方をして返した。

「あっ! お前らはっ!」

 すると、謎の声が聞こえてきた。

 他の冒険者達が道をあけるように割って入ってきたのは、かつて酒場で傭兵達に喧嘩を売って痛めにあったSランクパーティーだった。

 剣士、黒魔術師、狙撃手、怪力自慢の四人組は傭兵達を見つけるや否や、取り囲むように対峙した。

「よぉ、お前ら……ここであったが百年目! この前のお返しをさせてもらうぜぇ」

 剣士はそう言って詰め寄ろうとするが、トレインが冷静に「今は喧嘩している場合じゃないだろ。皆一致団結して魔物と戦わないと」と言った。

 これに剣士は「そうだな。お前らごときにこの俺様の評価が下がったらたまったものじゃないな」と納得した様子で抜きかけていた剣を鞘から手を離した。

「それでは妖精の里へワープする! 用意はいいか!」

 ギルド長がそう呼びかけると、兵士や冒険者達は「うぉおおおお!!!」と咆哮した。

「では……|転移《》!」

 ギルド職員がそう唱えると、彼らの周囲が光に覆われていた。

 そして、それが消え去ると、ギルドの前は閑散としていた。

「……頼んだぞ」

 国王は祈るように呟いた。

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