#29 行方

「う……く、くそったれめが……」

 プルーンが毒吐きながらゆっくりと起き上がった。

 ゴールド達も満身創痍といった様子で立っていた。

「……さすがに今のは効いた」

「あぁ、そうだな」

「しかし、悪魔の商人の野郎、取引する相手はこの国の王じゃないのかよ」

「他にも候補があるのか……ん?」

 傭兵達が話していると、ヘチーマ王子が目を覚ました。

「ちょうどいい。あいつに何もかも話してもらおう」

 アーモンドが不気味な笑みを浮かべながら彼に近づいていった。


「さぁ、悪魔の商人は何を企んでいるんだ?」

 アーモンドは嬉々とした表情を浮かべながらヘチーマの頭を掴んでいた。

 その様はまるでマフィアのボスに行った尋問に似ていた。

「し……じらない! じらないがらゆるぢで!!」

 ヘチーマの顔は元のクールな表情の面影すら無くなるほどボコボコにされていた。

 彼は必死に命乞いするが、アーモンドは髪を鷲掴んだまま顔を引き寄せた。

「とぼけるな! お前がお姫様を攫うように依頼したのは分かってるんだよ!」

「お、お姫様……何のことだ?」

「ルーナ姫だよ! お前、あいつのこと好きだったんだろ? だから、殺し屋に頼んで連れ去ったんだろ?」

「こ、好意を抱いていたのは事だ! けど、だからといって連れ去るようなことはしない! 女神に誓って言うよ!」

「こいつ……」

 アーモンドは睨みつけると、シェイクに止められてしまった。

 アーモンドは不服そうに止め、入れ替わりでシェイクが彼の前に立った。

「本当に知らないんだな」

 彼は王子の眼を逃さないように見つめた。

「あ、あぁ……」

 ヘチーマは震えながら目を合わせた。

 ほんの少しの間だけ見つめ合った後、シェイクは「嘘はついていないみたいだな」と彼の顔面に蹴りを入れた。

 王子の顔は潰れ、彼はカエルの呻き声みたいな声を出して気絶してしまった。

「とどめを刺すか?」

 ゴールドがナイフを見せて聞くが、シェイクは「いや、いい。それよりも奴らの次の取り引きをする相手を見つけないと」と言って奥へ進んでいった。

 ゴールド達も彼の意見に賛成らしく、ゾロゾロと進んでいった。


 傭兵達は悪魔の商人に関する手掛かりがないか、手当り次第に引っ掻き回していた。

 もちろん国王や大臣、召使にも聞いたが、有益な情報は得られなかった。

「……困ったな」

 トレインがスキンヘッドをポリポリとかいた。 

「このままだと奴らの取り引きを阻止することができないぞ」

「邪魔されないような場所はねぇのか」

 プルーンがワイナリーからくすねたボトルをグイッと呷った。

「邪魔されないような……」

 プルーンが言ったことをピックアップして復唱していた。

「それだ」

 シェイクは何か思いついたのか、指を鳴らした。

「奴らは一切邪魔が入らないような場所で取り引きをするつもりだ」

「あぁ、それは当然だ。けど、その場所が知りたいんだ」

 プルーンの指摘にシェイクは「思い当たる節がある」と書物庫で手に入れた地図を広げた。

「確か俺達がここへ来る前、女神とやらが『マオウを倒してほしい』と言っていた」

「あー、そんなこと……言っていたような、言っていないような」

 トレインは腕を組んで思い出していた。

「ここを見てみろ」

 シェイクはある場所を示した。

 ゴールド達は彼の差した方を注視すると、『魔王城』と書かれていた。

「マオウ……ジョウ……マオウジョウ! でも、それがなんだ」

 すると、またしても馬鹿みたいな笑い声が聞こえていた。

 傭兵達が一斉に見てみると、ヘチーマだった。

「お前、まだ起きれる気力があったのか」

 アーモンドが目を丸くしていた。

「へ、へへへ……地獄に行く前に置き土産をしてやるぜ……お前らが向かう魔王城はその名の通り世界最強と呼ばれる魔王がいる城だ! 魔物の大軍は我が国の10倍はある! いずれ世界を支配する存在……断言する! お前らには魔王は勝てない! 絶対に……」

 ヘチーマが傭兵達をあおると、苛立ったプルーンが彼の眉間に穴を開けた。

 ヘチーマ王子は今度こそ絶命した。

「世界最強か……ふん、どうだか」

 アーモンドは半信半疑といった様子でシガーを吸った。

「だが、人数がこの国の倍となるとかなり厄介だな……いくらなんでも数が多すぎたらさすがに負けるぞ」

 トレインがそう指摘すると、シェイクは「だったら、増やせばいいだろ」と無表情で言った。

「増やすって……誰に頼めばいいんだ?」

 ゴールドが首を傾げると、シェイクは「この世界には俺達みたいに金をやれば危険な任務をこなしてくれる組織があるじゃないか」とニヤッと笑った。

 

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