#27 劇薬の力

 兵士長は部下がふっとんだ事に一瞬動揺したが屈することなく前進した。

「進めっ! 進めっ! 進めーーー!!」

 彼の掛け声は兵士を鼓舞させるのに充分な発揮をさせていた。

 しかし、それよりも五人の傭兵の底力の方が遥かに勝っていた。

 アーモンドが剣を振るえば数人の兵士が飛んでしまった。

 プルーンが放つ銃弾は猛毒を持つハチみたいに瞬時に命を奪った。

 トレインの肉体はダイヤモンドみたいで、どんなに矢が刺さっても膨張させればたちどころに元の状態に戻るのであった。

 さらに相手の剣を素手で受け止め、それを叩き割ったりするなど異常な怪力を披露した。

 シェイクは光の速さで兵士の動きを封じていた。

 兵士が剣を振り上げる頃には、シェイクにニ、三回斬られてしまっていた。

 ボウガンや銃弾も全てを見切っているかのようにナイフで弾き返されていた。

 そこにゴールドが加勢してきたから、さらに威力が上がった。

 筋肉老人ことゴールドもまた剣の動きを予想してかわした後、苦しまぬように一瞬で命を奪っていた。

 この五人の猛攻にさすがの兵士長も「退けー!!」と引き戻した。

 再び両者相まみえる状態となった。

「……お前らの真の実力は痛いほどよく分かった」

 兵士長は頷いた後、ポケットから小さな瓶を取り出した。

 他の兵士達も次々と取り出す。

「お前……まさか?!」

 ゴールドの顔色が明らかに変わっていた。

 兵士長は「クックック」と不敵な笑みを浮かべた。

「この薬も悪魔の商人様からいただいたものなんだ。これを飲めばたちまち百人力になる……と」

「おいおい、それって大統領が言っていたヤバイ劇薬なんじゃないか?!」

 プルーンが叫ぶと兵士長はグイッと呷った。

 それに続くように次々と兵士飲んでいく。

 傭兵達は身構えていた。

「うぐっ?! くっ……がはぁ?!」

 兵士長が瓶を落とした。

 パリーンと激しく瓶の破片が飛散した。

 伝染するように兵士達も続々と瓶を落としていった。

 皆、水中でもいるかのように苦しんでいた。

 すると、兵士一人の腕が肥大化していった ボンレスハムみたいにパンパンに膨らんだかと思えば、そのまま破裂してしまった。

 どうやら劇薬が身体を受け付けられなかったのか、他の兵士達も風船みたいに膨らんで破れていった。

 血肉風船は廊下を紅く染め、悪臭を漂わせていた。

 しかし、中には膨張が筋肉へと変貌した者もいた。

 それは異常な筋肉が付いた怪物だった。

 体臭も二倍ぐらい大きくなっていた。

 兵士長に至っては、天井スレスレまで巨大化していた。

「うわぁ……これCGじゃないよね」と化した彼らを見ていた。

「なるほど。大統領が『世界のパワーバランスが崩れる』と言ったのも納得だな」

 ゴールドがそう言うと試しに一発撃ってみた。

 兵士一人の腕に命中したが、まるで効いていなかった。

「グハハハハ!! バカナヤツラダナ!」

 兵士長が片言で嘲笑った。

「コノママ、オマエラヲ、チマツリニ、シテヤル……ソウダロ?!」

 兵士長は覚醒した兵士達の方を向けて叫んだ。

「ウォーーー!!」と雄叫びみたいな声が響きわたった。

 様変わりした彼らに傭兵達の額から汗が流れていた。

 ナイフを持つグリップも強くなっていた。

 両者に妙な静けさが流れた。

 ゴールド達は怪物達を睨み合った。

「いくぞ! ウォオオオオオ!!!」

 兵士達は兵士達を率いて傭兵達の方に突っ込んでいった。

 傭兵達を素早い動きで向かっていったb

 兵士長含めた怪物達の足音はドスドスと地響きを鳴らして進んでいく。

 兵士長が拳を振り上げた。

 シェイクはそれをナイフの刃で受け止めようとしたが、強さが勝っていたのか、彼の方が押されてしまった。

「ぐっ?!」とシェイクが吹っ飛んでしまったが、空中で何回かグルグルと回転した後、ピタッと着地した。

 が、今度は兵士による猛撃が始まった。

 彼らは廊下の床に穴を空けんとばかりの勢いでシェイクに殴りかかっていた。

 それをシェイクは華麗な身のこなしで避けていくが、兵士達も負けじと追い詰めていった。

 怪物化した兵士たちの素早さは尋常ではなく、ギリギリまで迫っていた。

 兵士の拳があたった。

 彼は再び吹っ飛ばされるが、死の淵から生還した粘り強さからか、何ともない顔をしていた。

 他の傭兵達も多少苦戦したが、生存本能は作動しているからか、今までにないほど素早くなった。

 消えたのかと思うくらい動きが見えなくなり、気づけば兵士がバラバラになっていた。

 これには怪物達も動揺していたが、劇薬の副作用か、逃げようとする気はなく、むしろさらなる戦いの過激化に嬉しそうだった。

 獣みたいに夢中になって殴りかかっていた。

 怒涛の勢いに傭兵達は押されていった。

「チッ……面倒くさい奴らだな」

 プルーンが舌打ちする。

「トレイン、プルーン、アーモンド、ゴールドは兵士達を。俺はかしらをやる」

 シェイクはナイフを二つ持って兵士長の方に突っ込んでいった。

「ぬおんっ!!」

 兵士長のは待ってましたと言わんばかりに拳を振るった。

 しかし、彼は巧みなナイフさばきで両腕を斬り落とした。

「ぐっあぁぁぁぁ……」

 兵士長は絶叫しようとしたが、シェイクは勢いそのまま首を切り落としてしまった。

 岩みたいな大きさの頭がボトリと落ちていった。

「……駆除完了だ」

 シェイクは血塗れの双剣をヒュッと落とした。

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