#26 勝手に殺すな。愚か者が。
ヘチーマ王子と兵士長を含めた王国軍が傭兵を亡き者にして自分達の軍事力の凄まじさに酔いしれていると、「ふわぁ」と廊下に響き渡るぐらいに大きなアクビが聞こえてきた。
乱痴気騒ぎだった兵士達は急に静まり返り、互いの顔を見合わせていた。
「おい、今の……」
「まさかな」
半信半疑の中、傭兵達が倒された所から呻く声とアクビとゲップの不潔アンサンブルが響いた。
「嘘だろ……」
ヘチーマ王子は何度も目を擦っていた。
「そんな馬鹿な……あれだけの攻撃をくらってまだ生きているなんて……」
兵士長も唖然としていた。
彼らの視線の先にはゴールド、プルーン、シェイク、トレイン、アーモンドが立ち上がっていたのだ。
全身に矢を突き刺され、血まみれだったが、皆何も起きていないかのような顔をしいた。
「なんだか長い夢を見ていたような気がするな」
ゴールドが首のストレッチをしながら言った。
「あぁ、そうだな」
アーモンドはズボンのポケットの中に手を突っ込んで、グシャグシャのシガーに無理やり火をつけると、美味しそうに吸っていた。
「そういえば昨日からまともに寝ていなかったな」
プルーンはそう呟いて、兵士が飲み残した酒瓶を拾ってグイッと飲んだ。
「それに何だか身体がみるみるうちに元気になったぞ」
トレインは全身に刺さった矢がツボに効いたのか、フンッと筋肉を膨張させて落としていた。
「さて、再戦と行こうか」
シェイクは刃が血で濡れたナイフを手に取って、兵士長の方に向けた。
「この……化け物どもが」
ヘチーマ王子の顔は死人みたいに青ざめていた。
「おいおい、なんだ。お化けみたいな眼で見て……まさか本当に死んだと思ったのか? 馬鹿にするな。俺達は
シェイクはそう言って床に落ちていた剣を手に取った。
それ以外の傭兵達も次々と剣や銃を持って戦闘態勢に入っていた。
これにヘチーマ王子や兵士長達は動揺していた。
「王子を守れ!」
兵士長の号令によりヘチーマ王子は兵士達に抱えられながら奥の方へと去っていった。
その様子を傭兵達は静かに見ていた。
「フンッ、お前達が何度も生き返ろうが、我々には悪魔の商人様からもらった無敵の武器がある。そんなひ弱な武器でボウガン、ガトリング銃に勝てるとでも思っているのか?」
兵士達はあおるが、プルーンは彼と似たようば態度で鼻を鳴らした。
「おもちゃで喜んでいるなんてガキかよ……言っておくが、俺達はまだ本気を出しちゃいない……そうだろ?」
プルーンが傭兵達を見ると、皆頷いていた。
これに兵士長は大笑いした。
「蘇って知能が低下したか! 私はこの眼でお前達が我々の武器に苦しみ、消えていくのを見届けていたぞ!」
「お前の方こそ頭大丈夫か? あれは仮眠だよ!」
プルーンが叫ぶと、彼が放った銃弾がガトリング銃を操作している兵士の眉間に貫通した。
これが再戦の合図となった。
「うてーーい!!」
兵士長が叫ぶと、ガトリング銃が回転しながら目にも止まらぬ速さで弾丸を浴びせてきた。
が、傭兵達は巧みに剣やナイフを使って弾いた。
「ボウガン部隊!」
兵士長がすぐさまボウガンを持つ兵士に合図を送った。
彼らは廊下の端から端まで整列すると一斉に放った。
が、銃弾同様に真っ二つにされてしまった。
「怯むなぁ! 相手は重傷だ! ゴリ押せばいけるぞ! いけ、いけーー!!」
兵士長は彼らの士気を上げ、前進させた。
しかし、傭兵達もまた距離を縮めていた。
互いの距離が縮まるに連れ、兵士達が次々と倒れていった。
彼が放つ銃弾は確実に兵士達の魂を奪っているのだ。
王国軍側の武器はまるで全く違う方に向けられているかのように一発も傭兵達に被弾していなかった。
彼らは多くの弾丸と矢を持っていた。
しかし、それすら無くなってしまうのではないかと錯覚するぐらい死の淵から帰還した傭兵達の勢いは凄まじかった。
両者共に譲れない睨み合いを繰り広げた。
シェイクがナイフを投げて、ガトリング銃の操縦者に再び即死させた事で帝国軍側に隙が生まれた。
その瞬間を逃すまいとゴールドとアーモンドが果敢に発砲した。
それは全て兵士達にあたり、バタバタと倒れていった。
兵士長は金切り声をあげ、ボウガン兵達を動かした。
彼らは震える手で傭兵達に向けて発射したが、闇に消えるように命中しなかった。
「くそっ! くそっ! なぜだ、なぜだ!」
兵士長が顔を青ざめていた。
みるみるうちに戦況が変わっていく。
少し前までは優勢どころか圧倒的勝利を収めていたはずの王国軍側が今ではたった五人の怪物によって押されているのだ。
「わ、我々には悪魔の商人様から頂いた殺戮武器があるのに……あるのに……なぜだ!」
兵士長は雄叫びを上げながら剣を抜いた。
「こうなったら、我々の剣で直接対決といこうじゃないか! 総員、突撃ーーー!!!」
兵士長の号令によって、全ての兵士が遠距離型の武器から近接型に変わった。
兵士長を筆頭に大勢の兵士が傭兵を取り囲ん斬りかかった。
シェイクはナイフを構えると、「待ってたぞ」と怪しい笑みを浮かべた。
流れ星のごとく目の前にいた二人の兵士に斬りかかった。
その衝撃は凄まじく吹っ飛んで壁に激突していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます