#22 来たぞ

「……たぶんクラッシャーが暇潰しに撃ったんだろう」

 シェイクはそう言って、怪物の肉塊を拾い始めた。

「な、ななななんだよ?! 一体何が起き……起きたってんだ?!」

 ソーユはまだ状況が呑み込めていないのか、困惑していた。

 ファニーとピューラも同様だった。

「簡単に言えば、怪物の頭の中に爆弾が入って、お前が石を投げた時にそれがあたって作動させたのかもしれない」

 アーモンドがソーユ達にも分かりやすいように説明すると、シェイクと同じく肉片を集め出した。

「何をしているんですか?」

 ピューラが聞くと、シェイクは「怪物を討伐した証拠がないと報酬がもらえないだろ」と言った。

「確かにそうですね」

 ピューラは納得したように頷くと、若干触る事に抵抗がありながらも肉片集めに協力した。

 ソーユとファニーも一緒に集め、それに連れて他の傭兵達も回収の手伝いをした。

 一時間ぐらいで綺麗な斜面に戻り、乾いた道に肉塊の山が積み上がっていた。

「おぉ〜! すげぇ集まったな」

ソーユはシゲシゲと肉片の山を眺めていた。

「でも、どうやって運ぶの? 荷馬車もないし……」

 ファニーが肉塊の山を見ながら何か良い方法はないかと巡らせていた。

「だったら直接見てもらえばいいじゃねぇか」

 プルーンがそう言った。

 ソーユとファニーは彼が何を言っているのかピンと来なかったが、ピューラだけは「なるほど……ちょっと待ってください!」と言って木の棒を拾った。

 それを持ったまま肉塊の山に近づくと、それを囲うように図形を描き出した。

 傭兵達は彼女の行動に困惑していた。

 そうこうしているうちに、ピューラは「転移ポポーラ」と唱えた。

 すると、彼女が描いた図形が光り出し、肉塊の山が消えてしまった。

 この現象に傭兵達は唖然としていた。

「……何をしたんだ?」

 アーモンドが聞くと、ピューラは「転移魔法で肉片をギルドに送ったんです」と真面目な顔をして答えた。

「あ、あぁ……魔法ね。便利だね」

 トレインが困惑していた。

「ねぇ、プルーン。あの子達に何をさせようとしていたの?」

 ラムは呆然とているプルーンに耳打ちすると、彼は「いや、ギルド連中をこの湖までドラゴンに乗せて連れてきてもらおうと思っていたんだが……予想外のことが起きたな」と腕を組んだ。

「まぁ、この湖の美化活動は終わった事だし、どうするんだ?」

 プルーンの質問にアーモンドは「取り敢えず、ヘーマッタ王国に行くか」と溜め息混じりに答えた。

「ヘーマッタ王国だと?」

 ソーユがアーモンドが言った国に反応していた。

「知っているのか?」

 アーモンドが聞くと、彼は「あぁ……俺が生まれた国なんだ」と答えた。

「なに?!」

 トレインが目を丸くした。

「妙だな」

 ゴールドが呟いた。

「なぜ他国の……その……何でも屋で働いているんだ? お前の出身国にはギルドという組織は存在しないのか?」

 少し圧力をかけて言うと、リーユは「違うよ。あるにはあるが、あそこは居心地が悪くてな……だから、ハーモネッタ王国に引越ししたんだ」

「ふーん、そうか」

 ゴールドは頷いた後、手を叩いた。

「よし、案内しろ」

「はぁ?」

 ゴールドの突然の提案にソーユは驚いていた。

「何を言っているんだ? 俺の任務は怪物退治だ。ギルドの職員でもない奴らの依頼なんて引き受けるわけがないだろ」

 ソーユは拒否してこのまま帰ろうとした。

「じゃあ、お姫様救出の手柄をあげると言ったらどうだ?」

 ゴールドがそう付け加えると、ソーユはすぐに「喜んでやらせてもらおう」と二つ返事でオーケーした。

 あまりにも即決だったので、ゴールドは動揺していた。

「おいおい、怪物退治の時はあんなに渋っていたのに姫の救出の手柄をあげると言ったら即決か」

「下心丸出しだな」

 プルーンがヘヘッと鼻をかいた。

 すると、ソーユは指先をモジモジさせながら言った。

「い、いや、俺は……もし、その手柄をくれたらSランクに昇格どころか、国の英雄となって、あわよくば姫と結婚イダダダダ!!」

 彼が妄想に捗っていると、それを阻止するようにファニーが彼の頬をつねった。

「はぁ……ひとまずギルドに送った怪物の肉片の処理をしないといけないので、一旦帰国していいですか?」

 ファニーはそう言うと、シェイクは「好きにしろ」と言って周辺に銃をかまえた。


 ソーユ達はピューラの転移魔法でギルドに戻った。

 彼らが戻るまでの間、傭兵達はジッとしていられないのか、湖の周辺をランニングし始めた。

 そうこうしていると、ソーユ達が戻ってきた。

 袋には金貨が入った袋を持っていて、胸元には『A』と印されたバッチがつけられていた。

 傭兵達は彼らと一緒にドラゴンに乗ろ、ヘーマッタ王国へと向かった。

 傭兵達は全く気にしていなかったが、ソーユ達は彼らから放つ汗のアンモニア臭に苦しんでいた。

 六人中四人ぐらいが筋骨隆々でかつ上半身裸になりたがる傾向にあった。

 ゴールド、アーモンド、プルーン、トレインは乙女の前なのに堂々と大胸筋を動かしていた。

 そんな様子をファニーとピューラはドン引きした眼差しで見ていた。

 ソーユは筋肉四人衆の圧倒的なオーラに黙ってしまった。

 そんなこんなでヘーマッタ王国に着いた。

 外観はハーモネッタ王国と大差変わらないが、城壁が立派で兵士の数も多かった。

 下界にいる彼らは突然のドラゴンの登場に大騒ぎしていた。

「どうする?」

「降りれば確実に大乱闘だな」

「だったら、直接会いに行こうぜ」

 傭兵達はそう話して、ドラゴンに乗ったまま国内に突入した。

 当然国民や兵士達はパニックになった。

「魔王だ! 魔王軍が攻めてきたんだ!」

「終わりだ。この国は終わりだ!」

 人々がそう騒ぐ中、城壁にいた兵士達は弓矢を使ってドラゴンを撃ち落とそうとした。

 が、シェイクやゴールド達に弾き返されてしまった。

 この状況にソーユ達は一緒に付いてきた事を酷く公開した。

「もし捕まったら処刑は確実ね……」

 ファニーがそう言うと、ソーユとピューラは黙って頷いた。

 強行突破で城へと向かっていく。

 城には多くの兵士達が待ち構えていた。

「いいか、目を狙えば確実に怯む!」

 兵士長がそう言うと、兵士達はほぼ同時に構えた。

 ドラゴンが近づくまでの間、兵士達に緊張感が走っていた。

 もし激突されてしまったら、この国は終わるからだ。

 この国の運命は兵士長達の号令に託された。

「放て!」

 兵士長が腕を振り上げると、兵士達は無数の矢をドラゴンに浴びせた。

「いけ! ジョン!」

 しかし、ラムが叫ぶと、ドラゴンは火の玉を出した。

 その球は余りにも巨大で矢を消し去り、兵士長達の方へと向かっていく。

「退避! 退避ああああああ!!!」

 兵士長達はすぐさま立ち去ろうとしたが、火の玉の方が早く彼らは消し炭となってしまった。

 ドラゴンはゆっくりと城に降りると、傭兵達は銃を握りしめながら城内へと潜入した。

「いいか。もしかしたら悪魔の商人や殺し屋達が潜んでいる可能性がある。くれぐれも気をつけるんだぞ」

 ゴールドが傭兵達にそう注意すると、シェイク達は黙って頷いた。

「あれ? あの子達は?」

 すると、ラムがソーユ達がいない事に気づいた。

 実は傭兵達がドラゴンから降りた直後、こっそりと転移魔法を使ってハーモネッタ王国へ帰っていたのだ。

 傭兵達もそう考えた。

「しかし、もったいないな。もしかしたら国王から称賛されたかもしれないのにな」

「まぁ、まだまだ未熟だってことさ」

 トレインとプルーンが盛り上がっていると、ラムが「無駄話してないで行くよ」と先に行ってしまった。

 野郎五人衆も姫救出のミッションに集中し、真剣な顔でラムの後をついて行った。

 しかし、傭兵達は気づいていなかった。

 外で待機しているドラゴンの近くで男が潜んでいた事を。

 その男は異世界に相応しくないスーツ姿をしていた。

 白髪頭で黒縁メガネ男の手には手提げカバンを持っていた。

 もう片方の手にはルーナ姫がいた。

 彼女の口には喋れないようタオルで巻かれていた。

 男は姫を連れてドラゴンに近づいていった。

 当然ドラゴンは警戒するが、彼から放つ異様なオーラにすぐに黙ってしまった。

「乗れ」

 淡々とした口調で命じるが、ルーナ姫は立ち止まっていた。

 すると、男は手提げカバンを降ろしたかと思えば、目にも止まらぬ速さでルーナ姫を気絶させた。

 男はポイッと投げ捨てるようにドラゴンの背中に乗っけた後、自分も軽い身のこなしで乗った。

「行け」

 男がそう言うと、ドラゴンは素直に翼を広げ、どこかへ飛び去ってしまった。


To Be Continued……。

 

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