#21 怪物退治へ

「……それで、なぜお前らがここにいるんだ」

 シェイクが尋ねると、猫耳少女ことファニーが「あっ! そうだ! こんな所で油を売っている場合じゃなかった!」と思い出したかのような顔で声を上げると、未だに目を開けない黒髪童顔男の頬をパパンと叩いた。

 すると、ようやく彼は目覚めた。

 ゆっくりと起き上がると、近くに傭兵達がいる事に驚いていた 

「ねぇ、ソーユ! 早くハーモネッタ湖に行こうよ!」

 猫耳少女はそう催促すると、ソーユは「あぁ、そうだな」と逃げるように歩き出した 

「おい、待て。まだ俺の質問に答えてないぞ」

 シェイクはそう呼び止めて、二人の前に立ちはだかった。

「湖に何の用があるんだ? まさか奴らとグルじゃあ……」

 シェイクは二人を睨む。

「何の話をしているの? 私達はただギルドの依頼で湖に住む怪物を倒しに向かうだけ! 邪魔をしないで!」

 ファニーは強めの口調でそう言うと、尻尾を斜め上にして威嚇した。

「怪物? どんなやつだ」

 アーモンドの質問にソーユが答えた。

「あぁ、体長何十メートルもある巨大な怪物だ。もしそれを倒したら、EランクからAへ昇格できるチャンスなんだ。だから、早く行かしてくれ!」

 彼はあからさまに苛立った感じで足をパタパタさせていた。

 すると、ピューラがラムから離れると、ソーユ達の方に合流した。

「ソーユ。彼らと言い争っても勝ち目がないことぐらい分かっているでしょ?」

「え、いや、まぁそれはそうだけど……ケンカを売ってきたのは向こうだぜ!」

 ソーユは彼らを指差して抗議した。

「ねぇ、せっかくだから一緒に怪物退治を手伝ってくれないか頼んでみましょうよ」

「おいおいおい、なんでこいつらにそんな事をしないといけないんだよ!」

「だって、あのドラゴンを手なづけているんですよ? 彼らと一緒に戦った方が確実に倒せると思いますし、死ぬリスクも圧倒的に減ります。もし討伐に成功したらもうSランクパーティーの人達に馬鹿にされる事もなくなるんですよ?」

「だけどなぁ……」

 ソーユとピューラが言い争っていると、ゴォーと轟音が聞こえてきた。

「何この音?!」

 ファニーが叫ぶと、「静かにしろ」とシェイクが諌めた。

 傭兵達はすぐに空を見上げた。

「おい、あれ!」

 プルーンが指差すと、遠くの空に何か煙を出して飛んでいるのが見えた。

 アーモンドが「まさか」と思って覗き込むと、レンズの向こうにクラッシャーが馬車を下から持ち上げながら飛んでいるのが見えた。

「クラッシャーだ」

 アーモンドがそう言うと、トレインが「じゃあ、追いかけないとな」と言ってドラゴンの方へ向かおうとしたが、ゴールドに「いや、待て。もし仮にそれに乗って追いかけたらかえってお姫様を危険にさせる可能性がある」と止めた。

「……確かに行く場所は分かっているじゃらな。焦らなくても大丈夫か」

 トレインは納得したようで、ウンと頷いた。

 すると、ラムがピューラの所へ行くと、「よかったらドラゴンを治療してくれたお礼に一緒に怪物退治のお手伝いをしてあげる」と提案した。

 ファニーとピューラは嬉しそうな顔をしたが、ソーユは「いや、けっこう」と断った。

 二人は何故と尋ねると、彼は「忘れたのか? こいつらはギルドを破壊させたんだぞ! もしかしたらうまい事を言って俺達の手柄をネコババするかもしれない!」と傭兵達の方を見て睨んだ。

「おい、青ガキ。俺達がいなかったら、今ごろ新メンバーのチャイナ服女に撃たれてお陀仏になっていた所だぞ」

 プルーンが嫌味っぽく言った。

 これにソーユはますます腹を立てて、「いくぞ! ピューラ! ファニー!」と無理やり二人を連れて行こうとした。

「待て」

 すると、シェイクが彼らを呼び止めた。

「なんだよ。もう話は済んだろ?」

 ソーユ彼を睨むと、シェイクは冷静な声で「お前らが退治する怪物の所まで送ってやるのはどうだ?……こいつで」とドラゴンの方を指差して言った。

「……え?」

 彼からの提案にソーユは動揺した。

「あのSランクでも乗るのが難しいとされているドラゴンに乗れる……最高じゃん!」

 ソーユはそう独り言を言うと、「いいだろう」とあくまで自分が上だという態度をとって承諾した。


「うひゃーー!! すげーー!!」

 ソーユは少なくとも傭兵達の前では見たことないぐらい声を上げていた。

「頑張れ、ジョン! 湖まであと少しだから」

 ラムはそう言って、ドラゴンの頭を撫でた。

 傭兵達とソーユ、ファニー、ピューラはドラゴンの上に乗っていた。

 ソーユはまるで自分が一人前の冒険者になったかのような顔つきで下に広がる光景を眺めたり、自分と同じ高さにある雲に少年のような眼差しを向けていた。

 対して、ファニーとビューラは未体験の高さに震えていた。

 もし何かアクシデントが起きて真っ逆さまに落ちてしまったら――と想像してしまい、身体をガタガタ震わせていた。

 それにシェイクが「心配するな。落ちそうになったら助けてやる」と励ましになるかどうかも分からない言葉をかけていた。

 そうこうしていると、湖がすぐ近くまで見えた。

 ドラゴンはゆっくりと降りると、彼らが降りやすいようにしゃがんだ。

 傭兵やソーユ達は順番に降りると、湖の長閑な景色を眺めた。

「パッと見た感じ、怪物なんていなさそうだけど」

 プルーンがそうこぼすと、ソーユが「怪物はあの中に潜んでいるんだ」と湖の方を指差した。

「何だ? まさかネッシーだとは言わないよな?」

 プルーンがそう言うと、ソーユは首を傾げた。

「ネッシー? いや、お前らが何を想像しているのか、さっぱりだが、とにかくあの中に巨大な怪物がいるんだ」

「で、どうやって倒すんだ? まさか潜るんじゃないだろうな」

 シェイクがそう聞くと、ソーユは「いや、こうするんだ」と近くにあった石を投げた。

 ポチャンと水面みなもに落ちた。

 再び静まり返る湖。

「……何も起きないぞ」

 ゴールドが痺れを切らしてそう言った。

 ソーユは「あれ? おかしいな」と呟いてもう一回投げた。

 が、結果は同じだった。

「怪物なんて初めからいなかったんじゃねぇか」

 プルーンはそう言ってスキットルの蓋を開けて口をつけた。

 すると、水面が盛り上がってきた。

「き、来たぞ!」

 ソーユは直感で怪物が来た事を察し、慌てて安全な場所まで逃げた。

 傭兵達は銃を構えていた。

 赤ドラゴンも何か察したのか、立ち上がって唸っていた。

 水面から現れたのは――頭にミサイルが刺さったツルツルの目のない怪物だった。

「あ……が……」

 怪物が何か言おうとしたが、何かの拍子にミサイルに衝撃が加わって、爆発した。

 怪物の血肉が地上にいる傭兵やEランクパーティー達に降り注ぐ。

 あまりもあっけなく終わった怪物退治に声を失ったかのように静まり返ってしまった。

 頭部を失った怪物はブクブクと湖の中に沈んでいった。


To Be Continued……。

 

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