#20 乗り心地は最悪だ
一方、赤ドラゴンに乗っている傭兵達は湖が見えた事に安堵していた。
もしかしたらドラゴンが方向音痴で、全然見当違いの方へ向かっていく可能性があったからだ。
「どうだ? お姫様は見えるか?」
プルーンが聞くと、双眼鏡を覗き込んでいたアーモンドが「ん?」と声を上げた。
「どうした。UFOでも見つけたか?」
ゴールドが聞くと、アーモンドは「いや、何かこっちに向かってきているんだ」とジッと見た。
「えーと、あれは……おいおいおい、ミサイルじゃないか!」
アーモンドが叫ぶと、ラムが「逃げて、ジョンっ!」とドラゴンに命じた。
「グォオオオオオ!!!」
ドラゴンは咆哮して翼を羽ばたかせた。
ミサイルの速度は凄まじくギリギリでかわした。
安心したのも束の間、続けて一発、二発が迫ってきた。
さらにかわしたはずのミサイルが戻ってきた。
「クソッ、追尾式か」
シェイクが舌打ちした。
ドラゴンは懸命にかわそうと奮闘するが、ミサイルの性能の方が上手で、左の翼にあたってしまった。
たちまち絶叫して大きくバランスを崩すドラゴン。
「ジョンっ!」
ラムが燃え盛る翼の消火を試みようとするが、ただでさえ狭い乗り場を移動するのは困難に近く、それ以前に消火できる手段を持っておらず、どうすることもできなかった。
しかし、ドラゴンは自分の身の危険を察したのか、徐々に降下していった。
ミサイルは容赦なくドラゴンに牙をむいた
尻尾、足、尻――とジワジワと痛めつけるようにドラゴンを弱らせていった。
「あああ、もうっ! ミサイルぶっ放したやつ、絶対に殺してやる!」
ラムが殺意剥き出しの瞳で叫んだ。
「恐らくやっているのは"ミサイルクラッシャー"だな」
ゴールドは危機的な状況であるにも関わらず、非常に冷静だった。
「どうする、ゴールド」
アーモンドも落ち着いた様子で聞いた。
ゴールドは「ミサイルはお前の方が詳しいだろ」と返した。
アーモンドは「……そうだな」とジャケットの内ポケットから手榴弾を取り出した。
「うるさいハエは叩き潰すに限るな」
アーモンドは少し傭兵達の間を通って狙いやすい位置まで移動すると、安全ピンを抜いて投げた。
それは一直線にミサイルの方に飛んでいき、ぶつかった瞬間、双方とも爆発した。
その熱波は当然ドラゴンや傭兵達にも襲いかかった。
耐えきれなくなったドラゴンは気絶し、高度を下げていった。
傭兵達はしがみつくのに精一杯だった。
「頑張れ、ジョン!」
ラムは必死に呼びかけた。
しかし、ドラゴンの耳には届いていなかった。
ヒュルヒュルと風を切って落ちていく。
さらに追い打ちをかけるように数発のミサイルが迫ってきていた。
「あぁっ、くそっ! 今日はやけについてないぜ」
シェイクが舌打ちをしてミサイルを睨んだ。
「おーい、マジかよ。最後にカミさん、抱きたかったなぁ……」
プルーンが嘆きながら頭をかいた。
「ジョン! ジョン! お願い、目を覚まして!」
ラムは諦めずにドラゴンを呼び続けた
無慈悲にもミサイルの着弾のタイムリミットが迫ってくる。
このまま傭兵達はミサイルの餌食に遭ってしまうのか――に見えた。
ラムの声が届いたのか、ドラゴンはカッと目を見開くと、片方の翼で態勢を立て直し、口から炎の球を吐いた。
それがある一発のミサイルに命中し、爆発を起こした。
「よしっ! いい子ね!」
ラムはそう褒めると、ドラゴンは迫りくるミサイルを狙って炎の球を何発も吐いた。
ミサイルは炎の球を検知できていないのか、あっさりと着弾して爆発を起こして跡形もなくなってしまった。
これ以上ミサイルが来なくなった事を確認した傭兵達は喜びの声を上げ、ラムは「あなたは最高よ」とドラゴンにキスをした。
それがドラゴンの力をさらに奮い立たせ、墜落することなく地上に着地した。
「ジョン!」
ラムは降りてすぐにドラゴンの元へ駆け寄ったが、もう虫の息といった様子だった。
「ジョン。ジョン……そんな……あぁ……」
ラムの涙腺は崩壊し、このまま天へ旅立つドラゴンの死を悲しんだ。
野郎達はラムの様変わりに困惑していた。
「ラムって、あんな風に涙を流すんだな」
プルーンがボソッと言った。
「恐らく人間達ではあんな風な顔はしないだろうな」
アーモンドが腕を組んで言った。
「でも、オークの時はいつも通りだったぞ」
トレインが付け足す。
「あぁ……たぶんタイプじゃなかったんだろ」
アーモンドはそれっぽい事を言った。
すると、傭兵達以外の所から人の声がした。
これに彼らは瞬時に反応して、銃を構えて警戒した。
ラムは涙を拭った後、「ぶち殺す」と呪いの言葉みたいに呟き、いつでも発射できる準備をした。
彼らは全方向を見ていた。
声は木々の中から聞こえてきた。
複数人いるのだろう、何やら騒がしかった。
シェイクが目視で声のした方向を指差した。
傭兵達はソロリとその方へ銃を向けていく。
ガサガサっと衣服が草にあたる音がした。
「だから、ハーモネッタ湖はこっちのほ……うわぁ?!」
黒髪童顔男のソーユが顔を出した瞬間、ラムによって転ばされてしまった。
あっという間にラムに銃口を突きつけられたソーユは彼女のあまりの剣幕に失神してしまった。
「……人違いか」
ラムは溜め息をこぼし、銃を突きつけるのを止め、「残りの二人も出てきなさい」と茂みの方に向かって言った。
野郎達は銃を構えたままだったが、ラムに降ろすようにジェスチャーで言われてしまったので、彼らは素直に銃をしまった。
すると、白いローブ姿のピューラと猫耳少女のファニーが恐る恐る現れた。
「あの、えっと、ごめんなさい!」
「お願いですから命だけは勘弁して!」
「命乞いする暇があったら、あの子に効く傷薬とか持ってないの?」
ラムはそう言って、瀕死寸前のドラゴンの方を指出した。
いきなりドラゴンの登場に二人は目を丸くした。
「え? まさか、お姉さん達が……」
「もしそうなら傷の手当てなんか頼まないでしょ。ねぇ、誰か持ってないの?」
ラムは銃をちらつかせながら脅す口調で聞くと、「あの……」とピューラが手を上げた。
「傷薬もってるの?」
「いえ、そうじゃないんですけど……あの、私、治療できるかもしれません」
「本当?!」
ピューラの言葉にラムは迫る勢いで聞いた。
「え、えぇ……私、こう見えても白魔術師ですから……回復魔法ぐらいは修得しています」
「魔法でも何でもいいから、早くジョンを治療して! 今にも死にそうなの!」
ラムは催促すると、ピューラは「わ、分かりました」とオドオドしながらドラゴンの方へ向かった。
傷だらけのドラゴンを見たピューラは「酷い……誰がこんな事を」と物哀しげに言った。
「少し離れてください」
ピューラにそう言われたラムは「分かった」と言って野郎達の方へ向かった。
「本当に治療できるのか? 俺はあんな小娘が怪物の傷を治せるとは思えなイタタタ!!」
プルーンが半信半疑なのか、嫌味ったらしく言ったが、ラムに足を思いっきり踏まれてしまったので、中断された。
ピューラは真剣を研ぎ澄ませているのか、杖を構えてジッとしていた。
「……
ピューラがそう叫んだ瞬間、ドラゴンが光に包まれた。
傭兵達はあまりの眩しさに目を
猫耳少女も両目を覆っていた。
ピューラは真剣な眼差しでドラゴンを見ていた。
光が収まると、さっきまで傷だらけだったのが嘘みたいに綺麗になっていた。
「ジョン!」
ラムはすぐさま駆け寄って、ドラゴンが呼吸しているかどうかを確かめた。
巨大な図体とは思えないほど可愛らしい寝息をたてているのを聞いて、ホゥと息をついた。
「ありがとう、ピューラ。あなたは命の恩人よ」
ラムはドラゴンが死なずに済んだ事に涙を流して喜び、近くにいた白魔術師を抱きしめた。
「ど、どういたしまして……」
ピューラは褒め慣れていないのか、頬を赤く染まっていた。
To Be Continued……。
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