#18 姫の行方

 案内――と思えば、大体この村内にあると想像するだろう。

 しかし、バルサーマ兵士長は奇妙な事に荷馬車に乗るように指示した。

 これに傭兵達は困惑していたが、何か考えがあるのだろうと思って黙って従って荷台の上に乗る事にした。

 ちなみにテントみたいなものは張られておらず、剥き出しだった。

 目的地に着くまでの間も彼らは抜かりなかった。

 ゴールドはジャケットの内ポケットから写真の束を取り出して、一枚ずつ確認していた。

「何してるの?」

 ラムが聞くと、ゴールドは「さっきのゴリラ……どこかで見たことあるんだ」と言って見ていた。

 何枚か写真を目視した後、ある一枚に目が止まった。

「おい、これだ」

 ゴールドが他の傭兵達に見せた。

 その写真にはまごうことなきゴリラが写っていた。

 だが、メイを攫った時のような異様な知性があるような雰囲気は一切なく、動物の本能剥き出しのゴリラだった。

「お前、ゴリラ好きだったのか」

 アーモンドは彼の意外な趣味に驚いていると、ゴールドは首を振った。

「違う。ゴリラはゴリラでもも、ただのゴリラじゃない」

 彼はそれを皮切りに話し出した。

「確かある国が極秘で動物による知性向上実験を行っているという噂を耳にした事がある」

「知性向上実験?!」

 ラムは目を大きく見開いて叫んだ。

「何よ、それ。動物は動物のままの方が一番良いのに。ライオンをシマウマにさせるために、たてがみを切り落として白黒模様をペイントするようなものじゃない。 そんな傲慢な事件があるなんて、許さない……」

 ラムは親指の爪を噛みながらブツブツ呟いていた。

 野郎五人衆は彼女の反応に戸惑っていた。

 が、ゴールドは構わずに続けた。

「……まぁ、それを行っている研究所がゴリラに人間と同等の知性を与える事に成功した……という情報を得た時は、ただのデマかエイプリルフールの嘘かと思ったが、まさか本当に成功していたとはな……信じられない」

 ゴールドは溜め息をついた。

「そのゴリラがなぜ人間の殺し屋なんて奴と一緒にいるんだ?」と、トレインが写真をマジマジ眺めながら尋ねた。

 ゴールドは「これはあくまで俺の推測に過ぎないが、恐らくそのゴリラは悪魔の商人に雇われたんじゃないかな」と語った。

「なぜだ?」

 シェイクがすかさず質問した。

「きっと大暴れでもしたのだろう。猿の惑星みたいに」

 トレインが大胸筋をピクピクさせながら言った。

 ゴールドは頷いていた。

「たぶんトレインの言う通りかもな。それを知った悪魔の商人が彼の実力を買って部下にさせたんだ」

「そのゴリラがここに来ているという事は、あの港での取り引きにいたってことか?」

 プルーンがそう聞くと、ゴールドは「あぁ」と頷いた。

「もしそうなら、他にも殺し屋が乗っているかもしれないな……あの車って何人乗りだっけ?」

「遠くで見た感じは、六人だったな」

 シェイクがタバコをふかして言った。

「という事は……あと三人いるってことか」

 ゴールドはそう呟くと、写真の束の中から三枚抜き出した。

 皆、その三名に注視した。

「おいおいおい、こいつらがいるってことなのか?」

 トレインが目を丸くした。

 ゴールドは「あぁ、悪魔の商人が雇いそうな殺し屋といえば、こいつらぐらいしか思い浮かばない」と一人一人指差した。

 アーモンドはシガーを咥えながら「"ミサイルクラッシャー"、"ダンシングキラー"、"スーツマン"……どいつもこいつも国際指名手配されている奴らじゃねぇか。燃え上がるな」と嬉しそうに笑った。


 さて、殺し屋の話をしているうちに荷馬車が止まった。

「着いたぞ」

 バルサーマ兵士長はそう告げた。

 傭兵達は馬車から降りるや否や、目の前に広がる光景に驚愕していた。

 そこには巨大な赤い皮膚のドラゴンが寝ていた。

「な……なんだ、これ。テーマパークのマスコットキャラか?」

 プルーンがそう言うと、ドラゴンの目がカッと開くと、ゆっくりと起き上がった。

 体長は五メートルは越えるだろうか。

 ドラゴンはギロッと人間達を睨むと、「グォオオオオ!!!」と咆哮した。

 この迫力にさすがの傭兵達も言葉を失っていた。

「これが我が国の最速の移動手段だ」

 バルサーマ兵士長がドラゴンの迫力に押されながらも気絶しないようにギリギリの状態で保っている顔をしていた。

「ただかなり凶暴で、我々も捕まえたはいいが、なかなか思うように言う事を聞いてくれなくて……」

「可愛い!!」

 すると、ラムが兵士長の話を無視して、自分の心の感情を叫んだ。

「……え?」

 バルサーマ兵士長は彼女の発言に戸惑っていた。

 他の傭兵達も同じだった。

 ラムは瞳を輝かせながらドラゴンの方に近づいていった。

 当然警戒心の高いドラゴンは彼女の接近に『来るな』と言わんばかりに唸っていたが、ラムはお構いなしに近づいていった。

「おーよしよしよし……怖がらないで。私はなたの味方だからね……ジョン」

 国の所有物であるドラゴンを勝手に名付けにしながら近づいてくると、ドラゴンの方が驚いていた。

 ラムは既にドラゴンの足元に来ていた。

 このままパクリといってしまうのではないかと緊張感が漂う中、ラムはパラダイスに来たのかのようなテンションが上がっていた。

「さぁっ! いらっしゃい!」

 ラムが両手を広げると、ドラゴンはゆっくりと頭を下げた。

「総員、警戒態勢!!」

 バルサーマ兵士長は彼女の身に危険が及ぶと思ったが、大勢の兵士が弓を構えていた。

「いや、待て」

 シェイクが彼らの動きを止めた。

 ドラゴンは自身の頭をラムの方に向けた。

 少し匂いを嗅いだ後、彼女の身体に近づけた。

「いい子ね、ジョン」

 ラムは嬉しそうにドラゴンの頬を撫でた。

 ドラゴンは彼女に擦り寄るように甘い声で鳴いた。

「そんな……馬鹿な。我々でも手がつけられなかったドラゴンがあんな犬猫みたいに……」

 バルサーマ兵士長は信じられないという顔をしていた。

 シェイクは「あぁ、あいつはそういう奴だ」と言って彼女に近づいて行った。

 すると、さっきまで甘えていたドラゴンが急に本来の姿に戻って唸っていた。

 すると、ラムが「怖がらないで。彼は何もしないわ。もしあなたをいじめるような奴がいたら代わりに地獄よりも恐ろしい拷問を味あわせてあげるから」と囁いた。

 彼女の言葉が通じるのか、また大人しくなった。

 これにシェイクは「よし、いいぞ」と残りの野郎達も呼んだ。

 ゴールド、アーモンド、プルーンはトレインはシェイクの方に向かったが、ドラゴンは寝そべっていた。

「乗っていいそうよ」

 ラムがそう言うと、ゴールドが「こいつの言葉が分かるのか?」とドラゴンを指差した。

「えぇ、普段からワンちゃん猫ちゃん……ゴホン、何となくよ」

 ラムはそう言ってドラゴンの赤い皮膚を登っていった。

 野郎達も同じように登ると、ドラゴンは咆哮を上げた。

「さぁ、ドラゴンちゃん。ハーモネッタ湖まで飛んでちょうだい!」

 ラムがそう指示すると、ドラゴンは大きな翼を羽ばたかせて、上昇していく。

 下にいる兵士長や兵士達は風圧に負けないように踏ん張るのに精一杯だった。

「こりゃいい。ファーストクラスでも体験できないな」

 アーモンドは嬉しそうにシガーをふかしていた。

 が、ラムに「ドラゴンちゃんに変な煙を吸わせないで」と睨まれたので、アーモンドは素直に投げ棄てた。


To Be Continued……。

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