#13 聞き込みという名の押し入り

 一部始終を見ていた酒場の店主のはからいによって、お代は免除された。

「とんだミスを犯してしまったな」

 アーモンドが歎きながら後頭部をかいた。

「ここはドル札どころか、紙幣もキャッシュレスも使えない。なぜこんな大事なことをもっと早く調べなかったのだろうな」

 傭兵達はアーモンドの言葉に同感していた。

 すると、バルサーマ兵士長が部下二人を連れて近づいてきた。

 まさか無銭飲食未遂がバレてしまったのかと、傭兵達の間に緊張感が漂った。

 が、兵士長は彼らを見つけると、「すまなかった」と頭を下げた。

「お前達に姫の捜索資金を手渡すのを忘れていた」

「なに、そんなのがあるのか?!」

 プルーンが目を大きくさせた。

 バルサーマ兵士長は「あぁ、少しでも円滑に姫の救出をするために国王様が援助してくださるんだ」と言って手のひらに乗っかるくらいの小さな袋を渡した。

 ゴールドがそれを受け取って、紐を緩めると、中には数十枚の硬貨が入っていた。

 取り出してみると、キラッと月明かりに負けないくらい輝いていた。

「これは驚いた。本物じゃないか」

 ゴールドが小さな目を大きくさせると、兵士長は「当然だ。国の金だからな」と心外だとでも言いたそうな表情をした。

「すまない。ありがたくちょうだいさせてもらうよ」

 ゴールドはそう言うと、酒場の方へ向かった。

 店主に免除された金額を渡すつもりらしい。

「進展した事は?」

 バルサーマ兵士長が我慢できないいった様子で尋ねてきた。

 シェイクが「今分かっている事はスパイのロートは敵国ではなくマフィアに雇われていたということ。姫は恐らくそいつらに捕まった可能性があるということ……まぁ、簡潔にまとめると進展無しだ」と溜め息をついた。

「そうか……」

 兵士長は残念そうな顔をした。

「引き続きよろしく頼む。我々に何か協力できる事はあるか?」

「じゃあ、こいつを見かけたらすぐに通報してくれ」

 シェイクはいつの間にか手にした殺し屋メイの写真をバルサーマ兵士長に渡した。

 兵士長は「誰なんだ。この人は」と瞬きした。

「メイ・リー。恐らく姫をさらった奴だ。たぶんまだ国内に隠れていると思う」

 シェイクがそう言うと、兵士長は「なんだと?! すぐに捜索する」と顔色を変え、部下を連れて行ってしまった。

「あんなことを言っていいの? 殺し屋ってだけで攫ったかどうかも分からないのに」

 ラムが不安そうに聞いた。

「大丈夫だ。これで警備は厳重になって治安は守られるさ」

 シェイクはそう言ってタバコに火をつけた。

 そこへゴールドが戻ってきた。

「どうだった?」

 アーモンドが尋ねると、ゴールドは「お金を渡そうとしたら受取拒否されちまってな。無理やり渡してきて帰ってきた」と銃を見せつけて言った。

「脅しでお勘定する人、初めて見た」

 ラムが呆れたように溜め息をつくと、ゴールドは「殺人罪で起訴されても無銭飲食で捕まるのはごめんだ」と独特の返しをした。

「ところで、兵士長はどこに行ったんだ?」

「殺し屋を血眼になって探しに行ったよ」

 プルーンが頭をかきながら言うと、ゴールドは「大丈夫なのか?」とラムと同じ反応をした。

 シェイクは少し不安になったのか、「骨くらいは拾ってやるさ」とタバコを消した。


 さて、傭兵達はこの国で一番お手軽な宿屋に泊まる事になった。

 しかし、最安値ということだけあって、部屋の中はネズミや虫が追いかけっこしていた。

 壁にはシミやカビ、血痕の跡らしきものがあった。

 さらに全体的に薄いせいか、あらゆる所から罵声と喘ぎ声が入り混じっていた。

 ベッドは壊れる寸前というオプション付きだった。

「最高の宿だな」

 傭兵達はそう自己暗示をかけ、各々の部屋に向かった。

 荷物を適当に置いた後は、手当り次第に聞き込みという名の突入をした。

 こういう治安の悪そうな宿にこそ、裏社会の人間がわんさか根城にしている事を彼らは熟知していた。

 傭兵達は相手がお盛ん中だろうが、入浴中だろうがお構いなしに聞き込みを行った。

 写真を見せつけ、知っているかいないかの問答をする。

 抵抗したり危害を加えようとしたら、少ししつけをしたりした。

 その結果、メイやドローガーの事を知っている男を見つけた。

 40代の男で、名前をバンドームと言った。

 この男はマフィアの中では下っ端で、主に食料調達などの雑用をしていた。

 アーモンドに数回殴られて真っ赤になった彼はマフィアはハーモネッタ王国から数キロ離れたマーモット村に拠点を置いているらしい。

 バンドームは荷馬車を使って物資を運んでいるらしいので、ゴールドは銃を突きつけながら同乗させろと脅した。

 当然下っ端は泣きながら承諾し、夜も明けないうちに出発させてくれた。

 傭兵達は食料品が入った木箱に紛れて静かに待った。

 その時間は彼らにとっては大して緊張はしていなかったが、銃などの手入れをして万全の状態でいつでも戦闘できるようにした。

 常にバンドームを監視して、裏切るような行為がないか確認していた。

 一切喋ることも水を飲む事も仮眠を取る事もなく、その時を待った。

「着いたぜ」

 バンドームがボソッと小声で傭兵達に伝えた。

 傭兵達の間に緊張がはしる。

 いよいよルーナ姫の救出作戦が始まる事を予期したかのように、ニワトリが声高らかに鳴いていた。



To Be Continued……。

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