#11 酒場でブレイクタイムといこうじゃないか

 他の傭兵達も続々とギルドの外に出た。

「あいつは?」

 アーモンドが尋ねると、トレインは「姿を消した」と首を振った。

「ちくしょう! なんて逃げ足の早い奴なんだ!」

 プルーンが怒りに任せて叫んだが、まだ煙が肺の中にこもっていたのか、酷く咳き込んでいた。

 シェイクは野次馬を確認していた。

 どの冒険者達も事態をあまり把握できていないのか、傭兵達を呆然と見ていた。

 その中にソーユ達の姿もあった。

 シェイクは急いで彼らの元へ駆け寄ると、まずは「大丈夫か?」と様態を聞いた。

 ピューラが「えぇ、何ともないです。あなたのほうは?」と尋ねてきた。

「俺も別に怪我はしていない。それより、さっきあのピンク髪の女と口論になっていたな」

 シェイクはソーユの方を向いた。

 自分だと気づいた彼は「え? あぁ、まぁ……そうだけど、それが何か?」と頷いた。

「いつ知り合ったんだ?」

「えっと……お前達が門番と揉めていた時だ」

 ソーユはそう言った後、メイとの出会いについてを語り出した。

「いきなり後ろから声をかけられたんだ。誰だと聞いたら旅人だと答えた。あの女は俺達を見て冒険者かと聞いてきた。そうだと返したら、私を仲間にしてほしいと頼んできた。自分は戦闘経験豊富だからきっと役に立つ……とな。

 俺は加わる前にギルドに登録しなければならないと答えた。その時に天が裂けたのかと思うくらい甲高い音が響きわたった。

 すると、あの女はお前らの方を見た後、急ぐように入国した。ちょうど兵士長と入れ替わりだった気がする

「なるほど」

 シェイクは頷くと、引き続き質問した。

「ピンク髪の女がお前らのチームに加わって……その、虫みたいな何かを倒しに行った時、そいつは何か聞かなかったか? 不審な行動でもいい」

 この問いにピューラが答えた

「不審な行動……はなかったですが、格好は他の冒険者達と装いが違うなとは思っていました。それ以外は明るい性格かな……あ」

 すると、何かを思い出したのか、瞳孔どうこうが大きく開いた。

「何か思い出したか?」

「例のオークがいた森に行ったのかと聞かれました。そうですと答えると、その人は私達以外にも誰かが来ていなかったかと尋ねられたので、あなた達のことを……非常に興味深そうに聞いていましたよ」

「そうか……他は?」

 シェイクはメイについてさらなる情報を得ようとしたが、ピューラは「それだけです」と答えた。

 シェイクは残念そうにお礼を言った。

 すると、ファニーが溜め息をついた。

「あいつ、あんなに素早かったなんて……なんで実戦でやってくれなかったのよ!」

 尻尾を斜めに上げながら怒り心頭といった様子だった。

「待った。あの女が逃げていく様子が見えたのか?」

 シェイクはまた引っかかったらしく、今度はファニーに質問した。

 猫耳少女は戸惑いながら「えぇ……くっきりとじゃないけど、あのピンク髪と大胆に脚を見せびらかしているドレスが印象的だったから、通りかかった瞬間、彼女だと思ったわ」と返した。

「どっちの方へ行った?」

「たぶん酒場がある方に向かったのかな?」

「酒場?」

「うん。ギルドの近くは依頼終わりで疲れた冒険者を癒やすために酒場とか夜の店がのきを連ねているの……でも、さすがにどの店に行ったのかまでは分からなかった」

「お前ら、ありがとう。良い収穫を得た」

 シェイクはソーユ達にお礼を言うと、仲間と合流し、メイが酒場に向かったと伝えた。

 すぐさま一軒一軒しらみ潰しに探したが、どこにもメイの姿はいなかった。


 傭兵達はその中で良さそうな酒場を見つけた。

 シェイク、アーモンド、ゴールドは席に着くなり、タバコをふかしていた。

 トレイン、ラム、プルーンは酒を飲みながらババ抜きで遊んでいた。

 とても殺し屋を逃したとは思えない緊張感のない状況で、傭兵達は互いの持っている情報を出して、整理する事にした。

 シェイクがソーユ達から情報を聞き出している間、ゴールド達も受付嬢のメリーサにメイの事について聞いていたようで、彼女はギルドに入るなりソーユのパーティに加入する事を申し出たのだそう。

「あいつの目的は恐らく俺達の情報を聞き出すためだ」

 ゴールドはそう言って、ふぅと長い煙を吐いた。

「恐らくドローガーに雇われているのだろう。今頃ボスの所でおねんねしているさ」

 アーモンドがシガーを咥えながら言った。

「きっと遠くから付けていたんでしょうね……クソッ、あのアンマン女、今度会ったらあの長い脚をナイフで剥ぎ取ってやる」

 ラムは物騒な事をこぼしながらトレインの手札から一枚取って、二枚のカードを場に出した。

「でも、あの殺し屋がここにいるなんて……あの女神は一言もいわなかったぞ」

 トレインがプルーンから取ったカードがババである事に驚愕しながらそう言うと、ラムは「どうせ悪魔の商人とヤリまくって、人数なんかロクに覚えてないんじゃないの〜?」と酒の酔いが回っているのか、じゃっかん呂律ろれつが回っていない言い方で愚痴をこぼすと、酒瓶に口を付けてグイッとあおった。

「でもよぉ、取り引きの時に港で見張っていたけどさ。あんな姉ぇちゃんなんかいなかったぞ」

酩酊めいてい状態で見落としたんじゃないの〜?」

「なんだと?!」

「あぁっ?! やる気?!」

 ラムとプルーンが酔いのせいで一戦始まりそうだったが、ゴールドに「よせ。俺もプルーンと同じ意見だ」と二人をなだめた。

 シェイクはタバコから口を離して、あの時の事を思い出した。

(ドローガーと悪魔の商人との取り引き。周辺にはボスの護衛がウジャウジャいた……メイがいそうな所は……)

「悪魔の商人の車の中だ」

 シェイクがそうこぼすと、アーモンドは「という事は、雇っているのは悪魔の商人か。確かにそいつの周りには護衛らしき者はいなかった……車の中で待機していた可能性は確かに高いな」とシガーから出た煙を豪快に吐いた。

「ふんっ! 余裕ぶっこいちゃって、雇い主が死んだらどうす……あぁっ! またババ!」

 ラムがメイが召喚される前に港にいたかいないかよりも、ババ抜きに勝つか負けるかに集中していた。

「奴らのアジトはここ周辺にあるのかな?……うぉっ?! ハハッ! あがりだ!」

 トレインがババから免れた上に先にあがった勢いで聞いた。

 ラムとプルーンはあからさまに苛立った顔をした。

「うーん……奴から聞くしかないか」

 シェイクがそうこぼした時、バンッとドアが勢い良く開いた。

「うぉーーーい!!! ギルドをメチャクチャにした奴はどこのどいつだ〜〜? あぁ〜〜??」

 傭兵達が入り口の方を見ると、四人の男女が並んでいた。

 金髪イケメン剣士、妖艶な雰囲気が漂う黒いローブの女性、獅子の顔をした弓使い、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの男が酒場内を見渡していた。

「なんだ、あいつら」

「さぁ?」

 プルーンとラムが興味なさそうにババを引くか引かないかの心理戦を繰り広げていた。

 他の傭兵達も同じだった。

 しかし、それ以外の者は違った。

「あ、あの方達は……S級ランクパーティーだ!」


To Be Continued……。

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