#10 殺し屋、現る

「……ん?」

 ゴールドはピンク髪の女に見覚えがあったのか、ジャケットの内ポケットから写真の束を取り出して一枚一枚見比べていた。

 その間、ソーユはまだピンク髪の女性を叱責していた。

「戦闘経験があるとか言うからお前を採用したのに……いざとなったら、木の裏に隠れるなんて酷いじゃないか! おかげで、貴重な傷薬を使う羽目になったんだぞ!」

「だって……あんな馬鹿でかいむしが相手だなんて聞いてないもん」

 ピンク髪の女はそう言って、リュックからせいろを取り出した。

 開けてみると、大きな饅頭が置かれていた。

 ホカホカにされていたのか、湯気が出ていた。

 ピンク髪の女はその饅頭を手に取ると、豪快にかぶりついた。

「う〜ん♡ やっぱ、一仕事終えた後の甘いものは格別だよね〜♡」

 ピンク髪の女はそう言って、少し余ったトロトロのアンコを美味しそうに舐めた。

 この行動に猫耳少女ことファニーが「なにその態度……あなた、新米の自覚あるの?!」と猫の尻尾を逆立てて怒った。

 しかし、ピンク髪の女は反省する様子は一切なくあんまんを食べ続けた。

「モグモグ……う〜ん、まぁ、はっきり言って、あなた達の戦いぶりを拝見した限り、ド素人にもほどがありますね」

「なんだと、この……」

「まず、黒髪のお前。リーダーのくせに慌てふためきながらザックリとした指示を出して……猫ちゃんに『右を攻撃しろ』とか言っていましたけど、右の『脚』なのか『羽』なのか『頭』かで敵に与えるダメージは全然違いますよ。

 次に猫ちゃん。あなたの付いている耳はお飾りですか? 誰よりも蟲が接近する事を察知できるはずなのに、なぜ報告しなかった? もしかして、黒髪とペチャクチャしてたから聞こえませんとか言うんじゃないでしょうね。

 そして、白魔術師のあなた。見るからにサポート役なのに全然アシストできてない。敵を回復させるとか、本来あってはならないミスだからね。

 まぁ、あなた達、Eランクでしたっけ?

 あぁ、そうでしたね〜! 最低ランクでしたね〜?

 そりゃあ、あんな間抜けな戦い方しますよね〜?」

「この、お前……好き放題いいやがって!!!」

 ピンク髪の女が一方的に過小評価された事に憤慨したのだろう、ソーユが今にも斬りかかろうとしていた。

 すると、ピンク髪の女はあんまんをハムっと口に咥えると、せいろの中に手を突っ込んだ。

「まずい! あの男、死ぬぞ!」

 トレインの野生の勘が働き止めようとした――が。

「やめてください、ソーユさん!」

 白魔術師ことピューラがソーユを止めた。

「ここはギルドの中ですよ? 万が一傷害事件を起こしたら兵士に捕まってギルドの名簿から抹消される事になりますよ?」

 ピューラの言葉にソーユはグッと歯を食いしばって「……分かった」と剣を振り下ろした。

「今のは良いアシストでした」

 ピンク髪の女はせいろから手を離して、あんまんに持ち替えた。

「おかげで、黒髪が死なずにすみましたね」

 ソーユはまたしても頭に血が上ったが、グッと堪えている表情をした。

「あったぞ」

 ここでようやくゴールドが一枚の写真を傭兵達に見せてきた。

 写真には目の前にいるピンク髪の女と同じ女性が写っていた。

 どこかのレストランらしく美味しそうに頬張っていた。

「そいつは誰だ?」

 トレインが覗き込むように聞くと、ゴールドは「メイ・リー……殺し屋だ」と答えた。

 すると、ピンク髪の女ことメイがゴールド達の方を向いた。

「……あ、お前ら」

 メイが何の躊躇いもなくせいろに突っ込んだ瞬間、すぐさまラムが銃を取り出して発砲した。

 せいろに命中し、宙に舞う。

「きゃあああああああ!!!」

 受付嬢が叫んだ。

 辺りは何だなんだと騒がしくなった。

「……痛いじゃないですか」

 メイはせいろを持っていた手を水を切るように振った。

 若干血が流れていたが、彼女の表情に一切変わる事なくあんまんを食べ続けていた。

 傭兵達はすぐさま銃を構えた。

「早く逃げろ!」

 シェイクが叫ぶが、皆状況が把握していないらしく、ポカンとしていた。

 すると、アーモンドが天井に向かって撃った。

 シャンデリアにあたりパリンと割れる。

 これにたちまち危機を察したのか、皆一目散に逃げていった。

 ソーユやファニー、ピューラも彼らに紛れて逃げた。

 ギルド内にいるのは、傭兵達と殺し屋だけだった。

 傭兵達の銃口はもちろんメイに向けられていた。

「か弱い乙女相手に大勢で銃を突きつけるなんて……むごいとは思いませんか? ゴールドさん?」

「お前がか弱かったら、全人類がとっくに死滅しているよ」

 ゴールドの標準はピタッと止まり、いつでも引き金をひける状態だった。

 メイは「イチ、ニィ、サン……」と目視で銃の数を数えていた。

 そして、あんまんの残りを全部口の中に放り込んだ。

 彼女の咀嚼音だけがギルド内に響き渡る。

 メイはゴクンと飲み込んだ。

「ごちそうさま」

 彼女がそう言った瞬間、上と下の歯の間に何かを挟んでいた。

 小さな球みたいだった。

「爆弾だ!」

 ゴールドは叫ぶが、メイはプッと吐き出した。

 もうすでに安全ピンが抜けられていたのだろう、出して二秒もしないうちに爆発した。

 黒煙が傭兵達に襲いかかる。

「ケホッ、ケホッ、ケホッ……」

 皆、煙を吸い込んでしまったのか、咳き込んでいた。

「油断するな! まだ近くにいるはずだ!」

 シェイクが叫びながら周囲を確認した。

 しかし、煙が充満しているからか、視界が良好ではなかった。

 すると、バンっと荒っぽくドアが開く音がした。

 煙がその方に向かっていく。

「外に出たぞ! 追いかけろ!」

 プルーンが叫ぶと、トレインが猛ダッシュで煙の中に突っ込んでいた。

 体当たりでドアが吹っ飛び、道に落ちていく。

「はぁはぁ……くそっ、どこに行ったんだ」

 トレインが辺りを見渡しても、メイらしき人物の姿はどこにもなかった。


To Be Continued……。

 

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