#9 ギルドに殴り込みだ

「やられたな」

 シェイクは塔の裏でタバコをふかしながら投げ棄てるように言った。

「まさか奥歯に毒の入ったカプセルを仕込ませるなんてな」

「いや、親知らずかもしれないぞ」

 アーモンドが太めのシガーを美味しそうに吸っていた。

「まぁ、そんな事はどうでもいい。貴重な情報を得られるはずだったのに……くそっ!」

 アーモンドは珍しく感情を剥き出しにしていた。

 余程目の前で被疑者を死なせた事を悔やんでいるのだろう。

 シェイクは暫く吸っていたが、「……行くしかないか」とタバコを手袋のこうの部分にあてて消した。

「そのギルドという組織にか?」

 アーモンドは煙をプハーッと長く出して言った。

 シェイクは新しいタバコを取り出してライターで火を付けた。

「あぁ、そこは何でも受け付けるらしい」

「何でも受け付ける? 本当なのか?」

「そのギルドにピューラという白いローブを着た女からの情報だ。どんなのがあるか分からないが……あの豚の怪物を素人しろうと三人に行かせるような所だ。きっと何か裏があるんだろう」

「ならば、殴り込みといこうか」

 アーモンドはシガーを咥えたままニヤリと笑みを浮かべた。

 この状況を楽しんでいるような笑みだった。


 一服いっぷくを終えた二人はゴールド達と合流した。

 バルサーマ兵士長の姿もあった。

「あの男の身元は分かったのか?」

 アーモンドが尋ねると、兵士長は「はい」と頭を抱えていた。

「名前はロート・フルメール。ごく普通の家庭で育った青年だ。謹厳実直きんげんじっちょくな奴で、門番の仕事に忠実にサボる事なく仕事していた好青年だ。まさか彼が敵国のスパイだなんて……ご家族にどう話せば……」

「ちょっと待った」

 シェイクが何か引っかかったらしく、彼の話をつける遮った。

「何か問題でも?」

「今、『ごく普通の家庭で育った青年』だと言ったか?」

「えぇ、魚屋の息子です」

「魚屋? という事は……」

 シェイクはツルツル頭を掻きながら考えるような顔つきをしていた。

「あの男は組織にスカウトされたかもな」

 ゴールドが腕を組んで言った。

「組織って……悪魔の商人を捕まえるために追っていたマフィアのことか?」

 プルーンが驚きの声を上げていた。

「まさか、来ているのか?」

 シェイクは頷いた。

「あぁ、悪魔の商人だけではない。俺は港で奴らにも足元が光っているのが見えた」

「クソッ、面倒なのばかり来やがって……」

 プルーンは苛立つように舌打ちした。

 シェイクは話を続けた。

「組織の誰がやったのかは分からないが、何か魅力を感じて声をかけたのだろう。そして、部下にさせて俺達を待ち伏せさせた」

「でも、どうして現地人を?」

 ラムの疑問にトレインは「土地勘があるからだろ。あの男は兵士という国を守る立場にもあった。だから、何かと都合がいいのかもしれないな」と答えた。

「あの……君達はなんの話をしているんだ?」

 兵士長が彼らの話について行けないのか、困惑していた。

「お姫様の誘拐と関係あることだよ」

 プルーンがそう言うと、兵士長は「なに?! 犯人が分かったのか?!」と詰め寄ってきた。

「まぁ、ちょっと待て。今から見せるから……」

 アーモンドはそう言って、胸ポケットから一枚の写真を見せた。

 恰幅な服を来たハゲ親父の写真が書かれていた。

 兵士長は瞬きしながら指差した。

「誰ですか?」

「ドン・ドローガー。マフィアのボスだ」

「マフィア……? な、何なんですか? それは……」

「恐喝、麻薬密売、強盗、殺人、人身売買……あらゆる犯罪で生計している汚ねぇ連中だよ」

 プルーンがそう言って唾を吐いた。

「な、なんだと?! 山賊よりたちが悪いじゃないか!」

 バルサーマ兵士長は驚きを隠せないといった様子だった。

「見た事あるか?」

 ゴールドが写真を見せて尋ねる。

「いや。だったら、とっくに伝えているよ」

「そうか……」

 ゴールドはそう言うと、歩き出した。

 他の傭兵達は彼の命令しなくても、自然と付いていった。

 兵士長はいきなり離れていく傭兵達に戸惑っていた。

「お、おい! どこに行くんだ?」

 彼の呼びかけに傭兵達は立ち止まった。

 シェイクが振り返った。

「ちょっとギルドに行ってくる」


 ギルドは煉瓦造りの大きな建物だった。

 両開きのドアに続々と冒険者達が出入りしていた。

 どれもソーユやピューラみたいに鎧や剣の装備をしていたり、ローブを着ている者がいた。

 皆、傭兵達を避けるように歩いていた。

 それもそのはず、彼らは入り口の近くで横並びにジッと外観を見ていた。

 シェイク、アーモンド、ゴールドはサングラスをかけてタバコを吸っていた。

 プルーンは相変わらずスキットルの中に入っている酒を一口飲んだ。

 トレインは大胸筋を踊らせ、ラムを意味深に手袋をはめ直した。

「行くぞ」

 ゴールドの合図で、傭兵達は一斉に扉を開けた。

「ようこそ! ヨータルギルドへ……」

 ボブ髪の受付嬢が元気よく挨拶したが、傭兵達のただならぬオーラに絶句していた。

 ギルド内には依頼が書かれた紙が大量に貼られている掲示板をしていた冒険者やそれを申請しようとした者もいたが、皆傭兵達に釘付けだった。

 彼らから見たら傭兵達は魔物並に異様なオーラを放っていた。

 傭兵達は真っ直ぐボブ髪の受付嬢方に向かった。

「な、ななななんでしょうか?!」

 ボブ髪の受付嬢は明らかに動揺していた。

「少し……聞きたい事があるんだ」

 ゴールドはそう言って、マフィアのボスの写真を見せた。

「こいつを知っているか?」

「えっと……初めて見ました」

 受付嬢は写真と彼らの様子を伺いながら答えた。

 ゴールドは「そうか」と残念そうに写真をしまうと「じゃあ、ロート・フルメールという男は知っているか?」と続けて質問した。

「ロート……あぁっ! 真面目な兵士さん!」

 ボブ髪の受付嬢が声をあげた。

「知っているのか?」

 今度はシェイクが尋ねた。

「え、えぇ……幼馴染でしたから」

「あなた、名前は?」

 ラムの質問に受付嬢は「メリーサです」と頭を下げた。

「このっ! 役立たずがっ!!!」

 すると、傭兵達の背後からどこかで聞いた平均的な男の怒声が聞こえた。

 彼らは気になって振り返ると、黒髪童顔男が怒鳴っていた。

 彼の隣に猫耳少女、白いローブの女性が立っていた。

 しかし、その中に傭兵達にとっては初めて見た人がいた。

 ピング髪のツインテールでチャイナ服を着た女性だった。



To Be Continued……。

 

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