#8 さぁ、洗いざらい話してもらおうか

 傭兵達は兵士長に案内されながら国の様子を確認していた。

 建物は近代的な造りではなく、どれも数百年以上前に流行したような建築様式のものばかりだった。

 国民も男は地味な色合いの長袖と長ズボン女は長い丈のスカートと同系色の長袖の格好をしていた。

「まるで歴史の教科書に掲載されている写真を眺めているみたいだな」

 トレインがどうでもいい事をボソッと呟くと、ラムは「それか歴史物の映画のセットね」と適当に合わせていた。

 シェイクは先程の門番みたいに自分の命を狙う者がいないか、注意して歩いていた。

 その目付きはアーモンドやゴールドも同様に睨んでいた。

 プルーンは娼婦と思わしき女性から甘い言葉をかけられて、危うくいかがわしい店にホイホイ連れて行かれそうになった所をラムに蹴飛ばされてしまっていた。

「ちくしょう!」

 プルーンは怒りに震えながら地団駄を踏んだ。


 そうこうしていると、目的地に着いた。

 やや大きめの塔があって、大勢の兵士達が入れ替わり立ち代わりしていた。

「ここは兵士達の宿舎だ」

 兵士長はそう言って、中に入った。

 多くの兵士達が彼に向かって敬礼するが、傭兵達には一切目もくれずに通り過ぎて行った。

「全く歓迎されないな」

 シェイクがアーモンドに耳打ちすると「あぁ、全くだ」と伸びている髭を触った。

 兵士長は階段には上らずに奥の部屋に連れて行った。

 そこには簡易的なものしか置かれていなかった。

 ソファと長めの机と椅子のみ。

 他はそれらしきものは一つもなかった。

「ずいぶん寂しい所だな」

 アーモンドがそう言うと、兵士長は「国民の税金によって給料を貰っているので、我々が贅沢する訳にはいかない。必要最低限揃っていれば充分だ」と答えた。

「いいねぇ、その言葉。汚職政治家達に聞かせてやりたいよ」

 プルーンはスキットルに口を付けた。

「さぁ、本題に入ろうか。なぜ俺達をここに連れて連れて来たんだ」

 ゴールドは腕を組みながら聞いた。

 兵士長は一礼して「改めて私はハーモネッタ王国の兵士長を務めているハルサーマだ。あなた方をここにお呼びしたのは至極重要な事なんだ」と言った。

「ほう」

 シェイクが真っ先に反応した。

「ギルドに所属している奴らではなく、俺達に頼むなんて……理由を聞こうか」

「はい。敵国のスパイを取り押さえているあなた方の行動を見て、ただ者ではないなと直感した」

「お目が高いね。ハルサーマさん」

 プルーンがニヤリと笑った。

「俺達に何をしてほしいんだ」とゴールドが聞くと、兵士長が神妙な顔で「我が国のお姫様を救出してほしいんだ」と言った。

 これには傭兵達の顔はガラリと変わった。

 世界が異なるとはいえ、一国の姫の救出依頼となると彼らの身体に流れている傭兵の血が騒ぎ出した。

「詳しく聞かせてもらおうか」

 シェイクがタバコに火を付けて言った。

 ハルサーマ兵士長は咳き込みつつ話しだした。

「三日前の事だった。ルーナ姫がピクニックに行くと告げて出かけたきり帰ってこなかったんだ」

「護衛はつけなかったのか?」

 トレインが尋ねた。

「もちろん兵士二人を連れて行った。国王様はすでに捜索するように命じられ、大勢の兵士達で姫が行きそうな所を隅から隅まで捜索したが、どこにも見渡らない。

 これはもう確実に誘拐されたと判断した私はその事を国王様に告げると、ショックのあまり寝込んでしまった。

 このまま見つからずに終わってしまうのか――と思った時にあなた達が来た。お願いだ。姫を助けてくれ!」

 兵士長という身分でありながら低姿勢で傭兵達に頭を下げていた。

 これに彼らは心を動かされたのか、ゴールドは「分かった。ただし、条件がある」と述べた。

「何だ?」

 兵士長が恐る恐る聞いた。

 ゴールドは「門の前で捕まえた男の事情聴取をお願いしたい」と頼んだ。

「彼と何か繋がりがあるのか?」

 この質問にゴールドは「確証ではないが、あの男の目的を知れば、その誘拐事件と結びつくかもしれないな」と返した。

「分かった。すぐに尋問室に連れてくる。来てくれ」

 バルサーマ兵士長は一礼して誘導した。


 尋問室は文字通り、椅子と机しかなかった。

 その中に六人いたので、かなり狭くなっていた。

「何だか大事になっちまったな」

 プルーンは酒臭い息を吐いた。

「でも、あの男の尋問ができるわね」

 ラムは嬉しそうに笑っていた。

 そこへ兵士長と複数の兵士達に連れられた男がやってきた。

 男は鎧を着ておらず、シャツと長ズボンだけだった。

「じゃあ、後は頼んだ」

 バルサーマ兵士長はそう言って部下達を連れて出ていった。

「さて……お前、俺達のこと知ってるだろ」

 アーモンドが詰め寄るように男を見た。

「お前達の事は知らん。早く解放しろ」

 男は開き直っているのか、六人の威圧感に怯える事なく、むしろ舐め腐った態度を取っていた。

「指を折られたくなかったら、素直に言う事だね」

 ラムが拳をパキパキ鳴らしながら舌なめずりした。

 過激な尋問をする気満々らしい。

「何を言う必要があるんだ? 初めましてと握手をするのか?」

 男が鼻で笑うと、アーモンドがバンっと銃を机の上に叩きつけるように置いた。

 男の顔がじゃっかん引きっていた。

「いいか、これには安全装置が付けられているんだ? それを解除して発砲音ができるにはこれを使った事がある人間なんだよ!」

「誰かが解除したかもしれないだろ!」

 男が叫ぶと、アーモンドは「かかったな」と不敵な笑みを浮かべた。

 これに男は「な、なんだよ」と青ざめた。

「いいか、坊主。俺は『これの安全装置を外した』と言ったが……よくこれを武器だと認識したな。他の兵隊さん達はこれが武器である事も分からなかったぞ」

 アーモンドの指摘に、男は「ちくしょう! 俺とした事が!」と嘆いていた。

「さぁ、洗いざらい話してもらおうか」

 ゴールドが両肩をポンッと叩いて、強めに言った。

 男はさぞかし口惜しい――かと思ったが、急に「クックックッ」と笑い出した。

「なんだ? 変なキノコでも食ったか?」

 プルーンがグイッと飲むと、男は口が避けるほど笑みを浮かべた。

「俺達はそう簡単に口は割らない。何があってもな」

 男はそう言って奥歯をカチッと鳴らした。

「まずい!」

 トレインは何かを察したのか、すぐに男の口を開けた。

 が、時すでに遅く、男はガタガタ痙攣した後、口から泡を吹いてしまっていた。 


To Be Continued……。

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