#3 お前は何者なんだ

「こいつ、俺の名前を……やっぱり、奴らの手先……」

「最後まで聞いてください。確かにあなた達が住んでいる国の事は知っています。ですが、それだけではございません。あなた方の名前、性格、経歴など……あらゆる事を知った上でお願いしているんです」

「なんだこいつ、CIAか? それともFBIか?」

 トレインが目を丸くしていると、女神は「中央情報局でも連邦捜査局でもございません」と首を振った。

「じゃあ、どこかの国のスパイとかか?」

 アーモンドが尋ねると、彼女は「ロシアや中国のスパイでもありません!」と叫んだ。

「なるほど……そこまで言い張るのなら、俺達を納得させるような証拠でもあるんだろうな」

 ゴールドが腕を組みながらそう言うと、女神は「えぇ、もちろん。あなた達が秘密にしている事を見せてあげてもいいんですよ?」と強気に言った。

「面白い。やってみろ」

 アーモンドが煙を吐き出して承諾した。

 女神は指を鳴らすと、彼らの前に一枚の紙が現れた。

 彼らは戸惑いながら受け取ると、そこに書かれている内容に驚きを隠せなかった。

「なっ、妻が不倫した浮気相手を俺が殺した事が書かれている……」

 プルーンは知られたくない事が書かれていたのか、その一文を読んだ瞬間、酔いが冷めた顔をしていた。

「よ、夜中にベランダで裸ダンスをしている所まで……」

 トレインが大きな眼をさらに拡大させていた。

「……殺してやる」

 ラムは写真だったらしく、今の彼女では想像できないくらい甘えた顔で犬や猫達に接している光景が写し出されていた。

 各々反応を見せる三人に対して、老齢の二人は堂々としていた。

 アーモンドは極悪組織の部下に残虐非道な拷問をしていたとか、ゴールドは数多の監獄から抜け出したなどと書かれていたが、ラム達みたいに騒ぎもせずに二人で「こんな程度か」と鼻で笑っていた。

 シェイクはサッと見ただけですぐに折りたたんでしまった。

 そして、女神の方を見た。

「まだ50%だが、一応お前の言い分は信じよう。質問を変えるが、俺達をここへ連れて来た事とロサンゼルスの港で待機していた時に急に足元が光り出した事と繋がりはあるか?」

「え?……あっ! なるほど……そうです! あなた達を連れて来たのは転移魔法を使ってですね……」

「魔法って……ハリーポッターでもあるまいし……なんだ? 俺達は今からお喋り帽子を被って班を分けるのか? グリフィンドーーール!!ってな……ダハハハハハ!!!」

 プルーンはウイスキーの酔いが回って上機嫌になったのか、愉快そうに笑った。

「プルーン、黙ってろ。にわかに信じがたいが、今は状況整理が大事なんだ」

 シェイクは飲ん兵衛に一喝すると、再び女神の方を見た。

「よし、えーと、その魔法って奴を使って俺達をこの何にもない所に……」

「女神の間です」

「あぁ、女神……女神の間だったな。じゃあ、俺達の前に連れて来た人はいるか?」

「え? えっと……その……」

 女神の顔が急に曇り出した。

 この反応にシェイクは再び銃を向けた。

「洗いざらい吐いた方が身の為だぞ。鉛球なまりだまの雨を浴びたくなかったら……」

「分かりました! 分かりましたから、もうその物騒なものを私に向けないでください!」

 女神はもう躍起になって半ギレの状態でシェイクに銃をしまうように要求した。

「……分かった」

 シェイクは大人しく銃を内側のポケットにしまうと、「お前らも銃をしまえ」とメンバー達に向かって言った。

 シェイクの反応にすぐに銃を構えていた仲間達は彼の命令を素直に聞き入れ、皆素手の状態になった。

「さぁ、今度はお前が俺達の要求を聞く番だ。俺達の前に連れて来た奴はいるか?」

「……はい」

 女神が頷いた。

「そいつはどういう奴だった?」

「えっと……一人ではなくて、黒服が何人も……あとはいかにも裕福そうなおじさんに、中折れ帽を被ったコートの男性……」

「なんだと?」

 アーモンドの目つきが鋭くなり、咥えていた葉巻をプッと出した。

「それは確かだろうな?」

「は、はい。『俺達が来た事は絶対に言うな』って念を押されたので……」

「なんだとちくしょうめ!!!」

 プルーンが抑えきれない怒りを物にあたってぶつけようとしたが、何もないので、履いていた靴の片方を脱いで叩きつけた。

「そいつは……そいつはな。俺達が狙っていた『悪魔の商人』じゃねぇか!」

「……え? あの人が?」

 女神は信じられないといった様子で瞬きしていた。

 すると、ゴールドが彼女の近くにやってきた。

「なんでもいい。そいつとどんな会話をしたんだ?」

「どんな会話……ですか? 皆さんと同じように『ここはどこかなのか?』『君は誰なのか?』とか……あ、皆さんみたいに乱暴な感じではなかったですよ。紳士的で……うん、本当にキチンと私の話を聞いてくれて、非常に好印象でした」

 女神は例の男の姿を思い出したのか、若干頬を染めていた。

「『悪魔の商人』は女の扱いがうまい……その男である可能性が高そうだな」

 ゴールドがアーモンドに目をやる。

 アーモンドは彼が伝えたい事を理解したのか、ゆっくりと近づいた。

 目つきが獲物を追う狩人みたいに鋭くなった。

「よし、女神さんとやら……そいつらはどこへ行った?」

「えっと……あそこへ」

 女神が指差す方向には、ドアがあった。

「なんだ。出口があんじゃねぇか」

 プルーンが投げ棄てた靴の片方をはくと、一目散に行こうとしたが、トレインに「待て。罠かもしれないぞ」と止められた。

 シェイクがは再び銃を出して、彼女の方に向けた。

「開けろ」

「……分かりました」

 女神は素直にドアに近づき、ドアノブを捻った。

 彼らは万が一に備えて、銃を構えていた。

 シェイクは女神に向けたまま片手で構えて、空いた方はナイフを握った。

 女神はゆっくりと開けると、中は真っ暗だった。

「明かりは?」

「はいはい、付けますよ」

 女神が指を鳴らすと、暗闇から一変、奥まで続く道となった。

「歩け」

 シェイクの命令に女神は黙って中に入った。

 女神が先に入り、シェイク、ラム、アーモンド、トレイン、プルーン、ゴールドの順で中に入った。

 皆、銃を構えながら周囲を警戒していた。

 女神は黙ったまま進んでいく。

 道は進んでいるが、周りの景色が変わらないせいか、同じ所を延々と進んでいるように思えた。

「ねぇ、いつになったら地上に出られるの?」

 ラムが痺れを切らして聞くと、女神は「……ひとつ教えてあげましょう」と妙に冷静な声で言った。

「……なんだ」

 シェイクは銃の標準を崩さずに聞いた。

「今からあなた達が行く世界には人知の及ばない現象が起きる事を忘れないでください」

「……何を言っている?」

 シェイクがそう尋ねた瞬間、彼らが歩いていた床が抜けた。

「ぬぁっ?!」

「なにっ?!」

 傭兵達は突然の事態に戸惑い、そのまま暗闇の中へと吸い込まれていく。

 女神は周囲に光を纏いながら浮いていった。

「あいつ!」

 ラムが何発か銃を向けたが、女神は纏っている光のおかげなのか、弾かれてしまった。

「なっ……」

 ラムの驚愕した顔が闇へと消えていった。

 女神は彼らが全員落ちた事を確認すると、大きく溜め息をついた。

「はぁ……とんでもない奴らを召喚させちゃった。でも、まぁ、いっか! 彼らだったら魔王を倒してくれると思うし……よーし、のんびりクルミでも食べてよーと!」

 女神は上機嫌に鼻歌を歌いながら戻っていった。


To Be Continued……。

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