第3話(累計 第10話) ミアとフィンは事件を調査する。

「クロエちゃん、今日は先生。フィンエル・シンダール先生と一緒に話を聞きに来たの。神殿教室で教えてくれた先生の事は覚えているよね。もう一度、事件について話してくれないかな?」


「ミアちゃん。アタシには、もう話す事はないわ。早くアタシを処刑したらいいの」


 ミアはもう一度、クロエから話を聞くべく彼女が留置されている警察署にフィンを伴って向かった。

 それは、警察署長にフィンの協力を再度申請するためでもあるが。


「クロエくん。久しぶりだが、私はこんな形でキミとは再会はしたくなかったな。ミアくんと違い優秀で聡明なキミがどうして、このような犯罪に手を貸したのか。私には疑問だ」


「せんせー! こんな時まで、ボクをアホ扱いはどーかと思うの!」


「……ふふふ。やっぱり、ミアちゃんはミアちゃんのままなんだ。変わってしまったアタシとは違うわ。先生、ミアちゃんを今後ともお願いします」


 師弟漫才をしてしまう二人を前にして、クロエは自虐的に笑ってしまう。


「クロエちゃん! そんな悲しい事を言わないで。まだ、間に合うの。ねぇ、隠し事があるんでしょ? 早くボクに話してよぉ」


「ミアくん。そんなに噛みつくように言ってもしょうがない。クロエくんにも事情があるのだから。ただ、二人の師であった私から見れば、二人とも幼く愚かで弱い存在。だが、私も含めて人は自分が愚かであることに気が付けば、前に進める。そして、より強く賢く高みを目指せるのだ」


「ミアちゃん……。先生……。アタシは……」


 涙を大きくこぼしながら、二人の師弟を見るクロエ。


「さて、クロエくんをこれ以上責めてもしょうがない。ミアくん、今日のところは引き上げよう」


 まだクロエに飛びかかろうとしているミアの肩を抑え、フィンは取調室から出る事を促した。


「だって、せんせー」


「ミアくん、今はしょうがない。クロエくんの頑なな心をほぐすにはまだ時間と準備がかかる。さて、次は私の仕事だな」


 フィンはミアを安心させるように、ハーフエルフらしい優美な顔に優し気な笑みを浮かべた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「さあ、これから事件を解明していこう。まずは、分かっている部分からまとめてみよう、ミアくん。いつまでも泣きべそをかいている暇はないぞ」


「う、うん、先生。ボク、馬鹿でごめんね」


「いやいや。今回の事はミアくんが異変。死体に保存魔法プリザベーションが既に掛けられている事に気が付かなければ、完全犯罪で終わっていたからね。キミの行動には何一つ間違いはない。私に救援を頼んだことも含めてね」


 警察署の一室を借り、そこでミアとフィンは事件のまとめを始める。

 フィンは涙が止まらないミアの頭を優しく撫でて、彼女を慰めた。


「ありがと、先生。クロエちゃんの事をボクは救いたいんだ。そして、こんな悪い事を考えたヤツを捕まえたいよ」


「では、最初からもう一度。事件の詳細を教えてくれないかな、ミアくん」


「はい! せんせー!」


 大好きなフィンに褒められて、元気をすっかり取り戻したミア。

 彼女は涙をぬぐい、元気に手を上げて笑みを浮かべた。


「まず犠牲者の身辺情報、遺体の発見時の事から教えてくれ」


「はい、先生。亡くなった方は貴族街で武器商店『シャトレー刀剣工房』を営んでいますモイーズ・シャトレ―氏。彼はとても優秀な剣の鍛冶師です」


「ほう。クロエくんの父が、『あの』シャトレ―氏だったのか。私も彼が作った細手なナイフを一本持っている。良く切れるから、解剖とかにも使うんだ」


 ミアはもう一度、事件の概要を話し出した。


「事件ですが、寝ていると思われていたモイーズさんが実は亡くなっていた事を、家内を掃除していた家政婦が発見しました。その際、それまでモイーズさんが亡くなっている事を隠していました息子、ファブリスは逃亡しています」


「そして逃げなかったクロエくんが捕まったと」


「はい。そしてクロエちゃんがお父さん、モイーズさんが亡くなっている事を隠すために、遺体へ保存魔法を掛けていました」


「ここまでは、間違いないな。さて、問題はモイーズ氏が亡くなったのは病気や事故だったのか、それとも殺人だったのか。ただ、死亡を隠して貴族年金を違法に着服するだけにしては、事件が大がかりすぎる」


 遺体の状況や家政婦、他の多くの人々からの証言で、モイーズが死んでいいたのをファブリスとクロエが隠していたのは確実である


「そうなんです、先生。クロエちゃんのお父さんは、その優秀な鍛冶の腕を王様に認められ、一代準貴族。騎士爵ナイトの称号を得ています。なので、生きている間は貴族年金が王国から支給されています。また、王家御用達の鍛冶屋というブランド名が強かったのも確かですね」


「だが、それだけじゃないだろう。モイーズ氏が亡くなったとしても店としてのお墨付きは継続しているだろうし、遺族年金も生存中よりは減るとはいえ支給される。偽装をしてバレた時の方が被害が大きいのに、あまりに不自然だな」


「署長とか神殿長様、神聖騎士団長のおじちゃんも先生と同じ意見なんです。只の病死を隠すには色々と不自然すぎるって」


 現状の情報を話し合う二人。

 まだ証言と状況証拠しか分かっていない為、決定的な答えが見えない。


「それでクロエちゃんの証言が頼りだったんだけど……」


「おそらくは兄を庇っているのだろうが、いつ亡くなったのかも教えてくれないとは困ったものだ」


「それでね、先生。先生なら、クロエちゃんのお父さんが何時ごろ亡くなったのか、何で亡くなったのか分かる? 何でも知っている先生なら、分かるよね? このままじゃ、クロエちゃんが死刑になっちゃう!」


 埒が空かない上に、友の命が掛かっているので必死なミア。

 その様子にフィンは、ため息ひとつついて答えた。


「ふぅ。では、ミアくん。各方面にモイーズ・シャトレ―氏の遺体を解剖する許可を得てもらえないかな?」


「解剖!? 先生、クロエちゃんのお父さんを切り刻むのぉ!」


 想定外のフィンの言葉に、ミアは驚愕した。

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