第2話(累計 第9話) ミアは恩師に泣きつく!

「助けて、フィンせんせー! こまったことが起きたのー! 難事件が起きちゃったんだぁ! また、いろいろ助けてぇ!」


 警察署から、身体強化魔法を使って飛ぶ勢いで走って来たミア。

 半泣きになりながら、恩師フィンの家へ玄関ドアを蹴り壊す勢いで飛び込んだ。


「ミアくん! キミには普通に登場するって事は出来ないのか? まるで『の〇太』くんじゃあるまいし、私に毎回泣きつくのは違うと思うぞ。実際、キミは私の教え子ではあるだろうが、私は『〇ラえもん』じゃないし?」


「だってぇ、だってぇ。急いでいたんだもん、ボク。ねぇ、先生。また助けて欲しいのぉ! ん? 先生、『〇び太』くんや『ドラ〇もん』って誰?」


「あ! わ、私の独り言だよ。『ただ』のね。それより毎回言っているが、キミには女性らしい所作は無いのかい?」


 健康的な生脚を組んで豪快に座るミア。

 刺激的な姿の彼女に視線を向けないようにしつつも、フィンは自分の「失言」を誤魔化しつつ教え子たる彼女に苦言を呈した。


「えー! だって面倒だもん。それにボクだって、時と場所と相手を考えて行動するよ。大好きな先生の前だから、普段通りにしているだけなの」


「ま、まあ分かったから、少し落ち着いて。あと、脚はきちんと閉じる! 年頃の女の子が、はしたないぞ」


「あ! はい。それでね、それでね……。あれ? 部屋、片付いて無いですか、先生?」


 明らかに自分の肢体から目線を逸らすフィンに気が付いたミア。

 それで赤面しつつも、ミアはきちんと椅子に座り直した。

 彼女は冷静さを取り戻して話し出そうとするも、先生の部屋の中の様子が以前と違っていて、整理整頓や掃除がちゃんと行き届いている事に気が付いた。


「これ以上、私がミアくんに迷惑をかける訳にもいかんからな。それに新しい掃除用魔道具を導入したのさ」


「この子、ボク初めて見るの。わー、可愛い! これ、自分で動いてゴミを吸い込むんだ」


 ミアが視線を向けた先には平べったい丸い「何か」が、ぴょこぴょこと床の上を這いまわっている。

 他にも、フィンの部屋の中には沢山の魔道具が見える。

 いつでもお湯が汲める給湯器、自動で洗濯から乾燥までしてくれる洗濯機。

 今や、王都内で沢山使われていて、人々の暮らしを楽にしている物達ばかりだ。


「そりゃそうさ。私が先日アイデアを提供した新製品だからね。これは試作モデル。名付けて『自動徘徊掃除魔道具掃除ロボット』だよ」


「せんせーってば凄い! そういえば、他にも魔道具屋さんにアイデアを売っているってホント? 先生の処には、いっぱい便利な魔道具があるんだもん」


「ああ。少しでも皆の生活が良くなればと、『とある』処から得たアイデアを魔道具屋や学院へ提供しているんだ。残念ながら、私が一。いやゼロから考えた物じゃないから、あまりパテント料は貰っていないけれどね」


 どこか寂しそうな顔で、自虐的に自分がアイデアを提供した魔道具を語るフィン。

 その様子にミアは首を傾げた。


「どーして、もっと自慢しないの先生? それでも、ボクの大好きなせんせーは凄いよ! そんな秘密のアイデアを自分で独り占めしていなくて、皆の為に格安で解放しているんでしょ?」


「ま。まあそうとも言うが……。ん? ミアくん、今日『も』何か私に助けを求めていたんじゃないか?」


「あー、そーだったのぉ。先生! また、事件解決の助け。そして、ボクの幼馴染を助けてほしーんだ!」


 すっかり話の本題を忘れていたミア。

 フィンから指摘されてミアは、事件概要を話し出した。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ミアくんの話を要約すると、死者が何時ごろに亡くなったのか。そして、どうして亡くなったかが知りたいんだね。それにはミアくんの友人が関わっていると。生きている様に見せかけて、貴族年金の横領か。この『世界』でも年金偽装があるとは、まったく困った事だ」


「うん、先生!」


 ミアが長々話すのを纏めて、要所を語るフィン。

 ミアは、フィンの優秀な姿に頬を思わず染めてしまった。


 ……『この世界』? 先生って時々不思議な事をいうんだよね。でも、確かに偽装しての横領は犯罪。それにクロエちゃんが関わっているのは確かなんだ……。


「で、でもね、先生。クロエちゃんが誰か、多分お兄さんを庇っているのは分かっているんだけど。お父さんの死亡時期が分かれば、そこの秘密も分かるかなって思うんだ。ボク、クロエちゃんを助けたい……」


 だが、事件に巻き込まれた友の事を考えれば、そんな浮かれた気分は一瞬で落ち込む。

 ミアは、しゅんと肩を落とした。


「ミアくんが友達思いなのは、昔からだったからね。クロエという子は私も覚えている。少し地味目な子だったけれど、ミアくんよりも学業は優秀だった。事実、今や若いながらも高位神聖魔法を使える神官になっているんだからね」


「えー! ボク、昔はバカだったの? ボクだって、今はクロエちゃんと同じくらい神聖魔法を使えるんですけど??」


「ミアくんは、今でもバカ正直すぎるとは思うがね。それにいつも迂闊すぎるぞ、アホ娘くん」


 落ち込んでいるミアを揶揄からかって、少しでも心の負担を減らそうとするフィン。

 ミアもそれに気が付き、ワザとふくれっ面をしてみせた。


「せんせーのイヂワルぅぅ」


「とまあ、師弟漫才はこのくらいにしよう。因みに、今回もちゃんと警察署長には話を通しているんだよね」


「あー、すっかり忘れてたぁぁ!」


「これだから、ミアくんはアホなんだよ。自分の魅力に未頓着なのもあるし。はぁ、これは危なっかしくて目が離せないよなぁ。心がきれいすぎて、誰かに騙されないか、私は心配だよ」


 ミアが慌てて「どうしよー」と狼狽うろたえているのを見、ため息交じりに呟いたフィンであった。

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