第7話 事件解決して……
「キミ達。ボクの事、どう思う? 先生ってば、ボクは大人のレディじゃないっていうんだけど?」
「ちょ、戦闘。く、訓練中に話しかけるのは。や、辞めてくださいませ、ミア様。きゃ!」
今日、ミアは神聖騎士団に加入を目指す少年たちと戦闘訓練をしている。
世の中は平和。
しかし事件が解決したものの、ミア自身には面白くない結末になったから、半分八つ当たりでもある。
事件解決後、ミアは警察署長から褒められると思っていた。
難事件を解決し、無事に犯人らを確保できたから。
しかし、現実は甘くない。
ミアは逮捕状の読み上げも満足にできず、想定外の戦闘になってしまった事で、署長に叱られてしまった。
……どーして、ボクって叱られちゃうの? 悪いのは向かってきた犯人でしょ? そりゃ、盗賊ギルドとの関係がややこしくなったのは事実だけれど。
今回の事件、盗賊ギルド内での派閥争いも関係しており、殺されたオーレリアン・フランクールはギルド長につく主流派。
犯人であるオーバン・ルクリュが借金を作った賭博胴元はギルドの組織乗っ取りを狙う別派閥。
ギルド内の政治まで絡む事件であったため、穏便かつ内密にすませる筈が大捕り物。
周囲にも事件があったとバレる戦闘となり、事件解決に協力してくれた盗賊ギルドに借りを作る形になってしまったからだ。
なお、問題の胴元は警察が身元を把握する前に姿を「消した」。
……どーして、警察や王様は盗賊ギルドなんか放置してるんだろう? 悪い人は全部捕まえたら良いじゃん!
ミアの単純かつ清くて幼い頭では、清濁併せ呑む事が分からない。
彼女は、ギルドの力によって犯罪がある程度抑止されているのを理解していなかった。
なお、フィンに関しては警察署長や神殿から事件解決に協力したことで令状が送られ、
「ミア様。八つ当たりで僕たちと戦闘訓練をするのはご勘弁を」
「えー!? ボク、まだ本気じゃないよ? 身体強化魔法も使っていないし。ボク相手くらいで苦戦している様じゃ、神聖騎士団とかには入れないんだけど?」
若手の神官戦士たち相手に無双するミア。
彼らが持つ木剣を木製棍で簡単に折り飛ばし、蹴りで盾ごと少年たちを吹き飛ばす。
しかし、それはミア自身の強さもあるが、訓練相手はまだまだ少年域の「健全な」男の子達であるのも理由であった。
チラチラと目に入るミアの綺麗な生脚。
そして大きくは無いものの微妙に揺れるので、つい目に入ってしまう胸部。
更にはキラキラと煌めく乙女の汗と甘い香り。
ダメ押しなチャーミングな笑顔を前に、少年たちが撃ち込みを躊躇してしまうのをお子ちゃまなミアは、ついと気が付いていない。
「みんな、弱すぎぃ。もー退屈! そうだ、先生のところに行こーっと。じゃあ、後の片付け、よろしくねー!」
ミアは少年たちの返事も待たず、練習用の木製棍を目の前の少年目がけて放り出す。
そして、健康的な生脚の全速力で走り出すのであった。
その自由奔放であまりに魅力的な姿に、少年たちは皆大きくため息をついた。
「はぁ、ミア様。全く自覚無いのかなぁ」
「計算しなくてアレだから、先生さんは我慢大変かも」
「あざと可愛いにも程があるよ、ミア
◆ ◇ ◆ ◇
「で、なんでボク。先生の家の片づけをしているのかなぁ??」
「確かに私は、『事件解決に協力』したのは無償でかまわないといった。だが、これは逮捕するのに必要であった証拠集めまでのはず。捕り物前の説明までやるとは言っていなかったぞ。その上、戦闘にまで巻き込まれた。その分の報酬は要求する。どうせ、今後も事件協力してくれというのだろ、ミアくん。なれば、君が私の家に入りやすく成れば一石二鳥ではないか? 第一、片付けしようと言い出したのはミアくんだ」
神殿を飛び出して先生、フィンの家に向かったミア。
しかし、彼女に待っていたのはフィンの家の大掃除と片付け。
フィンはミアに事件解決の報酬として、家の片づけを依頼したのだ。
ミアは、フィンの指示通りに床に積みあがった物を整理しながら、埃をはたく。
全開にされた鎧戸から差し込んだ太陽光の中、沢山の埃が宙を舞いミアの服にも降り注ぐ。
「それはそーだけど。あー、こんなに汚れるのなら、いつもの服で来なきゃ良かったよぉ」
「洗濯なら、掃除後にそこに洗濯魔道具に服を放り込んでおけば、乾燥までやってくれるぞ? 部屋の奥にシャワー魔道具もあるから、身体も洗えるし」
身体中が埃塗れになったと子供っぽく文句を言うミア。
それに対し、服を洗濯すれば良い、身体はシャワーを浴びれば良いと無神経に宣うフィン。
「この上着は
「あ……。すまん、ミアくん。すっかり昔のイメージで話してしまった。君が幼い頃、泥遊びをして真っ黒になったのを一緒に風呂に入って洗った事もあったからな」
この間の事件でも子供っぽい部分ばかり見せていたので、すっかりミアを幼い娘扱いしてしまっていたフィン。
しかし、今度は身体を捻って品を作り、己の魅力をアピールするミアを見てしまい、慌てて視線を外した。
「そーいえば、先生。ボクの裸、何回も見ているんですよね。責任とって貰わなきゃ。じゃあ、どうしようかなぁ」
「子供かと思えば、今度は乙女の武器を使う。君くらいの年頃の子は難しいな。とりあえず宣言しておくが、私は子供に欲情する趣味は無い。後、数年はして、大人のレディの所作を覚えてからプロポーズしなさい」
あまりに眩しく見えるミアから視線を逸らすフィンではあるが、彼女を完全に拒絶する事も出来ず、つい内心でずっと思っていた事をぼそりと呟いてしまった。
「えー! 先生のばかぁ。あれ? じゃあ、数年たったら、ボク。先生と結婚しても良いんだ。やったー!!」
「あ、それは言葉のアヤというか、言い間違いというか。こら、汚れた身体で抱きつきに来るんじゃない! 私まで汚れるし、そんな柔らかいものをおしつけるなぁぁ!」
「あー。先生、顔もお耳も真っ赤ぁ! ボク、先生の事が大好きぃ」
ミアのラブコメ展開に巻き込まれるフィンであった。
今日も王都は平和。
秋の晴れ渡る青空が広がっていた。
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