第6話 ミアと先生の大捕り物! その2:逆切れ犯人とミア。

「遺体は『語る』のですよ。自分の無念を晴らしてくれと」


 フィンは、高らかに被疑者に宣言をする。

 罪は見逃さないと。


 ……せんせー、カッコいいのぉ!


 ミアはビシっと決めたフィンに、更に惚れこんでしまい白い頬を薔薇色に染めた。


「では、続けましょう。被害者の遺体ですが、舌骨。首の中にある脆い骨が骨折をしていました。更に指の爪が何本も剥がれていました。これらは、とある殺害方法を行った際に残る証拠です。さて、ルクリュー殿。その腕の包帯の下を見せて頂けないでしょうか? おそらく酷く化膿しているのでしょうね。首を絞められていたフランクール氏が必死に爪がはがれる程の力で引っ掻いたのでしょうから」


 フィンの宣言に、驚愕の表情で思わず包帯で覆われた腕を庇うルクリュー。

 そのことより、ミアの目からも彼が殺人犯であることは明白だった。


「ど、どうして、まるでお前は現場を、俺がアイツを殺した時の事が見れるのだ? ま、魔法か?」


「これは魔法などではありません。これが科学、法医学というものですよ、愚かな殺人犯さん。完全犯罪などは不可能なのです。なお、フランクール氏が火事以前に亡くなっていた証拠ですが、彼の喉や口に煤が入っていませんでした。これは、火事以前に呼吸が停止していたということ。更に焼けた跡に生きていたら起こる生活反応。Ⅱ度の火傷、水ぶくれがどこにもない事から、既に死亡していた事が分かります」


 犯人に、次々と証拠を突き付けるフィン。

 本来であれば嘘だと言い張り逃げる筈のルクリューであったが、完全に犯行現場を再現するフィン相手に言い逃れる事をすっかり忘れていた。


「では、後は可愛い教え子に任せます。ミアくん、宜しくね」


「は、はーい。先生」


 すっかりカッコいい先生に見惚れて、頬を薔薇色に染めていたミア。

 いきなり先生に話を振られたのでびっくりしたが、直ぐに恋する乙女から正義の警察官の顔になった。


「先生の述べたとーり。貴方、オーバン・ルクリュがフランクール氏を殺害したのは明白です。ひっかき傷をちゃんと治療しなかったのも、どこで怪我をしたのかを詮索されるのが嫌だったんでしょ? それにさっき自分が殺したって自白したのも、ボク。ちゃーんと聞きました。大人しく縛につきなさい!」


 ミアは大きくもない胸を張り、ドヤ顔で逮捕を迫った。


「……どうして! どうして俺が捕まらなきゃいけない。悪いのはアイツ、店主だ。俺が賭け事で店の金をくすねたのも知っていたのに、今まで何も言わなかった。賭けの胴元が借金した証文を書き換えたからって、これまでの事を全部叱責しやがって。今まで黙ってたのなら、どうして最後まで……」


 ぶつぶつと自分勝手な言い分を呟くルクリュ。

 そんな醜い様子に顔をしかめるミアであった。


「早くそこから立て! そして大人しく捕まりなさい。さもないと……」


 我慢できないミアが伸縮式ロッドを展開したとき。


「オマエら、こいつらを全員殺せ! どうせ兵士達はデクの棒。やせっぽちの学院の先生とやらは戦う事もできまい。そして、メスガキ警官なんか怖くもない! ガキを殺さずに捕まえられたら、倍額の金を出すぞ。人質にしても良いし、犯してはずかしめてやってもいい。後は金をかき集めてギルド経由で外国に逃げれば、一生豪遊だ!」


 ついに極まったルクリュ、用心棒にミア達の排除、殺害命令を出した。


「おう!」

「ガキ相手かよ」

「ただの兵士相手なら、俺らは負けないな」


 大型のナイフや長剣を腰から抜く用心棒、いやゴロツキ。

 物騒な様子に、ただの捕縛員のつもりで同行してきた兵士たちは怯え震える。


「キミたち。危ないから、後ろに下がって私の護衛を頼む。ミアくん、そんな醜悪な雑魚相手にキミは負けないよな。頑張れ!」


 混乱気味の兵士らに指示を飛ばし、一旦部屋の奥。

 武装したゴロツキらから距離を取るフィン。

 彼は、ミアの小さな、しかし力強い背中を見ながら声援を送った。


「うん、先生! 今から二分で全員ノシちゃうね。さあ、誰からでもどーぞ」


 大好きな先生から声援を受けたミアは、ゴロツキらを挑戦的な表情で睨みつける。

 彼女は、視線をフィンには向けずにVサインで応答する。

 そしてロッドを左手でくるりと回し、サインをしていた右手でクイクイとゴロツキらを挑発した。


「クソガキがぁ。オマエら。まず、そこのメスガキから始末しろ!」


「おう!」


 既に戦闘準備をしていたミアに飛びかかる長剣の男。

 その意外と鋭い斬撃を、軽いステップでひらりと躱すミア。


「甘い! ボク、これでも神官戦士1級なんだよー!」


 身体強化魔法を使い、身体から金色のオーラを吹き出すミア。

 舞うような動きで一気に剣士の背後に回り込み、急所である腎臓付近をロッドの石突でドスンと突いた。


「ぐぅぅ」


 痛みに苦しみ、剣を取り落とした男の顎をガツンとロッドで殴り上げるミア。


「これで一人! さあ、次は誰かな?」


 幾本か歯を失いぴくぴくと倒れている男の水月に、容赦なくトドメとロッドを突き下ろすミア。

 次は誰が相手かと催促をした。


「くそガキがぁ!」

「挟み込むぞ!」


 今度は大型ナイフをもった男二人が、ミアを挟み込むように動いた。


「初動は合格。でも、守るべき雇い主を放置はダメだよ!」


 そうミアが呟くと、囲んだ二人を無視して彼女は雇い主たるルクリュに飛びかかった。


「おい! まさか、くそぉ」


 予想していなかった攻撃に狼狽えるも、隠し持っていたフリントロック型拳銃をミアに向けるルクリュ。


「硝煙の匂いで、銃を持っているのは最初から分かってたよ。ほいっと!」


 だが、反射速度も強化魔法で向上しているミアにとって、素人の単発拳銃など怖くない。

 ロッドを槍の様に扱って拳銃を簡単に弾き飛ばすミア。

 後は、上から鎖骨付近へロッドをズドンと薙ぎ降ろした。


「ぎゃぁぁ!」


 鎖骨が完全に折れ、その場で暴れまわるルクリュの水月に慈悲の一撃。

 更には生脚での蹴りを落として気絶させるミア。


「これで二人目。さあ。雇い主はもう居ないよ。今なら一発殴ってで終わらせてあげるけど?」


 ロッドの石突をカチンと床に叩きつけ、ニタリと挑戦的な笑みを浮かべて立ち尽くしていた二人の用心棒を睨むミア。


「か、勘弁してくれぇ」

「俺達の負けだぁ」


 その強さと殺気に圧倒された男たちはナイフを捨て、情けなくも両腕を上にあげて投降した。


「えー。抵抗してくれないんだ。じゃー、正当防衛でボク。殴れないよー」


「はぁ……。ミアくん。君が強いのは十二分に分かっていた。ただ、もう少しレディらしく戦ってほしいものだな」


「えー!? 先生、ボクってレディらしくないの? ちゃんと正々堂々と戦ったんだけど?」


 フィンは大きくため息を吐き、愛すべき教え子がまだまだレディに程遠い「お子ちゃま」なのを実感した。

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