第22話 大人気ねぇ!

 対戦相手であるはずの天城銀河の手助けを得て、最強の男が使う最強の魔法の簡易版が完成した。


「じゃあ行きますよ天城先輩」

「あそこまで手伝ってやったんだ。半端な出来じゃ許さないぜ」

「ええ。それじゃ――ドラゴニックディメンジョン・エミュレート」


『……魔法起動。対象物質を検索中。確認。魔法生命体を生成します』


 今度はエラーにならず、魔法の生成に成功。

 バトル場の端に置いてあった重機に俺の魔力が流れ込む。

 そしてクレーン車やショベルカー、果てはダンプカーなどが合体し、竜を模したロボットのような姿に変形した。


「これが俺のドラゴン……ドラ……ゴン?」

『……。ドラゴンです』

「いやどこが!?」

『……。ショベルカーのパワーショベルの辺りがこう……ドラゴンの首と頭ぽいですよ』

「見立て変形にも程がある!?」


 仮にもAIが「ぽい」とか使うなよ。


 とはいえ、今はこれが精一杯。

 ゼロから素材を吸収してドラゴンを作るなんて高度な魔法は精製できないのだ。

 だからあんな風に素材の味そのままです! って感じのなんちゃってドラゴンが完成する。


「ギチギチギチ」

「ジュモオオオオク」


 デザインに疑問は残るものの、俺の作った重機ドラゴンはユグドラゴンとにらみ合い、メンチを切っている。


「それじゃあいよいよ第二ラウンドといこうか」

「そうっすね」


 天城銀河との戦いはセカンドステージへ。決闘は大怪獣バトルの様相を呈している。

 ユグドラゴンがツタを延ばしてこちらを拘束しようものなら、重機ドラゴンはカッターで切断。

 重機ドラゴンがドリルで敵の体に風穴を開ければ、ユグドラゴンは植物由来の再生力で即回復。


「朝倉……魔法って楽しいよな」

「なんすか急に」


 大怪獣バトルを見守っていた俺に、天城銀河が語りかけてきた。


「お前、ランキング1位を目指してるんだろう?」

「ええ、まぁ」

「なら、小賢しいことは考えるな。まずは魔法を徹底的に楽しめ。大丈夫だ。この俺を相手にここまでやれたお前なら、トップなんて楽勝だ」


 まぁここまでやれたのは全部あんたのお陰なんですけどね?


「何を釈然としない顔をしているんだ。大丈夫だ安心しろ。俺より強いやつなんていないからな」

「なんかもう決闘が終わったみたいなこと言ってますけど……まだ結果わかんないですよね?」

「……!? はは、お前やっぱ面白いな。この俺に勝つ気か?」

「ええ。ここまで来たら、最強に勝っておきたいっすね。重機ドラゴン!」

「上等だ。迎え撃てユグドラゴン!」


 二体のドラゴンが違いの全てをぶつけ合う。


 そして、大怪獣バトルを制したのは――。


「あ、相打ち!?」

「ははっ。どうやらそのようだ」


 二体のドラゴンは同時に力を使い果たし、消滅した。

 ユグドラゴンは光の粒子となって消滅し……。

 重機ドラゴンはガチャガチャと物凄い音を立てて、バラバラになって地面に転がった。

 当然だがドラゴンを作る材料に巻き込まれた重機たちは全部壊れた。


「引き分け……いや」


 そんな訳はない。

 対面の天城銀河は「続きいくぞ」とばかりに懐から携帯型のSSDを取り出す。


 そして。


「ディメンジョン!」


 新しいドラゴンを呼び出した。

 そういえばあれは何かと思っていたが、生成したドラゴンを記録デバイスに保存し、好きな時に呼び出すことができるようだ。


 使用した素材を一度分解し、魔法生物として変換しているからこそできる離れ業。

 俺の作ったドラゴンは操作魔法の効果を使って組み上げたプラモみたいな存在。

 保存はできない。その辺は要改良だな。


「どうした? 新しいドラゴンを作らないのか?」

「残念ながら魔力切れ。お手上げです」


 俺は降参の意思表示として、両手を上げた。


「それじゃあトドメだ朝倉。何か言い残すことはあるか?」

「はは……久々に魔法、楽しめました」

「いい答えだ」


 負けて悔しいという気持ちがないかと言われれば嘘になる。

 だが、新たなるドラゴンのブレスを受けて敗北して。

 それでも清々しい気分になれたのは、きっと目の前の先輩が「魔法は楽しい」って気持ちを思い出させてくれたからなんだろうな。


「大丈夫か? 立てるか?」

「あざっす。大丈夫です」


 ライフがゼロになり、俺は決闘に負けた。


「それじゃ焼き肉の前に勝者の特権を使わせて貰おうか」

「はい。なんなりとご命令を。あ、エッチなのは禁止らしいですよ」

「しないって。それができてたら今ごろ俺はハーレムキングだろう」

「確かに」


 決闘で負かした女子を片っ端から嫁にしていくスタイルか。

 もし可能ならそういう命令をしそうなヤツはいるが、この先輩はしないんだろうな。


「それじゃあ命令だ朝倉。あと一年後。俺が卒業する前にもう一度決闘しよう」

「え……構いませんけど。本当にそんなんでいいんですか?」

「ああ。もう決めた。最後に戦うのはお前がいい」

「……わかりました。まぁ一年くらいあれば、越えられない相手じゃないかな」

「おいおい俺に勝つつもりか? 可愛くない後輩め」

「はは。あ、生徒会長が来ましたよ」


「本当だ。おーい会長様ー! 俺たちもう腹ペコだ。車呼んで……いやまて朝倉。なんか嫌な予感がする」


 さっきまであんなに飄々としていた天城銀河の顔が青ざめた。


「瀧音が怒ってる」

「え? ニコニコしてるように見えますけど」

「朝倉! お前は何もわかってない。あの顔は怒りを通り越して一周してしまった時の顔だ……あ、そうか! 建築資材と重機を滅茶苦茶にしたから」

「あっ……」


 そういや全く気にしてなかったけど……。あれこれガチでやばいヤツか?


「ま……ままままままさか弁償……とか? お、俺ん家金なくて」

「い、いや大丈夫だ。瀧音ならなんとかしてくれる。そこは心配ない。ただ……」

「ただ……?」

「この後はお説教になりそうだ」

「ええ!? 焼き肉は!?」

「その件につきましてはまた今度……だな」


 そんなマジかよ……。

 俺の焼き肉……。


「二人とも。決着はついたようだな」

「「はい……」」


 本当だ。やってきた生徒会長は穏やかな笑顔の奥で、なんか「ゴゴゴ」っていう効果音が聞こえてきそうな圧を放っている。


「怖ぇ……」

「大丈夫だ朝倉。誠意を見せれば瀧音は許してくれる」

「誠意? 土下座とか?」


「朝倉一年生。君がこの件に関して責任を感じる必要はない。よって土下座も結構だ。重機の件は生徒会でなんとかしておこう。今日は疲れただろう。寮に戻ってゆっくり休むといい」

「甘っ!? 対応甘っ!? どうしちゃったんだよ生徒会長様。あ、さては会長様、朝倉みたいな女顔の男子が好みのタイプのようだな」


 表情は崩れなかったが、明らかに生徒会長がキレたのがわかった。

 地雷を踏むってこういうことなんだな。


「天城庶務。今回のこの件、ことの発端は君にある。まずは誠意を見せて貰おうじゃないか」

「せ、誠意?」

「そうだな。まずは正座だな」

「え……ここ土……」

「まずは君の誠意が見たいと言っている」


 なんかもう夫婦みたいだな。仲がよくて羨ましいことで。

 天城銀河が涙目で「助けて」欲しそうな感じにこちらを見ている。


「あ、じゃあお先に失礼します」

「あーさーくーらあああああ!」


 俺、天城先輩のこと一生忘れません。

 そう心で謝罪し、寮に戻った。

 焼き肉は惜しかったが、生徒会長さんの説教を回避できるなら安いものだ。


「くっ……こんなことならもっと過酷な罰ゲームを言い渡しておけばよかった」

「天城庶務。本当に反省しているのか?」

「はい……」

「では誠意を見せてもらおうか」

「誠意?」

「土下座とか……?」

「いや、だからここ土……」


 建設現場から立ち去る中、最後にそんなやりとりが聞こえてきた。




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