第19話 揺れるマインド
名前:朝倉澪里
年齢:15歳
性別:男
誕生日:3月3日 AB型
学年ランキング:138位
学力:70
運動能力:80
魔力量:―
固有魔法:0
影響力:22
学内活動:11
「あれだけやって138位か……いや。実力通りか」
場所は第四会議室……という名の、糸式クラスタ専用ルームである。
長年物置として使われていたためかまだまだ不要なものが多いが、俺の頑張りでようやく事務所的な使い方くらいはできるようになった。
椅子に腰掛けながら、俺は昨日の戦闘を思い出す。
「もし糸式がいなくて俺一人だったら、果たして勝てていただろうか」
改造インパクトも改造チャージングも魔物たちに対して効果的なダメージを与えることができた。
一方、初の合体魔法として作ったインパクトスタン。
あれはほぼ不発。狙った通りの効果を出すことはできていなかった。
昨日の戦いは金大寺と戦った時の決闘とはまるで違った。
一歩間違えれば死。真剣勝負。命の駆け引き。
そんな戦いの中でカードとして切るにはあまりにも信頼感に欠ける。
「正直、学年3位の糸式のことを舐めていたかもな……」
初日に金大寺に快勝できたことで、調子に乗っていた。
魔法具、天呪の鎖による拘束からの束縛魔法による敵の弱体化。そしてフィニッシュまでが完成されすぎている。
さすが伝統的な家系に伝わる固有魔法だ。
「ああいうのを勝利の方程式っていうんだよな」
固有魔法という芯があるからこそ、糸式には勝利までの明確なビジョンが存在する。
言わば戦闘スタイル。
俺にはまだそれがない。
それが昨日の戦いでよくわかった。
わかっている。まだまだこの学園に来て二週間。焦るような時間じゃないことは頭では理解している。
汎用魔法だってこれから沢山集まるだろうし、そこから新しい魔法をきっと作り出せる。
だが。
最大のライバルであり乗り越えるべき壁。糸式鈴芽との明確な差を見せつけられて、俺はシンプルに不安を感じている。
このままでいいのか。ショボい汎用魔法をちまちま改造していくだけで、ランキング上位の連中に勝てるのか?
「入るわよ?」
その時だった。
部屋のドアが叩かれる。声の主は糸式だ。
「ああ。入っていいぞ」
「うん。それじゃ」
「随分遅かったな……え?」
現れた糸式は、なんだかキラキラしてみえた。いつもより可愛いというか、綺麗というか。
あ、そうか。普段よりメイクに気合いが入っているのだ。
しかし一体どうして?
「その……大事な話があるって言うから。ちょっと気合い入れてみました。どう?」
「いやすげー可愛いとは思うんだけど……」
なんでそれが気合い入れてお洒落することに繋がるのだろう。
天才というのは得てして常人には理解できない行動をすることがあるというのは知っているが、糸式の考えていることは俺にはよくわからない。
「それで。大事な話って何かしら? 大丈夫。すぐに聞かせて。覚悟はできてる」
「覚悟? まぁ昨日は中途半端になってしまったからな。ええと。俺さ。実は……」
「うん……実は?」
「時宮天災の生まれ変わりかもしれな――なんでクソデカため息!?」
俺としてはかなりの一大決心のつもりなんだけど。
その後、少ししょんぼり気味の糸式に、俺は受験以降に起こったことを全てを打ち明けた。
魂の抜けたような顔で聞いていた糸式も、次第に真面目な表情になっていく。
「――ってわけなんだけど……どう思う?」
「どう思うも何も……私にはわからないわ。ようやく来た厨二病……とはいっても、朝倉くんは時宮のことを知らない状態でその夢を見たのよね……ううむ」
「そうなんだよ。それが何かヒントにならないかな?」
「ヒントもなにも……私だって時宮のことなんてほとんど知らないもの。歴史上の人物だけど、本当に居たのかさえ不明。ひょっとしたら架空の存在なんじゃ? って言う人もいるくらい」
「一度だけ声が聞こえた気がしたんだがなぁ……」
糸式に言わせれば転生魔法なんて聞いたこともないというし。
「結局真相はわからないけど、ひとつだけ言えることがある。例え貴方が本当に時宮天災の生まれ変わりなのだとしても。そうじゃないんだとしても。朝倉くんが私にとって大切な人ってことは変わらないわ」
「糸式……」
「不安ならなんでも話してね?」
「はは。そうする」
とりあえず、転生うんぬんに関してはよくわからないまま。
俺にどうして特別な力があるのかもわからない。
「でも、その魔法式の解析能力は朝倉くんの大きな武器よ。今後、糸式クラスタでは手に入れた汎用魔法の情報は共有していきましょう」
「それは助かる。あと固有魔法なんだけど……」
眠るのを待つこともなく、糸式の使った束縛魔法の魔法式は昨日の戦闘中に頭の中に叩き込まれていた。
以前よりスムーズに。
「固有魔法を魔法式として脳内にインプットする能力。強力だけど、現状使い道はないのよね?」
「ああ。アナログにもデータにも出力する手段がないんだ。まぁやってやれないこともないが……」
「現実的じゃない……ってことよね」
「そうなる」
汎用魔法の中でも基礎魔法とよばれるほどシンプルな魔術式をしたインパクトでさえ、129万文字。
速筆で有名な小説家ですら、一週間で出力できる文字数は10万文字だと言われている。
日本語でない文字。さらに意味のない記号だらけの文章。それを手打ちで入力するのにどれほどの時間がかかるのか。
考えただけでもゾッとする。
「出力手段さえあれば、チート能力なんだけどな」
「確かにそうね。そういうことのできる魔法を探すのも、今後の課題かしら」
「怒らないのか?」
「怒る?」
「いや。固有魔法って代々受け継がれてきた大切なものだろう? ポッと出の俺がさらっとコピーしちゃって、嫌な気分にならないのかなって」
正直そこら辺の不安は大きい。
この能力のことがバレてしまったら、魔術師たちの輪から爪弾きにされてしまうのではという恐れがある。
「私は特にないわね。どうせ、朝倉くんは将来的に糸式家に……私と……して……ゴニョゴニョ」
「ん?」
「なんでもないわ。でも確かに貴方に解析されることを嫌がる人もいるかもしれないから、この事は私たちだけの秘密にしておいた方がいいかも」
「だよな……」
その後、俺は糸式が入学後に手にした汎用魔法をコピーしてもらった。
一度ダウンロードされた魔法は、持っている者が許可すれば、データ転送で簡単にやりとりすることができるのだ。
「いい改造ができたら私にも使わせてね?」
そう言って、その日は別れた。
帰り道、俺は糸式から貰った汎用魔法の効果をチェックしていた。
「いくつかもらったが……実践的な魔法はこれだけか」
マジックシールド。発動時に魔力を消費し、魔法物質でできた盾を出現させる。物理、魔法による攻撃に対応可能。発動時の魔力消費量によって強度や大きさが変化する。
「流石糸式の見つけた魔法。つえーけど改造の余地がない……」
条件こそ聞かなかったが、この魔法はそこそこ入手難易度の高い、強い魔法だろう。
強い分、完成されすぎていて、俺が手を加える余地が見つからない。
「こんなんで……俺、本当にやっていけるのか」
「見ーつけた」
「は?」
その時。背後から何者かにがっちりと肩を組まれた。
馴れ馴れしい態度を不快に感じながら横を見ると、赤茶色の前髪を上げたチャラい髪型の男と目が合った。
これからナンパにでも行くのかという感じのイケた髪型にも関わらず、その気怠げな目からは覇気や欲望といったものは感じられなかった。
この人……どこかで。
「あ、生徒会庶務の人だ」
「覚えててくれて嬉しいよ」
以前、防災用の備蓄品を交換したときに一緒に肉体労働をしたことがある。
「ええと庶務さん?」
「天城。
「ええと天城さん。今日はどんな用件で? また仕事ですか?」
「いいや。今日は生徒会じゃなく、俺個人の用事があってやってきた」
個人的な用事? 一体なんだろう。
「入学から大体二週間。そろそろ汎用魔法も何個か手に入れた頃合いだろう?」
「まぁ……ぼちぼち」
「よしイけるな。
「なして!?」
おかしい。話の段階を数段踏み飛ばしたような気がする。
っていうか……おいおいちょっと待てよ。
天城銀河って確か……。
「……? なしてって……。ああそうか。大丈夫だ心配いらない。決闘の相手は俺だ」
「疑問点はそこじゃないっす」
間違いない。
天城銀河。三年生のランキングトップにして全学年ブッチギリのナンバーワン。
間違いなく学園最強の男……。
そんな男と戦って……勝てるわけがない……。
「いや……俺なんかが天城さんと戦って……勝てるわけないし。遠慮したいっていうか」
糸式にさえ、差を見せつけられて悩んでいるのだ。
こんな状態で学園一位と戦って得られるものがあるとは思えない。
だが「断りたいな」って雰囲気を出している俺を完全無視して、最強の男はこう言った。
「残念だな。決闘後の打ち上げは生徒会のおごりで焼き肉を予定してるんだが……」
「いつ
こうして。
焼き肉にまんまと釣られた俺は、何故か学園最強の男と決闘することになった。
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