第16話 クラスタ

 放課後。

 俺は汎用魔法を探すため、校舎内をうろついていた。

 魔法式をコピー&ペーストして新しい魔法を作る! と意気込んだはいいものの、作業は難航していた。

 いくらなんでもコピー元の汎用魔法が少なすぎるのだ。

 一応いくつか作ってみたが、どれも似たり寄ったりな出来になって面白くない。

 という訳で、今日も汎用魔法を求めて学園内を探索中というわけだ。


「あれは……糸式?」


 ふと学園の出口の方を見ると、糸式がチラシのようなものを配っていた。

 さながら部活の勧誘のように見えるが、確か糸式は部活動には参加していなかったはずだ。


「あの。クラスタに興味はありませんか?」


「あーもう別のクラスタに入ってて」

「糸式家のはちょっと……」

「興味ないでーす」


 糸式、全敗だな。誰もチラシを受け取らない。


 あんな美少女が配っていれば受け取るくらいのことはしそうだが。やはりこの学園の生徒たちは一筋縄ではいかないといったところか。


「お疲れっす。部活か何かの勧誘か?」

「あら朝倉くん。丁度いいところに。部活の勧誘じゃないわ。クラスタの勧誘よ」

「クラスタ?」

「あ、そうよね。知らないわよね……」


 もちろん全く知らないので頷く俺。

 糸式は呆れるようなことはせず、寧ろ嬉々として教えてくれた。


 クラスタ。


 七星学園には「はじまりの七家」の血筋を継ぐ生徒たちが、それぞれリーダーとなって結成したクラスタと呼ばれるグループが存在する。

 各クラスタは、七家の威光を守りつつ、学園内での影響力を強めるため、さまざまな活動を行っている。


 クラスタの主な活動には、次の三つだ。


 結束力の強化。

 リーダーを中心に、メンバー同士が力を合わせて、魔法や戦術の向上を図り、共に切磋琢磨する。


 メンバーのランキング支援。

 ランキングシステムで、メンバーの成績を上げるための訓練や指導を行い、チーム全体で上位を目指す。


 魔物討伐。

 魔物討伐はクラスタにとっての重要な任務であり、討伐に成功することで、学園内外での名声を高めている。


 各クラスタの活動方針や戦術は、リーダーであるはじまりの七家によって異なり、独自の特色を持っている。

 クラスタ間の競争は熾烈だが、魔物討伐や学園外の脅威に対しては時に協力し、共同でチームを編成することもある。


 七家の血筋が学園に常に全員揃っているとは限らない。血筋持ちのリーダーがいない時期は、その家系のクラスタは休止状態となる。


「悔しいけど糸式家はお父様の代から十数年近くクラスタがなかった。だから実質ゼロからのスタートなのよね……」


 聞けば現状クラスタの勢力は二年生に集中しているらしく、金大寺兄の率いる金大寺クラスタと抹消院まっしょういんクラスタのツートップ状態らしい。


 それの下に他三家が居て、そのさらに遙か彼方後方に糸式クラスタがあるのだとか。


「糸式家ってもしかして……」

「言わないで!」


 勢力として七家の中でも最弱なのか? と言おうとしたが糸式に遮られた。


「四年前、足立区に出現した魔王級のモンスターを覚えているでしょう?」

「いや知らん……え、魔王級?」


 俺が小学生の頃にそんなのが現れてたの? 足立区に? 


「その討伐作戦で、糸式家は優秀な人材を多く失った。私のお父様も……」


 その戦いで、糸式家は当主だった糸式父をはじめ、多くの優秀な魔術師を失った。


 今は糸式の母親が代理で当主を務めているが、かなり厳しい状況なのだという。

 そしてその情報は魔術師界でも当然広まっている。


 クラスタに入ることは、七家のどこと縁を強めるかという側面も持つ。


 未来のない糸式家のクラスタに入るメリットはないと、多くの生徒が判断しているということだ。


「そうか……悪かったな」

「そんな。頭を上げて。私たちは魔術師として当然のことをしたまでよ」

「それでも、礼を言わせてくれ」


 魔王級ってのがどんな魔物なのかわからないが、俺や家族が今平和に暮らせているのは、糸式のお父さんや親族たちが命を賭けて戦ってくれたお陰だったのだ。


 感謝してもしきれない。


「いいのよ別に。今はちょっと落ち目だけど……私が必ず糸式家を復興させてみせるわ!」


 糸式の目に炎が灯る。本当に強い子だ。


「その意気だ糸式!」

「で……当然、朝倉くんも協力してくれるわよね?」

「はっ……しまった」


 糸式鈴芽……なんという策師。

 この話の流れで糸式クラスタに入らないという選択肢は存在しないだろう。


「わ、わかった。入るよ」

「心強いわ! これからは仲間同士よ朝倉くん。友達以上の関係……って感じかしら」

「水臭いぜ糸式。友達以上なんて、ずっと前からだろ?」

「え? 朝倉くん、それって……」

「好敵手と書いてライバル。俺たちは友達なんてヌルい関係じゃない。それ以上の……ってなんでクソデカため息!?」


 俺がメッチャいいこと言ってたじゃん今! ため息つくなんて酷いぜ糸式。


「まぁでも入って貰うからにはちゃんとメリットは用意しているわ」

「メリット?」

「そう。まずクラスタに入れば影響力の項目が加点される。それと、魔物の討伐は学校としての活動として認められるから、学内活動の点数もドンドン上がっていくわよ」

「マジか!」


 学内活動、この前の生徒会主催の非常食交換に参加したけど1点しか増えてなかったんだよな。

 軽く絶望したんだけど、そうか。クラスタに入れば上がっていくのか。


「一応聞くけど、俺が一人目のメンバーってことでいいのか?」

「ええ。しばらくは二人きりよ。頑張りましょう」

「そうだな……勧誘しまくらないとな。ところで」

「……?」


 最後に一つだけ気になったことを聞いてみた。


「ずっと気になっていたんだ。なんで糸式があの公立中学に通ってたのかって。もしかして」

「ええ。実は足立区の地下にはかなり大きな霊脈があるの」


 魔王級の魔物とやらが現れたのも、その霊脈の影響らしい。


「足立区の霊脈は糸式家の管轄だから、いつでも動けるようにってことで、私も足立区の中学校に通っていたのよ」

「なるほどな。ありがとう。全て納得がいった」


 まぁ糸式ほどのお嬢様があんな掃き溜めに来る理由なんて、そんなところだよな。


「長年の謎が解けた。あ、もしかしたら足立区の治安が悪いのも、その霊脈のせいなのかも。ほら、霊脈のせいで人々の心が乱されてみたいな?」

「いえ、治安に関しては関係ないわ。素で治安が悪いのが足立区よ」

「関係ないのかよ!」


 関係なかった。


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