第15話 再び魔法改造
「ふぃ~疲れた」
古くなった防災用品の一部を倉庫から搬出する作業は二時間程度で終わった。
「ご苦労だった諸君。礼と言ってはなんだが、欲しいものがあったら持っていってくれてかまわない。消費期限まであと二ヶ月だから、早めに食べるのは前提だがな」
今回のイベントの企画者である坂牧瀧音の労いに、参加した生徒たちは苦笑いした。
「いらないよねぇ」「ねぇ」といった顔。
「じゃ、俺が全部貰いまーす」
「ぜ、全部か? 朝倉一年生……」
「あ、全部は言い過ぎました。2箱くらいで大丈夫っす」
乾パンや固形栄養食などの非常食が詰まった箱を受け取る。
明日にでも学園から実家に発送しよう。家族のおやつにでもなれば、儲けものだ。
へへ。苦労した甲斐があって、いい報酬が手に入った……ってちがーう。
魔法だ魔法! 汎用魔法が欲しいです!
「では、皆のスマホに報酬の汎用魔法を送信した。確認してくれ。では、今日は解散とする」
時刻は18時丁度。
流石生徒会長。終了時間が予定通りだ。
ああいうできるお姉さん……みたいな人って憧れるな。
っていかんいかん。美女に見取れている場合じゃない。
日も暮れてきたし、早く寮に戻らなくては。
***
その日の夜。
「いいものを見せてやるぞ忍崎!」
「「いいもの?」」
部屋に戻った俺は手に入れた汎用魔法を自慢してやろうと忍崎に声をかけた。
すると忍崎は両方振り返った。
「あ。違う。ふたりの方」
「「どっちもふたりなんだけど」」
「ややこしいな! 男の方だけでいいよ」
俺の言葉に男忍崎が「なになに~?」と近寄ってきて、女忍崎はこちらに興味を失ったように読んでいた雑誌に視線を落とした。
いや本当、一つの魂でバラバラのことやるってどういう感覚なのだろう。
「実は今日、汎用魔法を手に入れてな。便利だから見せてやろうと思って」
「へぇ……どんなやつ?」
「みてろよ――チャージング!」
スマホに魔力を注ぎ、魔法を発動させる。
「えっと、何も起こっていないように見えるんだけど?」
「よく見てみろ。ほら、ここだ」
「こ、これは!? スマホが充電状態になっている!?」
生徒会主催の雑用を終えて手に入れた汎用魔法はチャージング。
魔力を電気に変換し、手にしているバッテリーを充電できる魔法だ。
「どうだ? この魔法さえあればもう一生モバイルバッテリーなんて持ち歩かなくてよくなるぞ!」
「喜んでいるところ悪いんだけどさ。それって触れていないと充電できないんだよね?」
「ん? まぁそうだけど」
「それって非効率じゃない?」
「なっ……言われてみれば確かに……」
スマホを操作している時だったらいいが、スマホから手を離したら充電は止まる。
普通に不便なような気がしてきた。
「一発でフルに充電できる魔法をゲットしてから自慢してよね」
「ぐぬぬ……」
「使える汎用魔法っていうのはどういうものか、見せてあげるよ――エイリアス!」
まるで「ボクの方がいい魔法持ってるもんね」と言いたげに忍崎が魔法を発動させる。
すると、忍崎の周囲に三体ほど、ホログラムのように半透明の忍崎の姿が投写された。
「すげぇ! これ分身の術じゃん!」
「魔力消費激しいけどね。どう? すごい魔法でしょ」
「どこで手入れたんだ? 教えてくれ!」
「ふふ。なーいーしょ~。便利な魔法が欲しいなら自分の能力を駆使して頑張らないとね~」
「くっ……コイツ」
昨日、貴重な休日を潰してお前ら用の二段ベッドを組み立ててやった恩をもう忘れたようだな。
「まぁ明日の朝食のゆで卵を譲ってくれるなら……コピーデータをあげてもいいけど?」
「いや……いい。自分で探す。ゆで卵は誰にも渡さない」
俺は部屋を出て、ラウンジに向かう。
夜20時のラウンジは珍しく人がいなかった。
丁度いい。ちょっと集中力を必要とする作業が必要だからな。
「ええと。テキストデータを開いてっと」
俺はチャージングの魔法式を確認するため、テキストデータを開いた。
この前と同じように、意味不明な文字データが表示される。
それを上から読み解いていく。
すると、消費魔力の設定箇所にインパクトの時と同じようなテキストを発見する。
どうやらここの文字で電力の供給スピードを調整しているらしい。
「ここの文字を削除すれば、一気に100パーセントまで充電できるようになるはず……でもなぁ」
よく考えてみたら、一気に充電して大丈夫なのだろうか? スマホやゲーム機などの充電がゆっくりな理由って、バッテリーに負荷をかけない為なんじゃないか?
くそ……この手の知識はまるでないから、本当に充電して大丈夫なのかわからない。
「爆発とか発火とかしないよな? ちょっと怖いから……やめておくか」
明日、中古ショップにでも行って安いバッテリーを探しに行くか。
とりあえず保留して、続きを眺めてみる。
膨大な文字データを下へ下へとスクロールしていく。
「あ……この文章。ビッグバイトの魔法式と同じだ。物体に対しての項目か……ん?」
ビッグバイト。金大寺が使った強化魔法だ。ビッグバイトは金大寺家のDNAに刻まれた魔法式を元にした固有魔法。
だからテキストとしての魔法式なんて存在しないはずなのだが……。
「あれ……俺わかるんだけど……」
俺の脳内には何故かビッグバイトの魔法式が全て記憶されていた。
「でもどうして……あっ」
そういえば、アイツと戦った日の夜、夢を見たんだ。金大寺が使った魔法が頭の中にブチ込まれるような感覚に襲われた。
翌日の朝に忍崎の無駄にデカい乳を見たせいですっかり忘れていたが……。
「でも、どうして……もしかして、これも時宮天災の力?」
この現象がすべての魔術師に起こっているとは考えにくい。
だとすれば、俺がすっかり保留にしていた時宮天災の件。ということになる。
「正直そっちも調べなきゃなんだよなぁ……」
俺は時宮天災の転生した姿なのかもしれないという疑惑はずっとあるし、確かめたい気持ちも嘘じゃないが……。
ただなんとなく、秘密にした方がいいような気がしてならないのだ。
これはもう第六感なのだが。
「とはいっても、頭の中に魔法式が浮かんだところで、だから何? なんだよなぁ」
まぁ頭の中にあるこの魔法式を文字起こしすれば漫画でよく見るチートコピー能力者として名を上げることはできるのだろうが。
勘弁してくれといいたい。
数百万文字だ。
しかも日本語や英語ではなく、まったく意味のない記号。
それを打ち込んでいたら、時間がいくらあっても足りない。
それこそ脳内に浮かんだ文字を一括でデジタル出力できる汎用魔法でもあれば話は別だが。
そんな便利なものはないだろう。
現実的じゃない。
「いや待てよ。チャージングとビッグバイトに全く同じ文字を使った箇所があったということは……魔術式は無秩序に見えて、やはり決まったルールに則って書かれているということか……それなら……」
各魔法から強いことが書いてある部分をコピペして……つなぎ合わせれば……。
「俺だけのオリジナル魔法が作れる……?」
上手くいくかはわからない。
だが、もし成功すれば……俺がこの七星学園を勝ち残る上で、間違いなく強力な武器になる!
やってみる価値はあるはずだ!
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